91:面影はない
レオナルド・フリューベック・マルティネス。
ガレシア王国の王宮付きの魔術師で、この国で一番強い魔力を持ち、様々な魔法を使える。
魔術師ではあるが、剣術もたしなんでいる。そしてその腕は、三騎士であり、剣の騎士ミゲルとも、互角に渡り合えると言われている。
さらに特筆すべきはその容姿。
目の覚めるようなアイスブルーの髪をしており、そのサラサラとした髪は、陽光を受けると、キラキラと光り輝く。眉毛も睫毛も髪色と同じで、瞳の色は紺碧。
きめの細かいシルクのような肌をしており、唇は淡いピンク色。
純白の軍服をまとい、髪色と同じアイスブルーのローブを身に着けているが、その歩く姿は光り輝き、男女問わずに見惚れて足を止めてしまう。そして凛とした声をしており、詩のような美しい魔法を唱える。その声を聞いた女性は、陶酔して意識を失うこともしばしと言われていた。
そのあまりにもクオリティの高い姿に、『戦う公爵令嬢』の制作陣に、拍手喝采を送るファンがたえなかった。
その魔術師レオナルドが、目の前にいる。
さっきまでアズレークの姿をしていたのに、一瞬でその姿がレオナルドに変わっていた。
「パトリシア、無事ですか」
髪を乱し、駆け付けたアルベルトが跪いて、私の両手を取る。
マルクスとミゲルは、床に転がるあの屈強な男達に、縄をかけている。
そうだ。
この屈強な男を倒したのは、アズレークなのだ。
見ると剣による傷などはなく、打撃技で気絶させているように見える。
短時間で、しかも暗闇の中、二人の屈強な男を打撃技だけで倒すとは……。
アズレークは……レオナルドは、本当に魔力だけでなく、そして剣術だけでもなく、武芸全般に秀でているのかもしれない。
「別の部屋にいた二名と、廊下に倒れていた二名の捕縛も済んでいます。魔術師様、念のため、逃走を防止する魔法をお願いしたいのですが」
ルイスも遅れて部屋に入ってきた。
「うん。そうだね。彼らの足の裏に楽しい魔法をかけようか。逃走を図ると、地面は針山に変わる。一歩も動けず、すぐに捕まるだろうね」
優しく澄んだその声は、『戦う公爵令嬢』で、何度も聞いたあの声だ。
その声、言葉遣いに、アズレークの面影はない。
マルクスは、アズレークとレオナルドに変わりはないというが……。
やはりアズレークは、レオナルドが演じていたものなのだ。
私は……レオナルドの番の可能性が高い。その事実を国王が知れば、レオナルドと私は、結ばれることができるだろう。
アズレークとレオナルドは、イコールだと分かっているのだが……。
ゲームでよく知るレオナルドを、心から愛せるのだろうか?
アズレークと、比べてしまわないだろうか?
「パトリシア、大丈夫ですか?」
再度、アルベルトに問われ、慌てて「大丈夫です」と返事をする。
アルベルトはホッとした顔をして「こんな場所に長居は不要です。旅籠に戻りましょう」そう言って私の手をとる。
チラリとレオナルドの方を見ると、床で伸びる男に魔法をかけている。
そのままアルベルトに連れられ、廊下に出ると、先ほど仲間を探しに行った男が倒れている。こちらも剣の傷はない。
その廊下にはいくつかドアがあり、その部屋を騎士たちが検分し、他に仲間が隠れていないか、確認している。
そのまま建物を出ると、既に雨は止んでいた。
するとそこに、馬車が物凄い勢いでやってくる。
どうやら旅籠からここへ来るよう、手配してくれたようだ。
ただ、御者ではなく、騎士が手綱をとっている。
「ではマルクス、ルイス、ここは任せた。捕えた男達は、あの荷馬車で旅籠まで連れて来て欲しい。ミゲルは馬車の護衛を。あとは五人の騎士を、護衛につくよう呼んで欲しい。魔術師レオナルドとパトリシア、そして私は馬車に乗る」
気づけば後ろに三騎士とレオナルドがいる。
アルベルトの指示を聞くと、全員が慌ただしく動き出す。
準備は整い、すぐに馬車が走り出した。
お読みいただき、ありがとうございます!
引き続きお楽しみください☆
このあともう1話公開します。



























































