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断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中
【本編】

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85/311

85:前代未聞

結局。


舞踏会は明け方まで続いたが、アルベルトが私にプロポーズをすることはなかった。本人はプロポーズをするつもりだったのだろうが、ひしめく令嬢たちがそれを許さなかった。この機会を逃してはという、女性の執念は相当なものだ。アルベルトとて、将来は国王に立つ身。王都から離れた地方貴族は、それでなくてもコントロールが難しい。だから令嬢の、その先にいる貴族の親の機嫌は、極力損ねたくなかったのだろう。最後の一人となる令嬢とのダンスを終えてから、自室に戻ったという。


一方の私はというと、もう途中から完全にすることもなく、ミゲルやマルクスからも「無理にこの場にいる必要はない。見知らぬ令嬢とアルベルト王太子がダンスするのを、ただ延々と眺めるという苦行は、自分達が請け負う」と言ってもらえて、夜半過ぎに部屋に戻ることができた。部屋に戻ると、スノーは既にソファで熟睡していた。私も大急ぎでドレスを脱ぎ、入浴をすませ、ベッドへ潜り込んだ。


翌日、朝食の席に現れたのは、領主ヘラルドとその家族で、アルベルトや三騎士の姿はない。今頃全員疲れ切って、爆睡中だろう。かくいう私も朝食のために起きたものの。部屋に戻ると、ソファでスノーと昼寝してしまった。一時間ほど昼寝した後は、読書をして過ごした。


アルベルト達と会えたのは、アフタヌーンティーの席だ。


昼食を終え、部屋で寛いでいると、メッセージが届いた。アルベルトからのアフタヌーンティーへのお誘いだった。ミモザ色のティーガウンに着替え、アルベルトの部屋に向かうと……。皆、午前中いっぱい休んでいたはずだが、疲れ切った顔をしている。


気心の知れたメンバーでのアフタヌーンティーだったからだろう。マルクスはサンドイッチを食べながら、欠伸をしている。


もし私が本物の聖女だったら……。こんな時に聖なる力で、皆を回復させることができるのに。そう小さく呟き、ティーカップに触れると。


ぽわんと小さな光が、カップを包んだ。驚いて皆の方を見ると、ルイスが私をガン見している。


「ルイスさま、もしかして見えましたか?」


「ええ、見えました。失礼ですが、パトリシア様に、魔力はなかったはずでは?」


「そうなのです。でも今、もし私が本物の聖女だったら、お疲れの皆さんを回復できるのにと思い、ティーカップに触れたんです」


するとアルベルトが椅子から立ち、私の席にくると、その場に片膝を地面につき、跪いた。


「わたしに対し、ティーカップにしたのと同じように、していただけますか?」


「はい」と返事をして、両手でアルベルトの頭を包み込むようにする。そして……。


「疲れが回復しますように」


そう呟くと、両手で包み込んだ頭が、ぽわんと淡い光に包まれる。

光が消えてから手をはなすと、アルベルトの瞳が、驚きで大きく見開かれた。


「睡眠のリズムが崩れ、頭が重かったのですが……それがなくなり、とてもスッキリしました」


「ルイス、これはどういうことだ? パトリシアさまに何が起きた?」


マルクスの問いかけにルイスは首を傾げ、そして一つの推論を口にする。


「魔術師様の魔力を、パトリシア様は自身の体になじませていました。でもその魔力はすべて、『呪い』を解くのに使われていたはずです。でもパトリシア様の体には、すでに魔力の流れができあがっていたのでしょう」


ルイスは一口紅茶を飲み、話を続ける。


「魔力は体内を循環していると言われています。とはいえ目に見えるものではないので、推測の域をでません。でも魔力は血管を通っているのではないかと、考えられています。パトリシア様の体内では、一度魔力が流れ、魔力の循環が確立されました。そして一度はすべて失われた魔力が、体を休めることで回復し、再び血管の中を巡るようになり、魔法として発動できるようになったのではないでしょうか」


ルイスの推論を聞いたミゲルが、驚きながらもこんなことを言う。


「ルイスの言う通りであれば、パトリシア殿は、魔法を使える人間になったということですよね。これは……こんなことは、前代未聞。しかもその魔力は、魔術師レオナルド殿のものです。きっと覚えれば、幅広い魔法を使うことができそうですね」


