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拝啓、母上様。
岩剣の戦から暫くの時が過ぎ、冬がやって来ましたが、母上様はご壮健であられますか?
私は………
「ッキシ!!あ゛ー、チクショウ。」
今日も隙間風と元気に戦っております。
ぼろ屋敷、ひゅうと吹きこむ、隙間風。 By盛敦。
そんな俳句なんて詠んじゃう俺の現状である。
俺は義久さまの家臣として岩剣の部下ごと召抱えられる事となった。
長寿院鉄砲隊。十余名の岩剣の生き残りを中核とした、百人規模の足軽隊。義久さまから屋敷も与えられ、「晴れて一国一城の主!此処から始まる俺の立志伝!!」とこれからの生活に胸を膨らませていたのが三か月前。期待で膨らんでいた胸は萎み、胃も萎む赤貧生活を送っている。日々の主食は粟か稗、最後に銀シャリ食べたのは何時だっけ??
「ヤバい、何とかしないと………」
結局、膨らむのは焦りのみ。
部下となった足軽とその家族、そしてあの時助けた女子供。そんなメンバーで、集落を形成しているのだが………
「維持費、半端ないぞ。鉄砲隊………」
そう、俺の部隊は維持費が通常の足軽隊より高いのだ。
新参部隊で鉄砲持ち。俺達は戦の際に、先鋒を任される可能性が高い。そんな部隊が「鉄砲当てるの難しいよね。外しまくっても許してちょんまげ!」では許されないのだ。故に、訓練は必須な訳で………装填の訓練ならいざ知らず、命中精度の向上には実弾訓練が必須な訳で………火薬は高い訳で………
「姉さん。今日も、僕のご飯は稗と漬物な訳で………」
南の国から~赤貧編~。何やらドラマになりそうな状況だ。
勿論、この状況を打開するべく動いては居る。だが余り芳しい状況とは言えない。
「あのー、この土地でこの作物は………」
「あー、こいは無理やろね………やっちみけど、期待しいても多分無駄やっど。」
特産物になりそうな作物を持って行っても、育ちそうにないと農業のプロである農家のおっちゃんに駄目だしされたり。
「この辺りの土壌の改良とかって………」
「何言いよっど!?俺達にそんな金有りもうさん!!!」
もっと根本から何とかならないかと、土壌改良や開拓の話を家臣団に相談しても、資金や人手問題で難しいと文官連中に言われ。
「義久様、ウチの部隊の維持費がですね………」
「無理。」
「ちょっと、せめて最後まで聞いて下さいよ。」
「おはんの他の家臣も皆、同じ様な生活をしいちょる。おはんの所だけ特別扱いする訳にもいきもうさん。」
「………はい。」
君主に嘆願に行って、島津家の現状を再確認させられたり………
働けど働けど、暮しも心も満たされず。だが、実は増えた物もある。
コネだ。
作物探しで全国各地の寺に文を出しまくった結果、俺はいつの間にか独自の情報網を持っていた。
正直、寺ネット舐めてた。近隣なら、戦の準備状況とかまで分る事が有る。鉄砲とこの情報網が、俺が持てる武器なのだ。
問題が有るとすれば、時々スパムメールチックな閨へのお誘いの文が来る。
何だよ、檀家がオオアリクイに殺されて一年が経ちましたって。思わず読んじゃったじゃないか。
だが、情報では腹は膨れない。
「うーぅぅぅぅ、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ………無理ダヨー、この生活から抜け出せないヨ~ン。」
増収に関する事は、思いつくだけの手は打ってみたものの、全てが空振り。
ショックのあまり言動がおかしくなっちゃってみたりしちゃったりしちゃった。
「盛敦様………」
女中のお松さん(24)に見られた。
「………お松さん、あの………」
「………大丈夫ですよ、盛敦様。大丈夫、大丈夫………」
「ちょっ!何が大丈夫なの!?何で視線を反らしながら廊下の奥に消えて行こうとしてるの!?」
「大丈夫ですよ、大丈夫………」
廊下を曲がり、その姿が見えなくなっても風に乗ってその声が届いて来ていた。
「………ぐすん。」
無性に泣けてきた。
「頭ぁ、大将が来やしたぜ。」
「あぁ、矢次郎。ありがとう。悪いけど、序に皆を呼んでくれない?」
涙を裾で拭っていた所、義久様がやって来た。義久様と義弘様は、時々家臣の所へお酒を持って遊びに来る。そして身分関係なく一緒に酒を飲み、騒ぎ、帰って行く。下の者達はそんな二人に心酔し、結果として島津軍の士気は上から下まで妙に高かったりする。
あの二人、狙わずにやるからなぁ。大体二人ともかなり忙しい筈なのに。どっからそんな時間を捻出してるんだ?これも、リアルチートってやつなの??
「おう、盛敦どん。来たどー!!」
敬愛する君主の声が、玄関から届く。
………明日は、二日酔いかなぁ。




