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ブルーストーム シーズン2  作者: Fawole Oluwaseyi


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第1章:これからの道のり

「はぁ……はぁ……はぁ……」


ライトは少し前屈みになり、荒い息を吐きながら唇を半開きにしていた。頬を伝い落ちる汗の粒が、顎のラインで一瞬溜まってから、ぽたりと滴り落ちる。


彼を取り囲む見慣れた校庭の景色が、ゆらりと揺らいだように見えた。


心臓の鼓動が耳元で大きく響くにつれ、木々や校舎、地面の輪郭が次第にぼやけ、曖昧になっていく。


ドクン、ドクン、ドクン。


ライトは目を見開き、目の前に立つ人物を凝視した。


数メートル先には、自分より少し背の高い赤髪の少年が、微動だにせず立っていた。その唇には薄い笑みが浮かんでいるが、顔にかかった暗い影が目元を覆い隠しており、表情を読み取ることはできない。


ライトの呼吸はさらに荒くなった。


やがて、微かで歪んだ残響のような音が、空気に混じって漂い始めた。


話し声。足音。断片的な笑い声。


それらはあらゆる方向から、あるいはどこからともなく聞こえてきて、二人の少年の周囲を渦巻くように響いた。周囲の景色がさらにぼやけていく中で。


残響の音量は次第に大きくなっていく。


ライトの視界が薄れ始めた。


そして、すべてが闇に包まれた……。


...............


「月森での出来事を経て、私たちはようやく故郷である蒼京市へと戻ってきました。」


見慣れた街並みが見えてくる中、葵のモノローグが響く。通りを行き交う人々、店を開く露店や商店、歩道で追いかけっこをする子供たち。その近くでは、中学生のグループが楽しげに語り合いながら歩いている。


