カイロ実験と言う遊び
冬と言う期間は本当にやる事がない。
一応領主としてやる事と言ったらそのほとんどは防衛だ。
この寒い中暖房の利いた車もなければ戦車もない。
だから冬に戦争をする事はほとんどなく、大抵は魔物を警戒して防衛する。
手紙のやり取りだがファランゴル王国でも冬の間は攻めてこられないだろうと想定して、防衛部隊の規模を一時的に縮小させたらしい。
今でも一部の若者や歴戦の戦士が残っているくらいだそうだ。
こう寒いと暖房器具が欲しくなるが……エアコンなんて作り方全く分からないし、暖炉があるのだからこれ以上無理に暖房だけの装置を作り必要はないと思われる。
そもそもこの世界基準だと暖房=暖炉のイメージが強すぎる。
そして俺が知っているコタツなどはすべて電気を使った物。
掘りごたつとか名前だけは知っているが穴掘るだけではないはず。作り方が分からなければ作れない。
まぁやろうと思えばトライ&エラーを繰り返せばそれっぽい物は作れると思う。
だが既にレンガなどで2階建ての建物を作る事を主流としている文化で必要かと聞かれると……正直疑問だ。
でもコタツみたいな物は欲しいよな……
今度会社に頼んで作れないか聞いてみるか?
あ~でも布団も必要だから今度は布関係のギルドと足取り揃えないといけなくなるのか。
やりたい事は見つかってもすぐに実行できないのはちょっとあれだな。
「……そうだ。あれなら上手くいけばできるかな?」
日本と言えばあれも必須だと思い出し実行できるか頭の中で考える。
あれと言うのはカイロだ。
鉄を酸化させる際の化学反応で温まる使い捨てカイロ。
世の中には何度も使えるカイロがあると聞いた事があるが……あれ?それならカイロを作らなくても温めた石を火傷しないように袋に入れれば十分できるか?
…………自己完結するのが面白くないので科学実験もどきの遊びとしてやってみよう。
確か必要なのは鉄粉と塩水。参加させる効率を上げると熱を帯びるって仕組みだったはずだから……炭とかも入れていた方が良いのか?
とりあえず今回は簡単に鉄粉と塩水だけでいいか。
自作するのは初めてだし。
鉄粉を入れるための紙袋を用意。
そして鉄くずは……確か屋敷の粗大ごみ置き場にあったはずだな。折れたりヒビの入った剣をまとめて入れていた箱があったはず。
塩水に関しては……食用でもいいかな?この世界物流レベルも低いから一つまみだけもらおう。
水は生活魔法レベルなら俺でも使えるから問題なし。
最悪雪を体温で溶かして使えばいいだろう。
材料の確保はこれで良し。
とりあえず折れた剣を削って粉を作る。
掌一杯くらいでいいだろうか?
そこに塩水を入れて軽く振る。
…………あんまし温かくないな?
ほんのりと言うか、気のせいくらいには温かいが日本の物とは全く違う。
何か材料が足りないのだろうか?
それともすでに鉄が錆びていた?
それとも袋が酸素を吸収しきれていない??
とにかく思いつきではやっぱり成功しないな。
確か……炭を入れると良いんだっけか?
簡単に言えばどれだけ効率よく酸化させるかが肝な訳だし、鉄の質も重要かもしれないがそれ以上に塩水の割合や炭をどれくらい入れるかか。
大まかに知っているだけでどれも実際にやった事ないんだよな。
後一応これ科学実験だけど他の人が知ったらどんな風に思うんだろう?
やっぱり魔法で温めるのがいいだろうで終わるのだろうか?
でも魔法使いの数は少ないし、やっぱり誰でも使えると言うのは一定の価値があるはず。
まぁ商品化するつもりはないが気晴らしにはなった。
小さな趣味として実験するのも悪くないかもしれない。
――
「最近何してるの?」
今日も遊び半分でカイロ実験をしようとしているとノアに引き留められた。
「なにって……遊び?」
「こんな寒い時に外で?少し前まで嫌がってたくせに。それに手だけ汚れている事も多いから余計に変で」
「ああ、前世の知識を使って簡単な暖房アイテム?を作ってたところ。見てて面白い物でもないぞ」
「前世って聞くと少し興味あるわね。目の前で見せてよ」
「見せるのはいいんだが……めっちゃ汚いぞ」
「それじゃ私も着替えようかしら」
何て言うので屋敷内でどこか汚くしてもいい所を聞く。
そうしたら母親が研究室の場所を少し貸してくれた。
「何か魔法の実験?それなら私の目の前でやりなさい」
という事で場所を借りれた。
と言っても魔法じゃないんだけどな。
「それで何をしていたの?暖房と言ってたけど」
「前世の世界には魔法が無かったからな、これで温まってたんだ」
「…………砂で温まる?」
「砂じゃなくて鉄粉だ。これに塩水を混ぜると酸化するときに熱を発するんだ」
「?酸化って何?」
「簡単に言うと錆びるって感じかな。鉄が錆びるときに熱を出すからそれで温まるって感じ」
「剣も鎧も錆びても熱くならないわよ?」
「そのための塩水だ。普通に錆びるだけならもちろん熱も大した事ないんだけど、意図的に、急速に酸化させると熱くなるんだよ。最初はこれでちょっと寒い時に使えるかな~なんて思ったけど、思っていたよりも調整が難しい」
ぶっちゃけぬるい位ならいいんだが、調整にミスって熱くなり過ぎると非常に危険だ。
前世でも張るタイプを付けたまま寝ると火傷するぞって注意書きもあったくらいだし、物によっては本当に寒い状況で使わないと火傷するんじゃね?ってくらい強力な奴もあった。
だから丁度いい配合について調べている途中。
そんな俺の手元を見てノアと母親が興味深そうに言う。
「これが科学ね……よく見つけられたわね」
「魔法でないから作り方と原理さえ分かっていれば誰でも模倣できる。これに関しては大きなメリットね。これは商品化しないの?」
「俺も最初はそれも考えましたけど、供給方法が思いつかないんですよね。酸素、つまり空気に触れさせることで熱を発するので作った傍からすぐに温まり始めるのでその間空気を触れさせないようにする技術が出来るかどうか……」
「空気を抜けばいいんでしょ?それなら簡単そうに見えるけど?」
「だから問題はその空気を抜いた後に空気を触れさせない袋が必要になる。つまり1つは鉄粉とかをこぼさないための袋と、その袋を空気に触れさせない袋の二重構造にしないといけない。無理な場合俺みたいにその場で作るしかない」
だからカイロの場合どうやって密閉すればいいのかと言う問題が付きまとう。
ビニールとかがあった前世なら空気を通さない袋は用意できたが、こっちだとまだ紙袋くらいじゃないだろうか。
完全に空気に触れさせない技術を作り出さない限り供給は出来ないだろう。
「こんな鉄の粉で簡単にできるのに。勿体ない」
ノアがそう言いながらカイロを見る。
実際便利なんだよな。直接火を使う訳じゃないからある程度安全だし、火傷しない程度に調整すればさらに危険度は下がる。
まぁ結局今のところは実現し辛いんだけどな。
だが母親はじっとカイロを見て何かを考えている。
そして俺に言う。
「これ、もらってもいいかしら?」
「え、そりゃいいけど……」
何に使うのかがさっぱり分からない。
ただ単に科学に興味を持った?それともカイロを実用化しようと考えている?
正直言って魔法にばかり興味があると持っていた母がカイロに興味を持つのは意外だ。
不思議に思いながらも俺はカイロの実験を続けた。




