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リリアの事しか見てない殿下

 みんなで解体していると国からの使者……じゃなくて殿下と従者達、でもって騎士団がやって来た。


「……今回は助かった……」


 非常に不服そうな表情で言われても何も嬉しくない。


「そうですか。魔物退治に関してはそちらの功績でいいので首から下はこちらでもらいますよ」

「もう既に解体しているではないか……」


 格好つけるために無理をしたのか、殿下の顔色が悪い。

 薄っすらと化粧をしているようにも見えるが隠しきれていない。

 俺は両親から召喚に関する注意を受けていたが殿下は受けていなかったんだろう。大方俺にできたんだから自分にもできると思ったんだろう。


「それでいいのなら残りは渡す。その代わり民には私達の功績だと伝える」

「別に良いですよ。この程度いつでも狩れるので」


 思っていたよりも殿下がつまらない奴になったな~っと心の中で思いながら解体に戻る。

 騎士達の中には元冒険者達もいるので解体は非常に丁寧であり、素材を傷付けまいと細かい部分まで気を使っている。


「アレックス様!良いも入ってましたよ!!」


 解体中1人の騎士がそう言った。


「何だ?良いのって」

「魔石です。それなりに大きいので魔道具作りにでも使ってください」

「こういう形でも出てくるんだな。ありがたく使わせてもらう」


 流石に魔石1個じゃ厳しいが、それでも何らかの素材として使用できるかもしれない。

 せっかくの贈り物なのでポケットにしまった。


「それよりいいんですか?」

「ん?何が」

「リリアお嬢様、付きまとわれてますよ」


 小声で言う騎士の先にリリアが殿下に詰め寄られている。

 その姿に俺はため息をついた。


「恋ってのは本当に心の病なんだな」

「いや、それはちょっと厳しすぎません?恋がないってのはちょっと寂しいですよ」

「そうですよアレックス様。恋は素晴らしい物です」


 意外と物怖じしないメイドが肉の一部を切り取って運ぶときに首を突っ込んできた。


「そりゃ恋そのものは悪くねぇよ。でも王族や貴族となると話は別」

「それはどういう事です?」

「正室であるクロエス様が寂しそうにしてるだろ」


 俺の言葉に2人は気が付いた。

 殿下はリリアの事ばかり気にかけてクロエス様の事をまるで見ていない。

 クロエス様はその事に関して悲しんでいるというよりは、ああ、やっぱりかという感じでもう既に諦めてしまっている感じすらする。

 そしてその光景を他の騎士や従者達が見ている前でだ。

 もし他の貴族だったら即座に噂になるだろう、そしてクロエス様の事を名ばかり正室と呼ぶかもしれない。


「恋をするのはいい。誰かが見ず知らずの誰かの事を家族の様に愛せるって言うのは確かに素敵な事だと思うし、憧れた事がないとは言わない。でもな、それでも順序という物はあるんだよ。正室が1番で側室が2番目3番目、そうする事で秩序が守られる事もあるんだよ」


 ノアも人前でリリアの事ばかり気にかけている事に頭を抱えている。

 リリアもクロエス様にも同じような事を言わせようと誘導しているが、一言二言言ってすぐにリリアに戻ってしまう。

 これ本当に婚約破棄されてリリア1人に絞られる可能性高いな……

 もしそんな事になったら王族と貴族のバランスが崩れそうだし、フラれたヴィーナ大公が怒って色々やらかすかもしれない。


 想像すれば切りがないが……貴族がハーレムを築くというのは、そういう事も付きまとうという事だ。


「確かにあれでは……」

「クロエス様可哀想……」

「問題はこの後。殿下がリリア一筋になってもうちはそれを許すつもりはない。権力闘争に参加する事になるからな。ただでさえ俺の場合ノアと婚約して他の連中から妬ましく思われてるって言うのに、今度はリリアが殿下の正室になりましたって結婚で権力あげる気満々だと思われる。いやもう既に思ってるだろうな。そんな面倒な事我が家は突っ込む気全くありません」

「えっと……仮に殿下が本気でリリア様を正室にしようとしたら……」

「逃げる。元々側室してならいいよって契約内容だからそれを破ったのはそっちだろって言って婚約破棄するつもりだ。まぁ言い方変えると側室として結婚すると言われている間は無理なんだが」


 そう言いながら熱烈なアピールをする殿下を見る。

 まだ正室にするとかそういう様子は分からないが、結婚できるなら立場なんて何でもいいと言われればそれまで。リリアもそのことは承知で婚約したんだからあとは自己責任と言われればその通りだ。

