92:その優雅さがなかった理由
馬車ではアルベルト、その隣に私。対面の席にレオナルドが座っている。
レオナルドは、アルベルトの正面に座ってくれていた。
ゲームでは見慣れた姿だが、リアルでレオナルドを改めてみると……。
直視するのが躊躇われる。
視線があえば、思わず恥ずかしさで伏せたくなる。
そんな美貌だ。
だから。
正面に座られたら落ち着かず、もう狸寝入りするしかなかっただろう。
「しかし、魔術師レオナルド、驚きましたよ。王都からこの場所は、決して近い場所ではありません。よく駆け付けることができましたね」
アルベルトのこの言葉で、あの男達の襲撃に気づいたレオナルドが、王都からやってきたのだと理解する。
「ドルレアン家に関わる人間に尋問をしていた騎士より、報告が上がってきました。金で人を雇い、刺客が放たれたと。王太子さまの視察に紛れ込ませた騎士の、口封じのために。そこで急ぎ駆け付けたわけです。……ただ、申し訳ありません。間に合いませんでした。ドルレアン家の息のかかった騎士は、既に殺害されていました」
レオナルドが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「大丈夫です、魔術師レオナルド。確かにあの三人の騎士は、口封じのためで害されてしまいました。亡くなってしまったことは、不幸なことです。ただ既に尋問は済んでいたので、ドルレアン家の悪事につながる情報は、掴んでいますから」
アルベルトはそこでレオナルドを真っ直ぐに見据え、さらに言葉を重ねる。
「むしろ、パトリシアの危機に間に合った方が、奇跡です。……魔術師レオナルド、あの旅籠に現れたあなたの行動は、驚きでした。あなたは魔法で変身していたのですよね? 全身黒ずくめの姿に。誰もそれが魔術師レオナルドとは、気づかなかった。部下の報告によれば、全身黒ずくめのその姿で、『パトリシアをさらった。取り戻したいならついてくるがいい』、そう叫んで黒鹿毛に飛び乗り、突然走り出した。すでに旅籠では異変が発覚していたので、マルクスが部下を連れ、慌ててあなたの後を追った。どう考えてもその言動は、旅籠を襲撃した刺客のもの。マルクスは、あなたを刺客の一人と考え、全力で追いかけた」
レオナルドはただ黙って、アルベルトの話を聞いている。
アルベルトは、レオナルドが聞く姿勢にあると理解し、話を続けた。
「夜の闇の中を走るのにあなたの姿は輝いて見えた。だから見失うことなく、あの刺客たちが潜伏する建物に辿り着けた。ただ、あなたは直前で姿をくらませた。それでも建物が既に見えていたので、そこにいるに違いないと、マルクスはそのまま建物に向かった。建物の近くで馬を止め、敷地内の様子を確認していると、魔術師レオナルド、あなたの姿が見えた。建物の中に入っていくところだった。すぐに追いかけようとしたところで、わたしや残りの三騎士と騎士が到着した。そしてあの建物に踏み込むと……。既に刺客はあなたの手で倒されていた。まさに電光石火。王宮において、魔術師レオナルドと言えば、その優雅さが特徴だったはずです。慌てず、動じず、優雅に。でもあの時のあなたは……マルクスによると、乱れる髪も気にせず、青ざめた顔で、あの建物に入っていったとか。そこまで余裕がなかった理由は、何なのですか?」
アルベルトの問いにレオナルドは、優雅な笑みでまず応え、そしてゆっくり口を開いた。
「パトリシアさまは既にさらわれていました。もたもたしている時間はないと、分かりました。つまり事情を説明する時間が、惜しかったわけです。そこでいかにも賊の一人と見えるような全身黒ずくめの姿で皆の前に現れ、私を追うように仕向けました。私を追えば、刺客たちがいる建物につくよう、誘導したのです。余裕がなかった……まあ、あのような状況であれば、皆、そうなるのではないですか、王太子さま」
聞けば納得のパーフェクトな回答をレオナルドはしたと思うのだが、アルベルトは苦笑している。
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次回は明日8時に「完全なポーカーフェイス」を公開します♪



























































