第333話 欲しい場所とランク授与
ギルド長に言われ二日と言う暇な時間を過ごしていた頃のこと。
二日目の深夜に二人はベッドの上で休憩しながら、竜郎が愛衣を背中から抱きしめイチャついていた。
「あははっ──くすぐったいってばー」
「愛衣のお腹は相変わらずスベスベだな。それでいて吸い付くようなハリもある。最高のポンポンの称号を与えよう」
「そんな称号いらな──あはははっ、こりゃっ! 撫でまわすなー! って、そこはまた後でっ。今はいちゃいちゃタイムなの!」
「おっと、すまない。俺の右手にはよく言って聞かせておくよ」
「とかいーながら、左手が触ってるんですけど?」
「なんと面妖な!?」
「面妖なのは、えろろーの頭じゃー!」
情事の後はいちゃいちゃタイムを挟み、また再開という約束をしていた愛衣は、竜郎の手を押さえてマウントを取って大人しくさせた。
「ふむふむ。このアングルも何度見てもいい物がある。ナイスだ!」
「もうっ。そればっかなんだから」
文句は言いつつも別段嫌そうな顔もせず、愛衣は静かに竜郎の胸に頭を乗せて、そこへついばむようなキスをした。
それにくすぐったそうな反応をする竜郎に、愛衣はお返しとばかりに何度も繰り返した。
そんな事を毎日飽きもせずにしている二人だったのだが、不意に竜郎が思い出したかのように言った言葉で今日は少し真面目な雰囲気になる。
「そう言えば、依頼を終えたという事はハイなんちゃら勲章と一緒に、土地と家を貰えるんだよな。どんな家になるんだろう。勝手に俺達で魔改造してもいいのかな」
「さあ? でも貴族地区って事は町の中心地なんだよね。どうせならそんな壁に囲まれたとこじゃなくて、海に面したオーシャンビューな土地付き一戸建てが欲しいよー。それに海水浴も皆でしたーい」
「海水浴──水着! よし、そうとなれば調べましょうか」
「むー。えろろーめー」
竜郎の胸の上で目を細め、安心してだらけきった猫のような顔で愛衣はそう言う。
それに竜郎は愛衣の腰を持ち上げ、くっ付いたまま座り直すと、せめて海に面した町は無いかと、カサピスティで初めて寄った町──ガガポアで購入したカサピスティ全土マップを《無限アイテムフィールド》から取り出して二人で見て行く。
「うーん。カサピスティは国土の半分が海に面しているから、どっかしらありそうだとは思ったんだが、一番近くても二キロぐらいは離れてるな」
「しかもこの町にしたって中心地だけなんでしょ? そんなんじゃ海なんて見えないよねぇ」
「だなあ。景色的にも綺麗だろうし、お金持ちの貴族なんかはこぞってその土地を手に入れようと──って、そういうことか」
「どーゆーことだ?」
愛衣の肩から顔を出して地図を見ていた竜郎が、海側の場所について書かれていた小さな記述を発見した。
そこに書いてある事によれば、ここの海から魔物が上がってくることが多々あり、近くに立ち寄る際は気をつけろとあった。
「魔物のせいじゃあ、しょうがないねー」
「だなあ。町から出て直ぐ魔物さん、こんにちはー。じゃあ普通の人は困るしな。
それにしてももったいない。ここなんか広大な自然が広がる土地に海があるのに、この領域に立ち寄るならレベル60相当の冒険者が四十人規模のパーティ推奨って書かれてるぞ。そりゃ誰も住めんわな」
「大自然の実りに豊富な海の幸。私達のおうちとしては最高の場所なのにねー。
私らならここに住んでも平気そうだし、使ってないならここ全部くれないかなぁ」
「ははっ、確かに。ここ一面俺達の好き勝手にしていいなら最高だろうな」
「ねー。中には豆太みたいな可愛い魔物もいるかもしんないし、色んな魔物からガッポリSP稼げそうだし」
「もう目標達成したとはいえ、有って困るもんでもないからなSPは。
まあでも、そんな事は無理だろうし現実的な候補を探してみようか」
「はーい」
そこで二人は話を打ち切り、マップを見るのもそこそこに、再びイチャつき始めたのだった。
そんな事を話していたのを、何処がいいかと聞かれた際に思い出した竜郎。
絶対王政であり、王の言った事は必ず執行される。
そんな絶対的な権力者が、ここまで恩義を感じてくれているのなら、冗談も現実になるのではないかと指差したのは、彼のアムネリ大森林とまでは言わないが、それでもカサピスティ領土でも屈指の危険域。
魔の海と呼ばれ恐れられる、ソルルメシア。そしてそれに面した草原と森が続く魔の領域ソルルレシフ。
その中心点を竜郎の人差し指が堂々と指していた。
「ここの領域で海に面した場所と、その周囲の土地だけでいいので貰えませんか?」
そこは一般的に高レベルとされる冒険者たちが、何十人も揃って初めて真面に探索できるようになる場所。
家を建てて住むなどと言い出したのなら、自殺志願者だと思われるような場所でもある。
王以外の人間は何をバカな事をと怪訝な顔をするばかりであるが、竜郎は本気も本気。
この国の王であろうと無視できる力はあるが、目の前の人物は態々ここまで会いに来るあたり国想いな良き王様に思える。
そんな人物を謀って楽しむような心を竜郎は持ち合わせてはいないのだから。
竜郎の真面目な視線を、カサピスティ王──ハウル・ルイサーチ・カサピスティは真っ向から受け入れながらさらにニッと笑みを深く刻む。
「面白いっ! 許可しようではないか!!