「月森……奥多摩の山奥に隠された、ジン先輩の生まれ故郷。そこでは、本当に色々なことがありました。」


旅の記憶が次々と脳裏をよぎる。


「到着した当初は皆が温かく迎えてくれましたが、やがて私たちは真実を知ることになります。ジン先輩が、その一族の最後の継承者だったということを。」


場面は、ジンが祖父に彼らを紹介するシーンへ。続いて、彩花、ヒロ、泉、そして泉のペットであるボルトとギズモ、伝令役の鷹であるアストの姿が映し出される。


「先輩の祖父や仲間たち――彩花、ヒロ、泉、そしてペットのボルトとギズモ……伝令役の鷹であるアストとも出会いました。」


やがて、聖華寺(せいかじ)の姿が見えてくる。


境内の中心に立つジンは、苦悩の表情を浮かべてうつむいている。葵たちは少し離れた場所から、心配そうな面持ちで彼を見つめていた。


「私たちは『聖華の儀』に立ち会いました。それは、ジン先輩が月森の新たな長(おさ)として認められるための儀式でした。」


画面が暗転する。


「でも……事態は予定通りには進みませんでした。」


葛藤するジンの姿がフラッシュバックする。


「彼は、長になることなど望んでいなかったのです。そして儀式が終わる前に、『黒月(くろつき)』と呼ばれる邪悪な一族が村を襲撃しました。」


月森を襲撃し、村を大混乱に陥れる黒月の一味の姿が映し出される。


「彼らは月見一族を追放された者たちによって結成された集団でした。村の聖なる刃『火の翼』を奪い去り、月森を滅亡の危機に追い込んだのです。」


場面は変わり、荒れた大地を駆け抜け、「荒廃の地」へと向かう葵やジンたちの姿が映し出される。


「ジン先輩や私たちは、誘拐されたアヤネ、イズミ、リクヤを救い出すために『荒野』へと急ぎました……もちろん、『火の翼』を取り戻すためでもありました。」


画面には、それぞれが敵と対峙する戦闘の様子が次々と映し出されていく。


「大変でしたけど……なんとか、みんなで乗り越えることができました。」


ジンが「黒月」のリーダーと対峙する姿、そしてその傍らで戦うアオイの姿が映し出される。


「ジン先輩は私の助けもあって、『黒月』のリーダーを倒しました。ヒロ先輩は『月守』の新しい長に選ばれて……アヤカさんと結婚したんです。」


祝賀ムードに包まれる村の様子や、仲間たちが楽しげに過ごす光景へと場面が変わる。


「私たちも勝利を祝いました。ジン先輩とミソラ先輩がついに付き合い始めて、アヤネとリクヤも同じように……。」


蒼京市(そうきょうし)へ戻るシーンが映し出される。


「そしてやがて……私たちはみんな、故郷へ帰ってきました。」


蒼京市に到着した瞬間の場面へと切り替わる。


「ジン先輩とミソラ先輩がついに結ばれたと聞いて、レイナ先輩とリョウ先輩は特に喜んでいました。」


「よかったぁ~!」リョウは嬉し涙を流しながら、晴れてカップルになった二人を抱きしめた。「ずっと前から、お互い意識し合ってるって分かってたよ~!」


「ジンの気持ちはすごく分かりやすかったから……」レイナは頬に手を当て、目を輝かせながら言った。「……彼女のことが好きだってことは、一目瞭然だったわ。」


彼女はミソラの方へ視線を向け、含みのある笑みを浮かべた。「でも、ミソラが迷わず受け入れたこと……心の奥底では、あなたも彼のことが好きだったって分かってたわよ~!」


ジンとミソラは二人とも、顔を真っ赤に染めた。


「あー、よかった!」リョウは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、拳を握りしめた。「俺の勝ちだ~!」


「あーあーあ」レイナは恋人に向かって人差し指を振った。「『勝った』のは私でしょ」


彼女は得意げな笑みを浮かべ、腕を組んだ。


「リョウは高校卒業後にくっつくって言ってたけど、私はそれより前――来年にはくっつくって言ってたからね。だから……私の勝ち」


リョウは不満げに唇を尖らせながら、しぶしぶ彼女に小銭を渡した。


レイナはまるでトロフィーでも受け取るかのようにその金を受け取り、その瞳には星が輝いているかのようだった。


アオイたちは、呆れ果てたような表情で、額に汗を浮かべながらそのやり取りを眺めていた。


「まさか、二人の関係を賭けの対象にしてたなんて……」ミツルが呟いた。


「キモッ……」ライトが鼻で笑った。


....................


「こうして、ようやく学校に戻ってきて……」


小夜鳴(さよなき)高校の校門をくぐる生徒たちの姿に合わせ、葵(あおい)のナレーションが続く。


「また楽しく過ごして、新しい思い出を作って、一緒にいるその瞬間瞬間を味わう日々が戻ってきた」


不意に、ある男子生徒の声が響いた。「よっ!」と声をかけ、一人の男子生徒が友人のもとへ駆け寄る。


「よう、調子はどう?」友人はニヤリと笑って応える。


二人は二人だけの秘密のハンドシェイクを交わすと、階段を上っていく他の生徒たちの列に加わり、校舎へと歩き出した。


「それに何より……」


カメラは校舎に入っていく生徒たちを追う。


葵の声が、少し優しくなる。


「……私たちは強くなり、共に学び、より良い自分へと成長しているんだ」


…………..


1年3組の教室にて……


アラタは黒板の方を向き、チョークを手に取った。


「よし、みんな。今日の帰りの前に、物理の基本の一つである『ニュートンの運動の第1法則』についておさらいしよう」


彼は黒板にこう書いた。


「『外から力が加わらない限り、静止している物体は静止し続け、運動している物体は運動し続ける』」


「簡単に言うとね」アラタは教室内を振り返りながら続けた。「物は勝手に動き方を変えたりはしないんだ。止まっているものは止まったままだし、動いているものは動き続ける。……別の力が加わらない限りはね」


