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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第332話 事後処理と説明

 足も翼も無くした怪鳥は、全員の攻撃をいっぺんに首に受けごろりと大きな頭が転がった。

 するとさすがはレベル466といった所か、9分割しても大量の経験値を得て、全員にレベルアップのアナウンスが届く。


 竜郎は、《『レベル:137』になりました。》と。

 愛衣は、《『レベル:129』になりました。》と。

 カルディナは、《『レベル:81』になりました。》と。

 ジャンヌは、《『レベル:79』になりました。》と。

 奈々は、《『レベル:81』になりました。》と。

 リアは、《『レベル:113』になりました。》と。

 アテナは、《『レベル:82』になりました。》と。

 天照には、《『レベル:49』になりました。》と。

 月読には、《『レベル:49』になりました。》と。


 それから全員に《魔王種殺し》という称号が贈られ、愛衣とリアにはレベル100を超えたために《越境者》の称号も贈られた。



「「「「「「「………………」」」」」」」



 また妙な称号が増えたのと、レベル急上昇に全員が黙って自分のステータスを覗く中。終わった事を早く伝えた方がいいと思い直した竜郎が初めに口火を切った。



「とりあえず色々気にはなるが、もう大丈夫だと報告しに行こう」

「ああ、そっか。ちゃんと報告しに行くまで、ずっと警戒しっぱなしだろうし。

 素材回収したら早めにいかなきゃね」



 という事で行動を再開し、腐らない様にしっかりと散らばった肉塊も含めて《無限アイテムフィールド》に時間を止めた状態で収納した。



「あとは……ここを風山に戻す必要ってあるか?」

「もう山と言うよりでっかい岩だよね。これじゃあ」



 改めて世界一の標高を持つ山で有名──だった現バンラモンテを見れば、《痛受痛反治癒》を数発貰った結果、上の方だけを斜めにスプーンで掬ったプリンの様な形で、風山だった場所だけを綺麗に残して後は消滅していた。

 そんな場所を例の化石を埋め直して風山にしたところで、もはや目立ちすぎて小妖精たちも集まらないだろう。



「まあ、そこはギルド側と話し合って決めればいいと思います。原因を説明する時に、風山の話もしなければいけませんし」

「それもそうですの。では一旦そのままにして戻りますの」



 という事で怪鳥との戦闘でかなり変わってしまった地形は放置し、竜郎とカルディナは解魔法で最後の黒菌チェックをしながら、後の皆は久しぶりの戦闘らしい戦闘にスッキリした顔でギルド職員たちの待つ結界の境界線へと戻って行った。


 何時も入る時に通っていた結界の境目を潜ると、ここからでもあの三十メートルはある怪鳥が見えていたらしく激しい戦闘音、山やその周囲一帯の森が消えてしまった事もあり、一体何が中で起こっていたのかと矢継ぎ早に質問をされた。