これにはアルベルトもマルクスも、驚いて言葉が出ないようだ。


「自分の推論が正しいのか、違っているのか、それは王都で魔術師様に確認ですね」


そう言うとルイスは席を立ち、アルベルトがさっきしたように片膝を地面につき、その場に跪いた。


「パトリシア様、自分にもその魔法を使ってみていただけませんか?」


「もちろんです」


こうして私はルイスの疲れも無事に癒すことができ、「俺も!」「わたしもお願いしていいでしょうか」というマルクスとミゲルの疲れも回復させた。


「パトリシア、これは奇跡です。回復の魔法は、魔法の中でもかなり高度なものになります。わたしの魔力では扱えない魔法。それを使えるなんて……。驚きです」


アルベルトに最後にそう言われた私は。

あの魔法を試してみよう。

そう決意する。

そこまで強い魔力が自分の中にあるなら。

きっとできるはずだと。



どうやら魔法が使えるらしいと分かった私が、まずしようとしたこと。


それは、スノーを人間の姿に変身させることだ。


だからアフタヌーンティーを終え、アルベルトと三騎士に部屋まで送ってもらうと。

ソファでおとなしくしているスノーに、声をかけた。


「スノー、話があるの。ちょっといいかしら?」


スノーはちゃんと私の言葉が分かるようで、すぐさまソファから降り、私の足元に駆け寄る。その体を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめ、魔法が使えるようになったと報告する。するとスノーは、ミニブタとは思えない表情で、驚きを示す。


「それで、スノーを人間に変身させることができないか、試そうと思うの」


そう言った瞬間、スノーが激しく暴れ出した。

いつもおとなしく抱っこされているので、驚いてしまう。


「ちょ、どうしたの、スノー」


スノーは絨毯の上に降りると、そのままソファの下に隠れてしまう。


「え、もしかして人間になりたくないの?」


ソファの下をのぞきこみながら尋ねる。

するとスノーはぶんぶんと首を横に振る。

人間になりたくないわけではない。

それなのになぜ隠れたのか。

しばらく考え、再度、ソファの下をのぞく。


「もしかしてスノー、人間に変身させるための魔法って、難しいの?」


ものすごい勢いで、スノーが首を縦にふった。


なるほど。


駆け出しの私が使うような魔法ではないのか。

もし失敗すれば、スノーは中途半端な姿に変身してしまうのかもしれない。


「分かったわ、スノー。人間の姿には、王都に戻ってから、ちゃんとアズレークに……レオナルドに教えてもらう」


この言葉に安心したのか、スノーがソファの下から出てきた。そして私の膝に乗ろうとする。


その体を抱っこし、ソファに座る。

夕食までの時間は、明日の王都への出発に向け、荷造りする必要があった。スノーの分もあるから、相応に時間は必要だが……。


少しだけ、スノーとおしゃべりタイムをすることにした。


「ねえ、スノー、王都についたら、アズレークは……魔術師レオナルドは、私に会ってくれるかしら?」


スノーは「会ってくれますよ!」という感じで頷く。


「会ってくれたとして……魔法を教えてくれるかしら?」


「もちろん!」と言いたげに口を動かし、頷いてくれた。


この反応を見るにつけ、スノーは彼のことが大好きなのだと分かる。


「ねえ、スノー、アズレークは……レオナルドは、私のこと、好きだと思う?」


私と過ごすアズレークの姿を見ていたスノーの意見を、聞きたいと思った。するとスノーは、ピョンと私の膝から降りると、すたすたとテーブルの方へ歩いて行く。そしてテーブルの上をじっと見る。


テーブルには食べ物などなく、ただ花が飾られているだけだ。


「……まさか、この花を食べたいの?」


「とんでもない」とばかりにスノーが首を横に振る。

前足をあげ、懸命に何かをアピールしている。


再度、テーブルの上を眺め、首を傾げた私は、そこでようやく気づく。


花瓶に飾られているのは、赤とピンクのビオラの花だ。

ピンクのビオラは、アズレークが魔法で私の髪に飾ってくれた花。


――「『私のことを想って』『信頼』『少女の恋』ですよ、オリビアさま」


スノーの言葉を思い出す。

ピンクのビオラの花言葉を。

アズレークがもし『私のことを想って』と、ピンクのビオラを、あの時、髪に飾ってくれたのなら……。私が自分のつがいだと気づいていて、でも私の気持ちはアルベルトにあると思い、密やかに花言葉で自身の想いを伝えていたなら……。


あの時のアズレークの顔を思い出し、胸がキュンとした。

お読みいただき、ありがとうございます!

次回は本日12時に「あの件、分かったぞ」を公開します。

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