彼はチョークで黒板を軽く叩いた。「その力っていうのは、押す力だったり、引く力だったり、摩擦だったり……あるいは重力だったりする」


アラタが微笑むと、何人かの生徒が頷いた。


「だから、覚えておいて。動きには必ず理由があるんだ」


教室の前方に座っていたカズキは、机に肘をつき、アラタの講義に熱心に耳を傾けていた。その隣ではシズカが落ち着いた様子で、無表情のまま静かに話を聞いている。


二人の数席後ろでは、サヤカが足を組み、片腕を胸の前で組んだまま、もう片方の手でペンを器用にくるくると回していた。


彼女の右側数席先では、ヒカルが机に顔を伏せてぐっすりと眠り込んでおり、授業のことなど全く気にも留めていない様子だった。


一方、ミツルとメイは並んで座り、二人ともアラタの講義に集中していた――メイがふと瞬きをするまでは。


「あ」


小さくクスクスと笑い声を漏らし、彼女はミツルの方へと身を寄せた。


「何?」と、ミツルは彼女の方を向きながら小声で尋ねた。


メイは再びくすりと笑い、さりげなく前方を指さした。


ミツルがその視線を追う。


二人の二つ前の席では、リクヤが、さらにその少し前に座るアヤネに、小さく折りたたんだメモをこっそりと手渡していた。


茶髪のアヤネはそれを受け取ると、机の下でメモを広げた。内容を読み終えると、彼女は小さく笑い声を漏らし、頬をほんのりと赤らめた。


彼女が振り返ってリクヤを見ると、彼もまた優しく微笑み返した。その頬も、わずかに赤らんでいる。


「見せつけやがって……」ミツルは小声で呟いた。


それを聞いたメイは、またくすりと笑った。


ミツルが彼女の笑顔の方を向く。彼の頬にもうっすらと赤みが差し、思わず彼も微笑み返さずにはいられなかった。


教室の反対側、窓際に座っていたライトは、片手で頬杖をつきながら、そのやり取りを遠巻きに眺めていた。


彼は薄笑いを浮かべ、呆れたように目を回してみせた。


アラタは教科書を片手に軽く持ち、机の列の間をゆっくりと歩いていく。


「さて、みんなが毎日必ず経験していることについて考えてみよう。『運動』だ」


彼は生徒たちを見渡した。


「歩いたり、走ったり、ジャンプしたり、あるいはボールを投げたりするとき、君たちは常に『力』に関わっている。物理学とは、基本的に、そうした力が我々の周囲の世界にどのような影響を与えるかを学ぶ学問なんだ」


彼はある机の横で足を止めた。「例えば、この机。今は完全に静止しているよね。なぜだろう?」

彼は机の端を軽く叩いた。「それは、この机に働く力が釣り合っているからだ。重力が下向きに引っ張る一方で、床が同じだけの力で上向きに押し返しているんだよ」


アラタは再び机の間を歩き出した。「でも、もし僕がこの机を押したら……」


彼は手のひらを机に当て、軽く押してみせた。「……『外力』を加えることになる。すると、机は動き出す」


何人かの生徒が、興味深げな様子で彼を見つめていた。


「そこで登場するのが、ニュートンの『慣性の法則』だ。物体は、外から力が加わらない限り、静止しているものは静止し続け、運動しているものは運動し続ける、というものだよ」


彼は指を一本立てた。「だから覚えておいてほしい。何かが急に加速したり、減速したり、向きを変えたり、あるいは動き出したりするときは……」


アラタは微笑んだ。「……必ずその背後に『力』が働いているんだ」


彼の視線は教室の前方へと移り、机の間を歩き続けながら、その目はわずかに細められた。


「だからこそ……」彼はヒカルの机の横で立ち止まった。「……常に注意を払う必要があるんだ」


コツン。


教科書の端が、ヒカルの頭に正確に当たった。


「えっ――! はあ?! はあ?!」 ヒカルは弾かれたように目を大きく見開き、慌てて教科書を掴んだ。


「そう! x軸は3度だ!」


教室に、くすくすという笑い声が広がった。


サヤカは琥珀色の瞳を細め、その金髪の少年に向かってクスクスと笑った。


アラタはただ溜息をつくしかなかった。「まったく、ヒカル……」


ヒカルは気まずそうに後頭部をかきながら、苦笑いした。「わりぃ、アラタ先生」


「お前、いつも授業中に寝てるな!」 アラタの目が真っ白に反転した。「特に物理の時間は! これ、大事な科目なんだぞ!」


「ああ、わかってるって」 ヒカルはあっけらかんと肩をすくめた。


アラタの目元がピクリと引きつる。「のんきすぎるだろ……」


カズキは呆れたように低い溜息をつき、シズカはいつもの無表情のままヒカルを見つめていた。


「ヒカル、また怒られてるな……」 リクヤは眼鏡の位置を直しながら溜息をついた。


「いつものことね」 アヤネはクスクスと笑った。「なんだか面白いわ」


「やれやれ……」 ミツルは額に手を当てて呟き、その隣でメイがクスクスと笑った。


「うん、何事にも力が抜けすぎてるよね」 メイは微笑んだ。「でも、戦うとなると、いつだって全力で挑んでくる」


ライトの薄い笑みが和らいだ。彼の視線は、隣の空席へと向けられた。


一瞬、彼はただその席を見つめていた。


その席は誰にも使われることなく、奇妙で静かな虚無感に包まれていた。


「訓練、か……」


彼は小さく呟くと、窓の外へと視線を移した。


..........................