それに周辺などとケチ臭い事も言わん。ソルルメシアとソルルレシフ、その全部を持っていくがよい!」
「陛下っ!?」
二番目に身分が高そうな側近のエルフの男性が、目玉が飛び出るのではないかと言うほど目をひん剥いて慌てて諌めにかかる。
「全部を持っていけなど何を仰っておいでですかっ。
まだ我が国の貴族として迎え入れるのならともかく、国民にもならない者達に、それほど広大な土地を与えるなど、もはや一つの独立領ではありませんか!」
「ふっ、良いではないか。いつ危険な魔物が出てくるともしれんと、近隣の町々は怯えていたのだぞ?
そんな危険な土地を治めるだけの力を持った人間が、自分から管理してくれると言うのだ。何の問題があろうか。
むしろ、そんな場所を与えて申し訳ないほどだ」
「しかしその場所を拠点とし、他国の軍勢を密かに入れられでもしたら、この国は内側から食われますぞ!
どうかお考え直しくださいませ、陛下!」
「くどいぞ、ファードルハ! 救国の英雄に対し、なんて言いざまだっ。恥を知れ!」
「──ぐっ、失礼いたしました。ハウル・ルイサーチ・カサピスティ陛下……」
絶対王政とはいえ、ハウルは忠言までは許す。だが彼が一度固く決めたことを何度も反対されれば、さすがに怒る。
これ以上は無理だと悟りファードルハと呼ばれていたエルフの男が、竜郎達に一言謝ってきた。なので「気にしないでください」と、竜郎はおっかなびっくり返事をした。
「我が城の宝物庫で報酬を選んでもらう際にでも、正式な書類を持ってこさせよう。
それを受け取れば晴れて君たちの土地だ。まるまる一つ好きにしてくれてかまわない。
もちろん、ファードルハが言ったよう事はしない前提の話ではあるが。それでいいか?」
「ええ、かまいません。と言うか、人間同士の争いなんて見たくもないですからね。
それを幇助する行為も一切するつもりありませんし、もしその海から他国の人間が侵略目的でやってきたのなら、陸に上がらせることも無く丁重にお帰りいただきます。
ですから安心してください」
ハウル──というよりもファードルハに向かって、竜郎は真摯な態度でそう口にした。
その思いが伝わってくれたのか、ファードルハも軽くコクリと頷いてくれた。
「我が臣下にまで気を使ってくれるとは流石は英雄だ。
ところでタツロウ・ハサミは──」
「竜郎でかまいませんよ、陛下」
「ではタツロウ。ララネストと言う魔物を知っているか?」
突然の話題転換に竜郎は少し怪訝な顔をするが、それでも何か意味があるのだろうと素直に応じる。
「いえ存じませんが。どの様な魔物でしょう」
「体はだいたい二メートル程か。非常に硬い殻につつまれ、両手には巨大なハサミで青い色をした海の中に住む魔物だ。
そして非常に強く、並みの者なら傷一つ付けられずに軽く殺されるであろう」
竜郎はカニのような青い甲殻類の魔物を想像した。
「はあ。それで、その魔物がいったい?」
討伐でもしてほしいのだろうかと考え始めた所で、ハウルは真剣な顔でこういった。
「そいつの身は非常に美味なのだ。王の私でも飛び上がるほど、飛び切りに」
「「──っ!?」」
竜郎と愛衣が目の色を変えて姿勢を正した。
「そ、その魔物は一体どこに? ──まさかっ」
「ああ、その想像で合っているだろう。まさに君たちに渡す事になった魔の海ソルルメシアに生息している──────それも大量にだ」
「「大量に!?」」
竜郎と愛衣が全く同じ言葉を同時に発した。それにハウルは、これはいけると思い提案をしてきた。
「実はそのララネストはな。偶に死骸が別の砂浜に流れ着き、尚且つ腐っていない状態のモノしか市場にはほとんど流れんのだ。だから私も数えられる程度しか食した事が無い。
…………そこで提案なのだが、王都に定期的に流してはくれぬだろうか?
