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家族の心配と、貴族の義務の板挟み

 屋敷に帰ってくるとシルフィードが玄関前で待機している。

 事前にシルフィードに玄関で待ってもらうよう頼んでおいた。


「シルフィード、申し訳ないがお父様に俺が帰って手伝った方が良いか聞いてきてくれないか?」

「承知した。ところでマスターは……本気なのか?」

「どれがだ?」

「帝国を絶滅させるという話だ。それいくらなんでも無理ではないか?」

「そうだね、無理だね」


 あっさりと認めるとシルフィードは意外そうに見る。


「そうなのか?あのように自信満々に言うから本当に絶滅させるのかと思っていた」

「無理無理。普通に無理。そもそも大元は帝国に取り込まれた人達だからその人達にとって理不尽すぎるし、負けて帝国国民になったのが理由で殺されるってそんな理不尽な事ないだろ」

「それはそうだ。だが先ほどの話し方だとそう言った事をすると言っているように聞こえた」

「本当に戦争になって俺が戦場に行くのならそうする。その時は相手の事情なんて一切関係なく滅ぼすさ。俺だって死にたくない」

「ではなぜあそこまで脅すような言い方をした」

「現状俺の力はそれくらいの力はある、そしてその運用方法を間違えれば今度はこの国が帝国のようになるって事を言いたかっただけ。まぁもしそうなった場合は本気で王族皆殺しにするけどね」


 ああいっておけば俺をそう簡単に使用できないであろうという予防線と安心感が欲しかった。

 もし仮にそれでも俺を使うというのであればそういう覚悟はできていると判断させてもらう。

 どうせこの世界が抑止力なんて単語はないだろうし、強力な武器や兵器があるのであれば惜しみなく使うだろう。


「そうか。それを聞いて少し安心した」

「お前達に無駄な血で汚れるのは見たくない。元々そんな虐殺とかに興味はねぇよ」

「本心のようで何よりだ。それでは少し聞いてくる」


 そう言ってシルフィードは飛んで行った。

 さて、父親はこの状況をどう見ているのか。その確認だけでもしておきたいところだ。


 そして玄関を開けると何故か執事にメイド、騎士達にリリアにノアと勢ぞろいだ。

 全員どこか覚悟が決まっているような視線であり、その迫力にちょっと気圧される。


「アレックス様。出陣ですか」


 ノアが大真面目に聞いてくるので一体誰から聞いたんだろうと思いながら言う。


「待て待て、まだ俺が戦場に出るなんて決まってない。殿下からいざという時は力を貸せと言われてきただけだ。もちろん貴族として力は貸すと言ってきただけだ」


 俺がそう言うと全員ホッとしたように空気が柔らかくなった。

 1番ホッとしているのはノアのようで抱き着いてくる。


「……殿下の事だからすぐに行けというかと思った」

「すぐに行かなように脅しておいた。婚約者がいるのにそう簡単に戦場に出てたまるか」


 そう言いながら抱き返すと少しだけノアの腕の力が弱まる。

 その様子を見ながら少し羨ましそうにしているのがリリアだったので手招きして一緒に抱きしめる。


「心配させたみたいでごめんな」

「お兄様……どこにも行かない?」

「今の所はな。殿下から軽く話を聞いた。今帝国に攻め込まれている国から軍事同盟を結ばないか提案されているらしい。でも帝国の侵攻速度によっては俺も行かざる負えない事態になるかもしれない。これは辺境伯として避けては通れない義務だからその時は仕方ないから戦場に行くさ」