数分後、放課後を告げるチャイムが鳴った。


アラタは教科書を閉じ、教壇から生徒たちに向き直った。


「よし、みんな。23ページの課題を忘れずに終わらせて、来週の月曜日に提出するように!」


「はーい!」生徒たちが声を揃えて返事をする中、アラタは教室の出口へと歩き出した。


「じゃあね、アラタ先生!」ヒカルが元気に手を振りながら声をかける。


アラタは彼を振り返り、こめかみに汗の粒を浮かべながら言った。


「特に君だよ、ヒカル。君の課題から真っ先にチェックするからね」


「ええっ、なんで!?」


アラタは面白がるような笑みを浮かべて首を横に振ると、教室のドアを背後で閉めた。


途端に、教室が活気づく。


生徒たちは席を立ち、教科書や私物をまとめたり、互いにおしゃべりをしたりし始めた。


「また授業中、机に突っ伏してたな~」金髪の少年の机の横で立ち止まり、カズキがからかうように言った。


「うるさいな」ヒカルは鼻で笑い、ふてくされた様子で顔を背けた。


「いつも授業中に寝てるもんね」シズカが淡々と言い放つ。


「俺のせいじゃないってば!」


「まあね」サヤカは片眉を上げ、くすりと笑った。「でも、勉強の成績は上がってきてるみたいだし。そこは認めてあげるよ」


ヒカルはすぐにカズキの方を向き、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。「ほら見たか! 俺の進歩をちゃんと認めてくれる人がいるんだぞ!」


カズキは呆れたように目を回した。「はいはい。彼女はお前を慰めるためにそう言ってるだけだって」


「何だと!?」ヒカルが彼に飛びかかった。「こら、こっち来い!」


彼はカズキの首に腕を回し、空いた手でその髪をぐしゃぐしゃとかき回し始めた。


「おいおい!わかった、わかったよ!冗談だってば!」カズキは逃れようともがきながら、そう喚いた。


アヤネたちは、その楽しげなやり取りを微笑ましく眺めていた。


「でも、本当に良くなってきてるよね」アヤネがにっこりと笑う。


「うん」メイが頷く。


「ああ」ライトも静かに同意した。


彼の視線は、ふたたび隣の空席へと向けられた。


一瞬、彼の表情が和らぐ。だがすぐに視線を落とし、荷物をまとめ始めた。


「おい、ライト」ミツルが彼の机に歩み寄る。「俺たち、もう行くぞ」


「ああ」ライトは頷いた。


「でもその前に、彼女を迎えに行かないとな」リクヤが付け加えた。


「そうだな。そろそろトレーニングも終わる頃だろ」アヤネは何かを察したような笑みを浮かべ、ライトに視線を送った。「一緒に行くんだろ? 覚えてるよな」


ライトは瞬きをした。


彼は軽く鼻で笑い、そっぽを向く。「本当に俺も行かなきゃいけないのか?」


「いいだろ」ミツルの笑みが深まる。「お前だって行きたいくせに」


クロガネの双子、ヒカル、そしてカズキが彼らの周りに集まり、誰もが面白がるような笑みや、からかうような笑みを浮かべていた。


ライトはわずかに目を見開いた。


彼はすぐに視線を逸らしたが、その頬はほんのりと赤らんでいた。


「……別に、いいけど」


......................