もちろん、その時々の適正な価格に、さらに上乗せして買い取ると約束しよう」
「まずは実物を見ないと何とも言えませんが、定期的に捕れそうならやってみてもいいかもしれません」
「そうかっ。なに、タツロウ達ならば問題あるまい」
やたらと上機嫌になるハウルの後ろで、魚人男がジッと竜郎を見て涎を垂らしていた。どうやら彼もララネストの味に魅了された一人らしい。
舌が肥えているであろう一国の王が、ここまで食べたがるのだから相当だろう。竜郎と愛衣も非常に興味をそそられ気もそぞろ。
さらに今の竜郎には《強化改造牧場》もある。もしかしたら蜂蜜の時の様に、その身をさらに美味しくさせる事も出来るかもしれないのだ。
『そうなれば高級ララネストとか言って美味しさ毎の等級を作って売れば、さらに面白いかもしれないな』
『高級!? なんて甘美な言葉なの……はー……早く食べたーい』
愛衣は横で目を細め、まだ見ぬ魔物の肉に思いをはせた。
そんな愛衣に癒されながら、竜郎は他にも文字通り美味しい情報は無いのかと聞いてみたが、それ以外はあまり味を知られていないという事もあって、有益なデータは集められなかった。
(だが、それだけでも十分な成果だな。それに思っていた以上にデカい土地を貰ったし、いつでも安心してこっちに戻って来られるような拠点を築けそうだ)
そうして竜郎は、もうすぐ帰るまでに済ませとこうリストに新たな項目を付け足したのだった。
それからハウルはタツロウ達一人一人に礼を言いながら握手し(カルディナは翼、ジャンヌは角、天照は傘骨、月読はセコム君の触手で)、カルディナ達に目を丸くされながらも次は王城で勲章授与などを渡すために会う事を約束し、ここまで来るのに使った飛行用の魔物達が持つ駕籠に乗って颯爽と王都へと戻って行った。
そしてその後に竜郎達はようやくギルド長から依頼の報酬を受け取る事となった。
まずは全依頼達成時の報酬金、120億シスを一括で受け取った。
そしてランクアップとランク授与の話へと移っていく。
「あの土地を改めて見聞し、皆さんの行動を職員や他のギルド長などとも相談した結果。個人で12、パーティーで15を与えようという話になりました。これは史上初ですよ」
「……前に言ってたのは個人で11、パーティランクで12でしたよね?
そしてそれが現在出したことのある最高のランクだとも……」
「はい。ですから史上初です」
「それは……町に入る度にめんどうな事になりそうなのですが……」
今までのランクでさえ某ご隠居の印籠並みとは言わずとも、それに近い効果を発揮していた。
それなのに史上最高ランクなど与えられては、町を出入りするだけで大騒ぎされそうだと竜郎は憂慮した。
けれどその考えはギルド側も考えていてくれたようで、とある機能も付けてくれるとの事。その機能とは──。
「ランクを任意の数まで下げて表示させることが出来る機能です。上には上げられませんが、下に下げることは自由に出来るように設定させていただきます」
「それはありがたいです──が、いいんですか? ある意味、身分詐称では?」
「それだけあなた方を冒険者ギルドが信用しているという事と、そもそも下に見せるだけなら、そうそう問題も無いでしょう」
「まあ、そうですね。上に見せるならいろいろ問題もありそうですが。
──解りました。それほど便宜を図ってくれるのなら受けたいと思います。皆もいいか?」
竜郎の言葉に全員が力強く頷き返してくれる。
なのでイッポリートに視線を返すと、彼は懐から透明なスマホサイズの板を取り出し、そこから九枚の青く光る板をそれぞれに差し出してきた。
それを全員が一枚ずつ受け取ると、システムが自動的に起動した。
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冒険者ギルドのランクアップ申請 を確認しました。
ランクを上げますか?
はい / いいえ
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全員が迷うことなく『はい』を選択し、これで目出度く竜郎たちは全員が、個人ランクで12、パーティーランクで15という、史上最高の冒険者として君臨することとなったのであった。