「そんなに一度に問いかけられても困りますし、詳しい話はギルド長に直接言うつもりですから、知りたい方はそちらから聞いて下さい」

「で、では、一つだけ。一つだけお聞かせください」

「はい。一つくらいならいいですよ。なんですか?」



 顔なじみの責任者でもあるギルド職員の女性が代表して、竜郎の前に立って一番聞きたかった事を口にした。



「もうここは、安全なのでしょうか?」

「ええ。漂っていた黒菌も、その発生源も駆逐しました」



 そう竜郎が言うと「おおー」と周りから喜びの声が上がった。

 しかし良い事だけではなかったので、竜郎は一応その部分にも触れておいた。



「けれど発生源を駆逐するときに、山やら森やらが一部消えてしまいましたが」

「……はい。それは仕方がない事でしょう。むしろ人の住んでいない所だけで済んだ事を幸運だと思わねばなりません」

「そう思っていただけると助かります。それでは、僕らは冒険者ギルドへ依頼達成の報告をしてきます」

「はい。本当に皆さん。ありがとうございました」



 話していたギルド職員が頭を下げると、他の冒険者ギルド関係の人間や、カサピスティの国から派遣されてきていた兵も含めて、揃って頭を下げて竜郎達に感謝を示してくれた。

 それに竜郎は驚きながらも「依頼をこなしただけですから」と、頭をあげさせてその場を去ろうとした。

 しかし黙って成り行きを見守っていたアウリッキが、こちらに飛んできた。



「遠くから見ていたが、あの巨大な鳥は完全に仕留められたんだよな?」

「はい。何なら首を見ますか?」

「……いいのか? それは助かる。けど俺が疑っているなどと勘違いしてほしくない。

 ここまで異様な気配が伝わるほどの化物が、本当に死んだのかと、この目で確かめねば不安でしょうがないんだ。

 見てくれ。情けない話だが、遠くから姿を見ただけなのに未だに手が震えている……」



 小さな子供のような手を竜郎に差し出すと、確かに細かく震え心なしか顔色も青ざめて見えた。

 なので安心させるためにと、他のギャラリーも興味津々に見守る中で、三十メートルクラスの怪鳥の生首を《無限アイテムフィールド》から取り出して地面に置いた。

 それに何か反応があるかと思えば、竜郎達以外の全員がそれに目を丸くして固まっていた。


 そこで竜郎達も気が付いた。この首から頭だけだと言うのに八メートルほどある化物から、威圧ではないが異様な力強さを感じさせる気配に満ちていたのだ。

 戦闘中は《真体化》していたカルディナ達の威圧に混じっていたせいか、まるで気がつかなかったらしい。



「──っと。もういいですか? しまっても」

「あ、ああ。ありがとう。死んでなおあの迫力とは、確かに残らなくて正解だった。

 その場にいたら石の様に固まって動けなかっただろう」

「まあ、慣れてない人にはキツイかもしれませんね」



 「あれに慣れる状況って一体何だよっ!?」と、平然と語る竜郎やその仲間たち以外の全員が口に出しかけたのを喉の奥に無理矢理しまいこんだ。

 聞くのが恐くなったからだ。



「何にしても安心できたようで何よりです。それで僕らはギルド長の所に行くのですが、アウリッキさんはどうします?

 ギルド長に説明すれば、一番長くあの場で頑張っていたんですから何かしら褒賞も貰えるかもしれませんよ」

「褒賞か。そんなものはいらん。実質解決したのも、解決できたのもお前らだけだからな。

 だからそんな物はいらないが、説明はしておいた方がいいのかもしれない。

 今日はもう疲れたから明日寄ると伝えておいてくれないか?

 久しぶりにゆっくりと休みたいんだ」

「それくらいならお安い御用です。これまで気張ってきた分、リラックスして休んでください。では俺達は本当にこれで」

「ああ。助けてくれて、ありがとう」

「そういう依頼でしたから──それじゃあ」

「じゃあな」



 そうして竜郎達は一番近い町──バンラテシモへと飛び去った。

 町の近くで着陸し歩いて門まで行くと町の外には轟音と共に山が消え、破滅の魔物が暴れていた事に気が付いた住人たちでごった返していた。



「さすがにこっからでも山は見えていたし、野次馬が凄いな」

「だね。戦闘中の音もここまで響いていたみたいだし」



 愛衣の指摘する通り、周りの人の口から洩れる言葉を拾えば危険な魔物が暴れまわって山を消したという話がそこかしこから流れていた。

 他にもここは大丈夫なのか、逃げた方がいいのか、倒されたのか。などなどいなくなった巨大な鳥について様々な憶測も飛び交い皆が混乱と不安の中で山のあった方角に目を向けていた。