第二訓練室にて――


「っ!」


木剣が鋭く打ち合う音が響き渡る中、二つの影が互いに飛びかかった。


葵の木剣と仁の木剣が激突し、互角の力で押し合う。仁が不意に重心を移動させると、葵はその圧力に押され、後方へと押し戻された。


葵は板張りの床を数歩滑るように後退したが、すぐに体勢を立て直す。


仁はブーツを鳴らして急停止し、深紅の瞳を細めた。葵もまた、闘志を宿した鋭い眼差しで彼を見据える。


両者、動かない。


やがて、仁がゆっくりと左へ回り込み始めた。


葵もそれに合わせ、木剣を構えたまま彼から視線を外さずに動く。


その瞬間、仁の姿が残像を残して前方に消えた。彼の全身から炎が噴き上がる。


「炎剣流奥義――壱ノ型『紅蓮華(ぐれんか)』!」


回転の勢いを乗せた一撃。木剣が燃え盛るような気迫と共に空を切り裂く。


葵は即座に反応した。


「点火流――壱ノ牙……」


彼女は柄を強く握りしめる。


「紅閃抜刀(こうせん・ばっとう)!」


武器から放たれた炎の奔流が、仁の攻撃と正面から激突した。


――激突音!


衝撃と共に熱波が訓練室を駆け巡り、仁の体を数歩後方へと押し戻す。


だが、彼が体勢を立て直すよりも早く――


――バシッ!