「それほどまでに状況は緊迫しているとみてよろしいでしょうか」

「どうだろ。本当に緊迫していたらすぐにでも俺の力を借りようとしていたかもしれない。それがないって事はまだ余裕はあるんだろう」


 今攻められているのはあくまでも隣国。その国が落ちる前にどうにかするべきかどうか、それを判断するのは陛下だ。

 あの人が他の国と共に攻めるべきだと判断したのなら俺も出るしかない。

 他の命を奪う事も、俺の命を危険にさらす事も嫌だが、やるしかない状況になったらやる。

 死にたくないからな。


「だから今すぐどうこうって事はない。安心してくれ」


 俺がそう言うとノアもリリアも、他のメイドや執事、騎士達もようやく安心してくれたようだ。

 でもいざという時のために準備だけはしておこう。


 ――


 夜。

 みんなには大丈夫だと言ったがそれでも準備は進めておかなければならない。

 本当に念のため、いざという時に万全に動けるよう仕込みだけは済ませておく。

 最後の偽りの紅蓮銀河を配置し、ダブルドローを2枚使う。

 その結果いいカードが引けた。

 これ以上はドローするマジックカードはないし、いつ戦いに行くのかも分からない。

 残りデッキの枚数は18枚、つまり18日を過ぎればまたデッキはリセットされ手札が再分配されるのでタイミングもかなり重要だ。

 リセット後は手札を増やすカードが来てくれれば助かるんだけどな……


 そう思っていると扉がノックされた。


「どうぞ」


 リリアが不安になって部屋に来たのかと予想したが、訪問客はノアだった。

 手札を片付けて本をテーブルの隣に置いてから聞く。


「どうしたノア?何か相談か?」

「……あなた、その……」


 何か非常に言い辛そうにして口を開けては閉じてを繰り返す。

 とりあえずベッドを叩いてこっちに来るようジェスチャーするとベッドに座った。

 そして顔を真っ赤にしながら覚悟を決めたように言う。


「その、これからは一緒に寝てもいい、ですか」


 ちょっと意外なお願いであり、突然どうしたのかと思った。


「うんいいよ、ほらこっちに来な」


 布団を持ち上げながら隣を空けると恥ずかしそうにしながらノアは俺の隣で横になる。

 何故か背を向けて寝てしまったので抱きしめながら聞く。


「もしかして……不安か?」


 そう確認してみるとノアは黙ってうなずいた。

 まぁ婚約者が戦場に出るかもしれないと考えれば不安なのは当然だ。

 召喚士で安全圏から攻撃できたとしても最長でどれくらいないのかは分からない。

 たとえこの屋敷からスピリットを使役する事が出来たとしても、実際の戦場を見なければ行動できない場面もあるだろう。


 だから戦場に行かなければ適切な判断は取れない。

 もちろん俺は前世の頃戦争なんて経験していないし、趣味レーションゲームすらろくにしていないのだから戦場という物を全く知らない。

 もしかしたらどこかの軍師の下でスピリットを使役するかもしれない。


 全て予想の段階だが、普通に考えれば俺1人で行動できる場面はないだろう。

 軍事訓練も受けていない俺がどこまでできるのかは分からないが、やらなきゃいけない時は来る。


「大丈夫だ。必ず帰ってくるから」

「……物語じゃそう言って大抵の人は死ぬ」

「あ~……それじゃ……帝国滅ぼして戦争終わらせてくる?」

「そんなことしたら次に危険視されるのはあなたよ」

「……それじゃなんて言えばお前の不安を取り除ける?」

「取り除けるわけないでしょ。戦争に行かないって言わない限り」


 そりゃそうだ。

 というかそもそも行くと決まった訳じゃないし、まだ未定なのだからその辺も分からない。

 ただ殿下に相談されたから可能性があるというだけだ。


「それじゃ……逃げる」

「え?」

「危なくなってきたらシルフィードに頼んで逃げる!これでもダメ?」


 死亡フラグっぽく無いセリフなんてこれくらいしか思いつかないぞ。

 なんて思っていると腕の中に居るノアがフルフル震えている。

 怒っているのかと覗き込んでみると笑っていた。より正確に言うと笑いをこらえて震えていた。


「何だよそれ。こっちがせっかく真面目に考えたって言うのにさ」

「ふふふ。ごめんなさい。だって逃げるなんて言うとは思わなくって」

「普通に俺だって生き残るためなら逃げるっての。戦場で散って満足する訳ねぇだろ」

「それじゃどうしたら満足する?」

「そうだな……結婚して、子供作って、大人になるまで頑張って、孫の顔が見れたら満足かな」

「ふ~ん。ちなみに結婚相手は?」

「お前以外どこにいるって言うんだよ」

「そうよね。エムリアール様にも全然興味ないものね」

「何でそこにエムリアール嬢が出てくるのかは分からないが、結婚したいと思うのはお前だけだ。それはこの先ずっと変わらない」


 そう言うとやっと安心したのかすり寄ってくる。

 改めて抱きしめると今度はからかい始める。


「それじゃ私と子供欲しいんだ」

「当然。あ、一応言っておくが貴族の義務じゃないぞ。惚れたからお前との子供が欲しいだけだ」

「それ言ってて恥ずかしくないの?」

「全然。夫婦だし普通の事じゃない?」

「……ホントそう言う所よね。押しかけ女房の事好きになっちゃって、変な人」

「お前こそ変だろ。変わり者の夫に結婚してくださいって言ってきたんだから」

「それもそうね。ようやく少し安心した」


 そう言いながらもやはり不安は残っているのか、俺の服を掴む。


「……殿下はあなたの力を恐れてる。大きな力だから当然なのかもしれないけど、もしその力を恐れてあなた1人を戦場に取り残すような事をしないか心配」

「そうなったら1人で勝手に帰ってやる。そして二度と戦争には参加しない。裏切ったんだから信用できない奴とは組みませんってな」

「もしそうなったらこの国の戦力は大変な事になるかもしれないわね」

「小僧1人いなくなるだけで国が持たなくなるって言うんなら遅かれ早かれだろうよ」

「そうかもしれないわね」


 そう言ってようやくノアは微笑んでくれる。

 ようやく安心できたようだ。


「もし戦争に参加する事になったとしても、必ず帰ってきてね」

「当然。というかまだ決まってないからな」

「それでも」


 そう言って俺の胸に顔を擦り付ける。

 優しく頭を撫でている間に安心したのかノアは寝てしまった。

 本当に参加しない事を望んでいるんだけどな。

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