77:嘘と真実
最初にレオナルドが考えた計画の中で、パトリシアはアルベルトのことを憎んでいるという想定だった。それは……当然だろう。爵位を剥奪し、一家離散に追い込み、自分を修道院送りした張本人だ。恨んでいるとアズレークが……レオナルドが判断するのは妥当。だが私はレオナルドに対し、毒殺未遂事件が濡れ衣であると説明する中で、こう話していた。
――「先ほどから、私を王太子毒殺未遂事件の犯人のようにおっしゃりますが、私はそんなことをしていません! あの時、私は王太子を心から愛していました。父親の政治ゲームとは関係なく、純粋に王太子の婚約者になりたいと思っていました。最終的にカロリーナが婚約者に選ばれましたが、だからって私が王太子を毒殺するなんてありえません。もしも、もしもですよ、敗北を認めず、私が何かしでかすとしたら。王太子ではなく、カロリーナに毒を盛りますよ! 実際はやりませんけどね。理解いただけましたか、魔王様!」
もし私がアルベルトのことを憎んでいるなら、復讐のチャンスがあると、王太子暗殺計画を持ち掛けるつもりだった。愛していたのに、別の女を選び、こんなヒドイ仕打ちをして――まさに可愛さ余って憎さが百倍の状態で、短剣を心臓に穿つことができると、レオナルドは考えた。
ところが私の魔王様発言を聞いたレオナルドは「君は……心から王太子を。そうか。そうなると少し事情が変わってくるが……」と呟いていた。つまり、ここでレオナルドは私がまだアルベルトを愛しており、復讐をする気持ちなどないと理解する。
さらにその勘違いが「王太子と私は相思相愛」発言につながっていくのだが……。さらに愛しているからこそ、短剣を心臓に穿つなんてやるつもりはないだろうと判断する。でも、アルベルトの『呪い』は解く必要がある。
そこで。
事情は話せない。でも私に殺すふりをさせる必要がある。だから廃太子計画をでっちあげた。殺すわけではない。だが廃太子へ追い込む。それなら協力する可能性が高まると。でも確実に協力させるため、取引を持ち掛けることにした。毒殺未遂事件を起こしたことで、刺客が放たれている。もし殺されたくなければ、廃太子計画を飲め、と。
そうなるとレオナルドが、国王を憎んでいるというのも勿論、嘘だ。私が取引に応じるようにするため、いかにもな理由を作りあげただけだ。
廃太子計画の失敗=死という話をアズレークが、レオナルドがしたが、これについては真実だった。ただ、どの段階で失敗するかで、死に直結するかどうかは変る。
例えばドルレアン家の息のかかった騎士に、カロリーナがかけた『呪い』を解こうとしていることがバレれば……それは限りなく死に結びつく。
アルベルトに短剣を振り下ろしたところで阻止され、『呪い』が完全に解けきれないような状況になれば、それも死につながる。『呪い』を解こうとしたことが、カロリーナにバレる可能性が高いからだ。その一方で、その失敗はないと、レオナルドは考えていた。魔法が発動すれば、もう私の動きは止められないからだ。
レオナルドが一番心配したのは、途中で私の気持ちが変わること。つまり、短剣を手に取ったのに、鞘から剣を抜かないという事態だ。だからそうならないよう、失敗は死につながるという言い方をした。
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