69:どうする、どうする、どうする……!?
スノーには、見張りの役割を、果たしてもらうことになっている。
少し早足で、アルベルトの部屋へと向かう。
部屋の前に、ミゲルと二人の騎士がいる。
少し離れた場所で、三人の様子を伺う。
ミゲルはまだ眠そうにしていないが、眠りの香の効果は一気にくる。
懐中時計で、時間を確認する。
眠りの香を焚いてから、ピッタリ1時間まで、あと3分だ。
スノーに声をかけ、ミゲルたちの元へと向かう。
当然、ミゲルは驚くが、私は「一度部屋に戻ったのですが……。警備中も危険であることに、変わりはありません。皆さまのことが心配で、魔除けのお守りを届けに来ました」と伝える。
「それはわざわざ、ありがとうございます」
ミゲルが微笑み、その左右にいた騎士も、感動で目を潤ませている。魔除けの効果はあるが、実際は、即効性のある眠りの香の欠片が入ったお守りだ。だから少し申し訳ない気持ちになる。「ごめんなさい」と心の中で思いながら、二人の騎士にお守りを渡し、「魔除けの効果もありますが、いい香りもするのですよ」といい、眠りを促す香りをかがせる。すると……。
それは同時に起きた。
ミゲルの脚から力が抜け、倒れそうになるのを全身で抱きとめる。
二人の騎士は、スノーが両手で背中を扉にもたせかけ、ずるずるとすべるように崩れさせた。ミゲルが腰につけていた鍵束から、アルベルトの部屋の鍵を見つけ出す。素早くドアを開け、三人を引きずって部屋の中に入れ、そのまま横にする。
呼吸を整え、寝室へと向かう。
スノーに目で、合図をする。
ゆっくり、寝室のドアを開け、中へと身を滑り込ませた。
スノーが静かに、扉を閉める。
いよいよだ。
気持ちを落ち着かせるため、もう一度深呼吸をする。
首に掛けた十字架のペンダントに触れ、その表面をこすった。
蛍の光のような、淡い光が灯る。
ゆっくり、事前に確認した歩数分歩みをすすめ、アルベルトが眠るベッドに辿り着く。
その姿勢を確認すると、きちんと仰向けで眠ってくれている。
ホッとしながら、青いお守りを取り出す。
慎重にアルベルトの鼻の近くへ、持っていく。
心の中でカウントし、ゆっくりお守りを遠ざけ、再びワンピースのポケットへとしまう。
大丈夫。アルベルトは深い眠りについたはず。
再度深呼吸し、ガーターベルトでとめられた短剣を、顕現させる。小声で唱えた呪文により、おへその下の紋章に、熱を感じた。正しく魔力が作動したことを、確認する。
いよいよだ。
もう、本当に後戻りはできない。
静かにベッドに乗り、アルベルトに跨る。
その姿勢のまま裾を持ち上げ、短剣を鞘ごと手にとった。
目は既に暗闇に慣れており、心臓の位置も確認できている。
左手で鞘を持ち、右手で柄を掴み、ゆっくり剣を引き抜く。
同時におへその下の紋章が一気に熱を帯び、全身の魔力が、剣に向かっているのが分かる。
左手から鞘を離し、両手で柄を握りしめる。
一瞬、アズレークの顔が脳裏に浮かぶ。
その唇が「オリビア、今だ」と告げている。
剣を振り上げ、振り下ろそうと構えた時。
「どうして……」
甘みのあるアルベルトの声に、動きが止まる。
長い睫毛の下の紺碧色の瞳が、衝撃で大きく見開かれていた。
問われても、返す言葉などない。
それどころか、既に魔力が発動し、既に全身が火照るように熱くなってきている。
私は聖女だ。
それなのに真夜中の寝室で、この国の王太子アルベルトに跨っている。
心臓の鼓動も早くなっている。
頬も高揚しているのが分かる。
まさか目覚めるとは思わなかった。
どうする、どうする、どうする……!?
でも、もう、私には止められない。
その瞬間、私が両手で握りしめる短剣は、アルベルトの胸に振り下ろされていた。
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