王族の女の子
庭園の雰囲気に合った小さなお菓子が並べられたティーセットの前にあまりにも場違いな料理の数々。
デザートみたいな優雅な言葉ではなく、本当に腹が減っているからの食事という肉やら魚やらが山盛りになった品のない皿。
女の子は俺の山盛りの料理を前に驚いていた。
「……お腹、減ってるの?」
「ああ、腹減ってたんだ。さっきまで王族と合うからって朝は少量だったから」
口元にソースや食べかすがついては失礼という事で朝はあっさりした物しか食べていない。
あまり脂っぽい物ではなくてもせめて量が欲しかった。
両親の言う事も一理あるし。
「そうなんだ。ところで名前は?」
「ああすまん。そう言えば言ってなかったな。俺はアレックス、アレックス・ヘキサグラム」
「ヘキサグラム?それじゃアーシャ様の……」
「息子だ。領地から出るのは初めてなんだがうちの両親って有名なのか?みんな両親の名前を出すんだが……」
「知らないの?バシレウス様は魔物がいっぱいいる国境を守る名将だし、アーシャ様は魔法の第一研究者。そのお2人の子供は凄いかもしれないってメイド達が言ってた」
「そんなに凄かったんだ……うちの両親」
国境を守る仕事が中心と聞いていたし、防衛のために色々している事も聞いていたが想像以上に重要な仕事だったらしい。
そして母親も魔法に関して色々知ってそうだったがまさか研究者だったとは。
「知らない事ばかりだったな……」
「ほ、本当に知らなかったんですか?かなり有名なのに??」
「知らなかった」
あっさりと認めるとようやく女の子は笑った。
クスクスと上品に笑う姿はやっぱり王族なのだろう。
何せ城の庭園にいるからな。
「それで君は?君は社交界に出ないの?」
「社交界は……来年10歳になるからその時にってお父様に言われてるの」
「なるほど。でも寂しくない?1人でお茶してるの」
「……慣れてるから」
何やら複雑な事情を抱えていそうだ。
俺も転生なんていう普通ならあり得ない事をしているのだが。
「そうか」
「それから……その子はあなたのお友達?」
「ブレイドの事か?まぁそんな所。俺召喚士だから自分で召喚したんだ」
「召喚士!?すごく扱うのが難しいって聞いてる。どうやって使いこなしてるの?」
「その辺は企業秘密かな。お母様もよく分かってないみたいだから」
まさかカードゲーム形式です、なんて言っても伝わらないだろうし、理解できるか分からないからな……
あ~対戦相手欲しい。
「アーシャ様が分からないなんて……あなたって天才?」
「そんな訳ないって。俺はただの貴族の子供。将来的には親の跡を継ぐ立場になるんだろうけど……まだ実感は沸いてない。あと俺より殿下の方が才能あるんじゃない?」
「ヘルダイム殿下は……本当に多才だから」
ほれ本物の天才はそっちっぽいな。
所詮俺は転生者チートを持っているだけのズル野郎。
えばれる要素はないんですよ。
「それに比べて私は平凡で……」
「あまり格上の相手と比べると自分自身を見失うぞ。程よくいこうよ」
俺の言葉に不思議そうに首をかしげる。
「何故です?常に上を目指すのが良いのではないでしょうか?」
「向上心があるのは良い事だけどさ、あまりにも高すぎる目標とか見上げるのが当然になると身の丈に合わない事をやらかしたり、あんまりいい事ないぞ」
周りから見ればくだらない事と言われるかもしれないが、カードを本気で触れていた時期がある。
その時どうやったら勝てるのか、どこカードとどのカードによって強力なコンボを発揮する事が出来るのか、現在の環境デッキは何か、そのデッキを俺は使いこなせるのか、使いこなせないのであれば現在の環境に対抗できるデッキは何か――
なんてずっと終わらない考えに囚われていた。
あの時ほど時間を無駄にしたと感じた事はないだろう。
正直に言えば俺だって勝ちたいという欲求はあったし、自分なりの最強デッキというのも作ってみたいと考えた。
だが自分にとっての最強デッキは、現在の環境とかそういう物を考えずに好きな切り札を主軸にデッキを組む方が何倍も楽しかった。
だからその時から俺はガチ勢にはまったくならなくなり、エンジョイ勢として楽しむ事を優先する事になった。
この目の前の女の子も俺のようになっては欲しくないので一応言ってみた。
聞き入れてくれるかどうかは分からないけど。
でも女の子は少し考えた後、疑いながら言う。
「そういう物ですか?」
「俺の中ではね。まぁある程度の自由があるからこういうことが言えるのかもしれないけど、何かに拘り過ぎて自分自身を見失いような事はやめとけって事」
多分俺が言いたい事はこれだと思う。
熱中するのは悪い事ではないだろうが、熱中しすぎて自分自身を見失うと本当に自分という物を見失ってしまう。
たんこれが言いたいんだと思う。
多分……
「ふふ、あなたは優しいんですね。見ず知らずの私に言ってくださるなんて」
「見てられなかっただけだよ」
なんて軽く言うと社交界会場の方が少し騒がしい。
もしかして俺が居ない事がバレたか?
「そろそろ戻らないと。それじゃあね、おしゃべり楽しかった」
「ちょっと待ってください!」
そう言って皿を片付けながら去ろうとすると呼び止められた。
「どうかした?」
「……また会えますか?」
そう聞かれると分からない。
だがもしかしたらだが――
「来年妹が10歳になる。その時に付き添いで来れたらまた会えるかもな」
ただの可能性を口に出すと女の子は優雅にドレスの端を摘まみながら頭を下げる。
「その時はぜひ、私とお食事はいかがでしょうか」
「……おごりなら食いに行くよ」
なんて冗談を言うと女の子は笑いながら見送ってくれた。
再び社交界に戻ってくると一番最初に俺を見つけたのはリリアだった。
「あ!お兄様発見!!」
その言葉に両親も俺に気が付き駆け寄ってくる。
「一体どこにいたんだ。探したぞ」
「変なところに行ったりしてないわよね?」
「騒がしかったので1人で飯食ってました」
そう言うと両親は呆れ返っていた。
「全く。城を勝手にほっつき歩いていたかと心配したじゃないか」
「アレックス。ここは我が家の屋敷じゃないのだから勝手な行動は慎みなさい」
「階段に座って飯食ってただけですよ?」
「それはそれで辞めなさい。早くその皿を下げて帰るぞ。社交界は終わりだ」
両親に怒られながら俺達は社交界会場を後にした。
あの王族の女の子にまた会えるのか、それだけは楽しみかもしれない。