 リリアにも野心があり、目的を達成するために結婚すると決めたのだから。

 まぁそれの目的がカード事業と言うのは規模がデカいの小さいのか分からないけど。


「解体完了!お疲れっした!!」

「お疲れさまでした!!」

「俺はワニ肉食ってみるけど他に食いたい人いる?」


 そう聞いてみたら全然いなかった。


「そうか……料理長に連絡。俺だけしばらくワニ肉祭りでいいよって」

「本当に食べる気ですか?魔物肉」

「食うよ?勿体ない」


 食への好奇心と勿体ない根性で食べる。

 こういう所だけは前世から変えられないな。

 なんて思いながら片付け今日の分の肉を確保する。

 これで少しは節約になるな。


「ノア!このワニ皮を高く買ってくれる所ってどこかな?少しでも高く売りたい」

「あら、売るの?」

「だって魔道具の素材にはならないからな。骨や角みたいなところとかは使えるらしいけど、魔道具に使えない部分は売るつもりだ。ノアならいい買い取り先知らない?」

「そうね……やっぱりあの店かしら。あとで手紙を送って買い取ってもらえるか相談してみるわ」

「頼む。あとワニ肉食ってみる?」

「さ、さすがにそれは遠慮しておくわ」

「リリアはどうする?」

「わ、私も遠慮しておこうかな……」


 うむ。俺以外食う気なしか。

 ちょっと寂しい。


「そうか。それで殿下の方はどうします?」

「あの魔物の死体がどうなったかと、リリアが無事か確認しに来ただけだ。あとは特にない」

「……そうですか。では気を付けてお帰りください」


 俺がそう言うとあっさりと殿下達は帰った。

 マジでここまで薄情とはな。

 クロエス様の事を見てそっと手を向ける。


「お帰りの馬車を用意します。それまで少しお休みください」

「ご配慮いただきありがとうございます」

「ノア、応接室か客室に通してあげて。まだ疲れてると思うから」

「ええ、分かったわ」


 とりあえずクロエス様の事はこれでいいか。

 リリアはクロエス様に対して申し訳なさそうな表情をする。


「私、これからクロエス様の事どう声を変えればいいのか分からない」

「確かにな……難しい問題だ」


 人間関係ほど面倒臭い物はない。

 誰かとの繋がりによってメリットを生む事もあるが、デメリットだってある。

 それが人付き合いとか色々言い方はあるだろうが……これは流石にあんまりだ。


 クロエス様が殿下の事をどう思っているのかは分からないが、それでも婚約者にここまで興味ないと態度を取られるのは非常に苦しいだろう。

 俺だって最初ノアが押しかけ女房してきた時は困ったが、それでも妻として愛そうと努力してきたつもりだ。

 でも殿下はクロエス様の事を愛そうともしていない。


「お前との契約。すっかり忘れてそうだな」

「うん……私だけじゃなくて、私達を愛してほしいって言ったのにな」


 リリアから口に出した殿下との契約はそれだけ。あとは貴族とか王族として必要な取り決めだ。

 もうクロエス様の事を忘れてリリアの事だけを愛そうとしている。

 言い方が悪かったのかね~……


 何とも言えない空気になっていると汗を垂らしながら走ってくる若い執事っぽい人が屋敷に向かっていた。

 その人の顔を見てリリアはアッとした。


「リリア知り合いか?」

「あ~……すっかり忘れてた」

「し、失礼します……はぁはぁ……リリア様。こ、こちらにクロエス様はいらっしゃいますでしょうか?」

「今屋敷で休んでもらっています。お兄様、こちらの方はクロエス様の従者、トレインさんです」

「初めまして、リリア様のお兄様。私はヴィーナ家に仕えているトレインと申します。リリア様をお救いいただきありがとうございます」

「いいえ、当然の事をしただけです」

「それでその、クロエス様は……」

「今屋敷で休んでいただいてます。えっと……ノア!クロエス様今どうしてる?」

「クロエス様は今客室で眠っている所よ?そちらの方は?」

「この人はクロエス様の従者のトレインさん。クロエス様を迎えに来たみたいだが……寝てるんだよね?」

「さっき寝たばかり。やっぱりお疲れだったみたいね」

「そりゃそうだよな。トレインさんも休んで行ったらいかがです?帰りは馬車で送りますよ」

「それはその!失礼では……」

「今回の事件が事件ですし、トレインさんも走ってお疲れでしょう。ぜひ客室でお休みください」

「……それではご厚意に甘えさせていただきます」


 こうして一緒に屋敷に戻る。

 とりあえずクロエス様の味方が見れたのは良かった気がする。

 その後クロエス様が目を覚まし、トレインさんも目が覚めたところで馬車でヴィーナ家に送っていった。


「本日は何から何までお世話になりました」

「いえ、これくらい普通ですよ。それではおやすみなさい」

「おやすみなさいませ」


 クロエス様はしっかり寝てしまった事が恥ずかしいのかトレインさんが対応する。

 特に気にする事なく帰るが、リリアの婚約。マジで見直した方が良いかもな。

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