「これはかなり大ごとになってますの」

「はやくギルド長に報告した方がいいでしょうね」

「だな」



 町人たちの波を掻き分け町の中に入っていった竜郎達は、急いで混乱を鎮めてもらうためにもと冒険者ギルドへと入っていく。

 中も職員が対処に追われていて四苦八苦している中、以前対応してくれた蟲人の男性が直ぐにギルド長──イッポリートの場所まで通してくれた。



「用件と言うのは何でしょうか? 山が消えた事や大型の魔物に関して何かご存じなのですよね!?」



 イッポリートの焦ったような声色と身を乗り出してくる動作に、話しに来た竜郎達が目を丸くした。



「え? あれ。ああ、そうか。情報が来る前にここに来たのか」

「……と言いますと?」



 竜郎達は職員に報告して直ぐここに飛んできたので、どうやらそちらが知らせるよりも早く来てしまったらしい。

 そしてここに通してくれた蟲人の男性も、用件すら聞かずにここまで通してくれたので知っているものだとばかり思っていた。

 なので今回の事の顛末を話せる範囲で説明していった。



「そ、それでは全てを解決してきたのですか!?」

「ええ。その証拠に依頼書の色も達成になっています」

「確かに……。では皆さんの達成済みの依頼書を頂けますか?」

「はい、勿論です」



 システムから具現化した赤から緑に変わった依頼書を全員が提出し、イッポリートが受け取るとそれを一枚に戻す。

 そして粒子に変化させて自分の中に吸い込むと、システムを操作する動作をした後、顔をこちらに向けてきた。



「こちらでも正式に確認が取れました。間違いなく三項目全てを達成されました。

 ……まさかこんなに早く、そしてあっけなく事が片づくとは思いもよりませんでした。

 それにしても風山の下に眠る化石のエネルギーから、そんなに危険な魔物が生まれるのですね。

 これは他の場所も調査しておいた方が良さそうですね」

「そうそうある事ではないでしょうが、事前に知っておくのは悪くないですからね」

「はい……──っと、それはこちらの話でしたね。

 それでは直ぐに報酬を……と言いたいところなのですが、先も言った通り解決するにしてもまだ時間がかかると思っていまして準備が出来ていません。

 申し訳ないのですが二日で何とか調整してみますので、12月8日、氷属の日の昼ごろ、ここへもう一度ご足労願えませんか? 住人達への説明などもありますし……」

「ええ。かまいませんよ」



 ギルド側にも国や住民への状況説明や準備しなければいけない事も多々ある様なので、アウリッキが近いうちに来ることを伝えて、丸二日を開けた8日にまた出直す事とした。

 竜郎達はそのぽっかり空いた時間で、のんびりとマイホームで過ごしながら帰界の為に時空魔法の練習をしたり、それぞれのスキルについて調べながら、カルディナ達は何を取得したらいいのかなど相談し合った。


 竜郎などもそうなのだが、カルディナ達は特にクラスチェンジする毎にSP消費で覚えられるクラス固有のスキルが増えていたので、また直ぐにクラスチェンジして、もっといいものが増えるかもしれないと取得を控えていた。