葵が突如として彼の目の前に現れた。流れるような動作で、彼女は仁の手から木剣を叩き落とした。


武器は空中で回転し、数メートル先の板張りの床に音を立てて転がった。


葵の木刀は、仁の顎のすぐ下で止まった。彼女の瞳には、決意と勝利の輝きが宿っていた。


仁は瞬きをし、やがて口元に小さな笑みを浮かべた。


彼はふっと笑う。「強くなったな、葵」


葵の引き締まった表情が、たちまち明るい笑顔に変わる。「ありがとう」


彼女は武器を下ろし、指先で器用に回してから、それを体の横に収めた。


「仁先輩のおかげですよ」


仁は姿勢を正し、微笑んだ。「ああ。でも、レイナのおかげでもあるな」


葵は笑顔で頷く。彼女が何か言葉を返すより先に――


パチ、パチ、パチ。


葵は入り口の方を振り返った。


そこには、拍手をしながら立つライトたちの姿があった。


「いいカウンターと防御だったね、葵」メイがにっこりと笑う。


「サクッと終わらせるはずだったのにね……」アヤネが呟く。


仲間たちが部屋に入ってくる中、葵は微笑んだ。「ちょうど終わるところだったの」


「そうか」ミツルがからかうような笑みを浮かべながら、彼女の方へ歩み寄ってくる。「でも、だからって仁先輩のお気に入りになれると思わないことだね」


葵は彼を見て瞬きをした。その表情から、感情がすっと消え失せる。


「そんなこと、これっぽっちも考えてないけど」


ミツルの笑みが揺らぐ。「……痛っ」


陸也は眼鏡の位置を直しながら、部屋の中を見回した。


「待てよ。二人だけか?」彼はもう一度周囲を見渡す。「てっきり、美空先輩も一緒にいるのかと思ってたんだけど」


「ここにいるわよ」


「うわっ!」陸也は飛び上がるほど驚いた。


全員がその声の主の方を向く。


そこには、様々な訓練用武器が並ぶ木製のラックに、何気ない様子で寄りかかる美空の姿があった。


彼女は本を開いて手に持ち、まるでそれまでの会話など聞いていなかったかのように、静かにそのページに視線を落としていた。


陸也は信じられないといった様子で彼女を見つめた。「い、いつからそこにいたんですか!?」


美空は落ち着いた動作でページをめくった。「十分前からよ」


「お姉ちゃん」彩音が温かい笑みを浮かべて声をかける。


美空は彼女の方に視線を向けた。「それで、みんなもう帰るところ?」


一樹が頷く。「ああ。葵を迎えに来たんだ」


「もう子供じゃないって分かってるけど、それでも迎えに来たかったんだよ」光はポケットに手を突っ込みながら、にやりと笑った。


葵も微笑む。「本当にありがとう」


ライトが彼女の手に握られた木刀に目をやりながら、一歩近づいた。「それで、もうその型を完璧にマスターしたのか?」


「うん」葵は頷いた。「今のところ五つは完璧よ。残りはまだ練習中だけど」


「たった数週間で?」芽衣が微笑む。「葵って本当にすごいね」


さやかが頭の後ろで腕を組む。「それにしても、ジン先輩が自分で編み出した『炎』の技を、葵に教えるなんて信じられないな」


「てっきり、美空先輩への愛ゆえに、彼女にしか教えないんだと思ってたわ」静香が淡々と言った。


ジンが小さく声を上げた。全員の視線が静香に集まる。


「何?」と彼女は無表情のまま尋ねた。「事実でしょ」


さやかが苦笑いする。「そういうことを、さらっと、当たり前のように言うところがね……」


「……ちょっと不気味かも」と満も付け加え、こめかみに汗を浮かべた。


静香は首を傾げた。


美空は本を閉じると、静かに彼らの方へ歩み寄った。


「私はどっちでも構わないわ」


全員が彼女の方を向く。


美空は続けた。「葵とジンがライゼンと戦った時のこと、みんな見たでしょ?」


彼女の表情が真剣味を帯びる。「普通の戦いじゃなかった。なぜか葵は、私と同じように『炎』の術を使えるの」


彼女の視線が葵に向けられる。「だから、彼女には明らかに特別な何かがあるってこと」


美空の瞳が優しく和らいだ。「それに、もし誰かにジンの独自の術を教えるとしたら……」


彼女はふわりと微笑んだ。「私は彼女がいいな」


葵の瞳が潤んだ。


美空は再び本を手に取り、何事もなかったかのように読書に戻った。


「だから、私はそれでいいわ……彼女が強くなる助けになるならね」


ジンの深紅の瞳が誇らしげに輝いた。


彼は美空の元へ歩み寄って背後に立つと、優しく腕を回し、彼女を自分の胸に引き寄せた。


美空の頬が赤く染まる。彼女は一瞬だけ彼を見上げたが、すぐにまた本へと視線を戻した。


「ラブラブだね~」とヒカルがにやりと笑った。


アヤネは片眉を上げた。「ねえ、私たちがまだここにいるってこと、わかってるよね?」


ジンはクスクスと笑いながら、ミソラを抱きしめる腕に力を込めた。「ああ。お前ら、もう行っていいぞ。ほら」


「私たちより二つ年上なだけじゃないですか……」カズキはそう笑いながら、他の者たちと共にドアの方へと歩き出した。


アヤネが微笑む。「またね、お姉ちゃん」


ミソラは頷いた。「ええ」


アオイは木製の棚まで歩み寄り、丁寧に木刀を戻した。


そしてジンとミソラの方を向き、小さくお辞儀をした。


「ご指導、ありがとうございました。ジン先輩、ミソラ先輩」


ミソラは瞬きをした。「そ、その……私は大したことは何も……」


ジンは微笑んだ。「どういたしまして、アオイ」


アオイは感謝の笑みを浮かべて顔を上げ、一度頷いた。それから、ライトが待つ入り口の方へと小走りで向かった。


「行こう」と彼は静かに言った。


アオイは微笑み、彼の隣に並んだ。


二人は他の者たちに続いて稽古場を出ていき、ライトは背後でドアを閉めた。


部屋に静寂が訪れた。


ジンは視線を落とし、ミソラを見た。「怒ってる?」


「ううん……」ミソラは本を閉じ、まだほんのりと赤らんだ頬のまま彼を見上げた。


彼女は身を寄せ、彼の頬に優しくキスをした。


「……ただ、バカだなって思っただけ」


ジンの口元が茶目っ気たっぷりに歪んだ。「そう?」


彼女が答えるより早く、彼は彼女の頬にキスを返し、さらに強く抱きしめた。


ミソラは小さく息を吐いたが、その表情には隠しきれない笑みが浮かんでいた。


............


「それで、アラタ先生が私の『美の睡眠』を邪魔したのよ。すごくいい気分だったのに~!」


ヒカルが大げさに不満を漏らすと、廊下を歩くみんなから笑い声が上がった。


「お調子者だな」とミツルがにやりと笑う。


ヒカルは彼を少し睨みつけた。


「よっ、みんな!」通りすがりの生徒たちが手を振りながら声をかけてくる。


「やあ、アオイ!」さらに何人もの生徒が彼女に声をかけた。


アオイは微笑んで手を振り返した。


カズキがにやりと笑いながら彼女に視線を向ける。「有名人になってきたね」


アオイはくすりと笑った。「もう、やめてよ」


ライトが彼女をちらりと見る。「どんな気分?」


アオイは前を見つめながら、柔らかな笑みを浮かべた。


「どんな気分かっていうと……」彼女は少し言葉をためた。「……いい感じ。温かい気持ち」


ライトはその答えに満足したのか、かすかに微笑んだ。


メイが急に満面の笑みを浮かべた。「でも、有名人といえば、この中で本当の『時の人』は、新しくカップルになった二人じゃない?」


「えっ!?」アヤネとリクヤは驚いて彼女の方を向き、頬を赤らめながら、とっさに繋いだ手をぎゅっと握りしめた。


「確かにね」シズカが二人を見つめる。「私たちグループの中で、付き合い始めた最初の二人だもんね」


「それって、まずいこと!?」アヤネはパニックになりかけた様子で尋ねた。


「ううん」シズカの表情は全く変わらない。「別に、そうでもないよ」


アヤネとリクヤがシズカに質問を続け、彼女のそっけない返答にますます不安そうな表情を浮かべるのを、アオイは微笑ましく眺めていた。


そういえば……と、アオイは思いを巡らせた。


アヤネとリクヤは今、付き合っている。アヤネがついに父親にそのことを打ち明けたときは、かなりの衝撃だった。もっとも……私が予想していたほどの衝撃ではなかったかもしれないけれど。


彼女の意識は、あの日の出来事へと戻っていった。


……………


『フクゾラ・マート&ダイナー』。


リクヤはカウンターの横にこわばった様子で立ち、アヤネの父親を前にして緊張の汗を流していた。


コウタは腕を組み、目元に暗い影を落としながら、彼をじっと見下ろしていた。


リクヤはごくりと息を呑んだ。眼鏡がゆっくりと鼻筋を滑り落ちていく。


「で……」コウタの低い声に、少年の背筋を冷たいものが走った。「俺の娘と付き合ってるんだってな?」


「は、はい!」リクヤの声は裏返ったが、すぐに気を取り直した。


彼は拳を強く握りしめ、ありったけの勇気を振り絞った。


「俺は、娘さんのアヤネちゃんのことが本当に好きなんです。そして……」彼はぎゅっと目をつぶった。「お、お付き合いの許可をいただきたいんです! 彼女を傷つけるようなことは絶対にしないと誓います!」


彼の心のこもった宣言に、アヤネは頬を赤らめ、胸を高鳴らせた。


コウタはしばらく黙っていた。やがて、彼は息を吐き出した。


厳しい表情が和らぎ、かすかな笑みが浮かんだ。


「わかった」


陸也はゆっくりと目を開けた。


「お前なら、任せられるよ」


陸也は瞬きをし、やがて満面の笑みを浮かべた。


「ありがとうございます!」彼は即座に深く頭を下げた。「心から――俺のすべてを懸けて、彩音を守ると誓います!」


陸也が顔を上げると、浩太は微笑んだ。


陸也はすぐに彩音のもとへ駆け寄り、嬉しそうに彼女を抱きしめた。


周囲から歓声が上がる中、彩音も嬉しそうに抱きしめ返した。


やがて彼女は父親のほうへ走り寄り、その体に腕を回した。


「ありがとう、お父さん」


浩太は微笑み、優しく抱きしめ返した。


葵は温かい笑みを浮かべ、その父娘の姿を見つめていた。


……………


だが……


葵の表情は、次第に柔らかいものへと変わっていった。


美空先輩は、仁先輩との関係をお父さんに話していなかった。ここに来てから、二人が話している姿さえ見たことがない……。


彼女は視線を落とした。二人のことは、彩音自身がお父さんに話さなければならないのだ。


葵の表情が少し曇る。あの二人も……?