 けれど最近は特にそう言った事も無いので、そろそろ目星は付けておこうかとなったのだ。


 その時に称号《魔王種殺し》についても調べたのだが、その効果は全ステータス

+50に、《対魔物特化》という魔物全般に効果が適用されるスキル効果が付与されるらしく、より魔物相手に攻撃行為をおこなう際にその威力が増すという事らしい。


 そうしてモロモロ些末事を済ませていると、アッと言う間に時は過ぎていった。

 竜郎が杖なしでの転移魔法練習もそこそこ上手くいき、目に見える範囲内なら誤差二メートル以内に物体を送れるようになっていた。

 念には念を入れて、竜郎単体でも出来る様にしておきたいからこその練習である。



「これが異世界転移だとすると、ちょっとのズレも怖いよな。魔法だけを視界のどこかに送るのは簡単だったんだが」

「今のが完璧に出来る様になったら今度は人間で、それが出来たら遠くに──って感じで慣らして確実に出来るようになってからがいいかも」

「元の世界どころか、人の住めない別世界なんかにずれてしまった……なんて事になったら恐ろしいですからね」

「ああ。だからしっかり練習しておくつもりだ。けどクラスチェンジしてから魔法も、今まで以上に使いやすくなってるし、そんなにかからず完璧にしてみせるさ」

「うん! これでもうすぐ、お母さんにも久しぶりに会えるね!」

「お父さんも忘れないでくれよ?」

「え? ああ、うん。そうだね」

「お父さん……」



 年頃の娘としては父親よりも母親に会いたいのだろうが、将来竜郎が自分の娘にこの態度をされたら泣いてしまうだろうなと、遠く離れた地へと憐憫の念を抱いた。

 そんな事もありながら少し早い昼食をとり、やや落ち着きが無さそうでありながらも日常に戻り始めた住人たちを横目に冒険者ギルドのギルド長の部屋へと歩を進めた。


 最早顔パス状態でギルド長室に入っていくと、そこにはイッポリートとは別に五人の男が部屋の中にいた。

 一人は唯一ソファーに腰かけている男で、主張は控えめだが決して質素ではない高そうな服を着ており、透ける様な美しい銀髪で、基本的に顔が整っている種族の中でもとりわけ綺麗な顔立ちをしたエルフ。

 そしてその後ろで控えているのは、エルフが二人。人種と魚人種が一人ずつで構成されており、それぞれキリっとした表情でこちらに視線を向けていた。

 予想以上の人口密度に少し驚きはしたが、竜郎達は気にもしないでゾロゾロ入っていく。



「こんにちは。えーと、来客中なら出直してきますけど?」

「ああ、いえ。この方々も貴方達に用があるのです。ですから問題ありませんよ」

「はあ。それでは遠慮なく」



 この状況で竜郎達に用がある、恐らくかなり位が高そうな人間。

 とするのならもしや──と竜郎が思っていると、向こうから挨拶してきてくれた。



「初めまして、タツロウ・ハサミ。そしてその仲間の皆さん。

 私は現カサピスティ国王、ハウル・ルイサーチ・カサピスティだ。

 こ度は我が国の未曽有の危機を見事に救ってくれたと聞き、誠に感謝の念に堪えない」

「やはり王様でしたか。初めまして。既に知ってはおられるようですが、僕がタツロウ・ハサミです。

 王自らいらっしゃり、労いの言葉を頂けるとは思ってもみませんでした」

「いや、何を謙遜しておる。それだけの事を君たちはしてくれたのだ。

 むしろ何もできなかった私が、のうのうと王を名乗っている事が情けないくらいだ」

「陛下っ! そのような事はおっしゃらないでください!」



 慌てたようにすぐ後ろにいた、おそらくこの場で二番目に偉いのであろう見た目三十代後半でグレーの髪をしたエルフの男が、慌ててカサピスティの王──ハウルをたしなめた。

 けれどハウルは右手を払って黙らせた。



「すまない。少し騒がしくした。そこでだ。君たちは是非我が国の重鎮として受け入れたいと思っている。

 望むのならハイアルヴァ勲章と一緒に贈られる土地付きの家などと、けち臭い事は言わず、広大な領地を任せる事も考えている。どうだろうか?」

「お申し出は大変うれしい限りではございますが、僕らは誰かに仕える気はありません。自由に生きていきたいのです。すいません」

「で、あるか。まあ、そうだろうとは思っていたのだ。気にしないでくれ。

 だがどこかの町──君たちが望む好きな町に屋敷と土地を与えるくらいなら、かまわんだろ?

 それは別に我が国のものになれと言うわけではなく、自由に住みたければ住み、偶に立ち寄るくらいでもいいのだから」

「はい、僕らもいくつか拠点を欲していたので、それならば是非に──と言いたいところなのですが……場所に関して少しわがままを言ってもよろしいでしょうか?」

「ん? かまわんぞ。英雄達の望みだ。我が名において、出来る限りの便宜は図らせてもらおう。して、何処がいいのだ?」



 竜郎達はこの世界での拠点が欲しかった。なので当初の予定通り、貴族地区にそれなりに広い庭付きの屋敷を貰うくらいでもいいと思っていた。

 だがここに王自身が来てくれたことによって、竜郎は少し考えていた妄想を口にしても叶うのではないかと思ったのだ。


 そこでこの国に来た時に寄った百貨店で購入した、カサピスティの国土の全体マップを取り出して、ある一点を指差した。



「ここ。なんですけど」

「ほう──」「何!?」「「「「え?」」」」



 王は面白そうに口角を上げ、おそらくその側近であろう人は声を上げ、ギルド長を含めた他の男たちも首を傾げたのであった。

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