「ねえ」ライトの声が、優しく彼女を思考の世界から引き戻した。「大丈夫?」


葵は瞬きをし、笑顔で彼を見上げた。「うん」


ライトはわずかに身をすくめ、頬をほんのりと赤らめながら視線を逸らした。


「でも、マジでさ」ヒカルは葵の方を振り返り、彼女を指差しながら言った。「炎の術を覚えたのはわかるけど……授業をサボるってどういうことだよ!?」


メイはまばたきをしてから答えた。「アラタ先生はもう知ってるよ。ジン先輩が許可を取ってくれたから」


「いや、でも『特別訓練』って!?」ヒカルは葵を指差したまま不満げに声を上げた。「授業で習うこと、全部逃しちゃうじゃん! まるで超天才みたいだな! 特に数学とか!」


葵は微笑みを和らげ、歩き続けながら視線を床へと落とした。


「私の知能……」彼女はつぶやいた。「学校を辞めた後、自分で身につけたようなものなの」


「えっ?」一同は足を止めた。


葵は数歩歩き進んでから、みんながもう隣にいないことに気づいた。彼女も立ち止まり、背中を彼らに向けたままだった。


仲間たちは不安げに顔を見合わせた。それは、彼女が過去について打ち明けるときに見せる、あの表情だったからだ。


「あ……」ヒカルはゆっくりと手を下ろした。


「中学二年の時に追い出された後」葵は静かに続けた。「……誰も助けてくれなかったから、独学で勉強し続けたの」


一同の表情から笑みが消え、真剣な色を帯びた。




葵は小さく微笑んだ。「父さん……というわけじゃなくて、誰にも教わらなかったの。継母や義姉にいじめられていない時は、手当たり次第に本を拾っては読んでいたわ」


彼女は肩越しに二人を振り返り、くすりと笑った。


「だから、今の私があるのよ。ある意味、ホームスクーリングみたいなものだったと言えるかもね」


「ああ、葵……」と、彩音が静かにつぶやいた。


「俺たち……なんて言えばいいか……」と、満が言った。


「俺はわかるぞ」カズキは即座にヒカルの後頭部をひっぱたいた。「お前のせいだぞ、バカ! 彼女に嫌な思い出を思い出させちまったじゃないか!」


「痛っ!」ヒカルは後頭部をさすりながら身をすくめた。「ご、ごめん! 本当にそんなつもりじゃ……」


葵はまばたきをしてから、くるりと彼らの方を向いた。


「ううん、違うの!」彼女は慌てて手を振った。「本当に、大丈夫よ!」


「でも、葵……」と、メイがささやいた。


葵はゆっくりと手を下ろし、表情を和らげた。


「もう気にしてないわ」彼女は優しく微笑んだ。「むしろ、やってよかったと思ってる。独学で勉強したことが、今の私を形作ってくれたんだから」


彼女は背中で手を組み、温かい笑みを浮かべて目を閉じた。


「それに……」彼女は目を開け、一人ひとりの顔を見渡した。「みんなに出会えてよかったと思ってる」


彼女の笑顔がいっそう輝いた。「それが今、私にとって一番大切なことなの」


一瞬、誰も言葉を発しなかった。


ヒカルの目に涙が浮かんだ。「葵……」


誰かが反応するより早く、彼は突然彼女に駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。


「葵~! 最高だよ!」彼は彼女の肩に顔を埋めたまま、声を弾ませた。「マジですごいって!」


「バカ! 葵が潰れちゃうだろ!」和樹がたしなめながら駆け寄り、ヒカルを引き剥がそうとした。


和樹がヒカルを必死に引き剥がそうとする様子を眺めながら、葵はくすりと笑った。その笑い声はすぐに周囲にも伝染し、他のメンバーからも穏やかな笑い声が漏れた。


「ほら、行こうぜ」ライトがクスクスと笑いながら皆の横を通り過ぎ、葵の隣に並んで歩き出した。


笑顔を浮かべたまま、一行は再び歩き始めた。


「でも、そのお詫びとして」葵は茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべ、ヒカルに視線を向けた。「特別にレッスンしてあげてもいいよ」


金髪の彼の琥珀色の瞳が輝いた。「マジで助かる~!」


「ん?」ライトが突然足を止め、視線を前方に向けた。「あれ、アラタ先生じゃないか?」


「ん?」他のメンバーも足を止め、彼の視線を追った。


数メートル先で、アラタが長い茶髪と柔らかな青い瞳を持つ若い女性と話をしていた。


彼女はパリッとした白いシャツに、膝丈の黒いストレートスカート、そしてシンプルな黒いフラットシューズを身につけていた。


二人は楽しげに会話を交わし、時折笑い合っているようだった。


思いがけない光景に、一行は驚きで目を見開いた。


「一体どういうこと……?」と、さやかが呟いた。

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