68:頼れる兄貴
アルベルトの部屋から戻るマルクスが通るルート。これは確認済だ。自室に戻るマルクスと偶然遭遇したという状況を作りだし、そこで眠りの香を渡すつもりでいた。
最初はアルベルトの部屋に行き、そこでマルクスに声をかけるつもりだった。でも交代でやってくるミゲルと鉢合わせすると「まだ寝ていなかったのですか」と、心配されそうな気がした。だからやり方を変えることにした。ミゲルの部屋に行き、会話した結果、この判断をしたわけだが……。
直前の変更。でも大丈夫。やろうとしていることは、変らないのだから。
自分で自分に言い聞かせ、ゆっくりスノーと階段をのぼっていると……。
「聖女さま!?」
マルクスの声が聞こえてきた。
想定通り。
でも驚いたフリをして、私は彼の方を振り返る。
「マルクスさま、こんばんは。こんな時間にどうされたのですか?」
「それはこちらのセリフだ、聖女さま。スノーと二人、何をされている?」
「巡回をしていたところです。でももう終わったので、部屋に戻ろうかと」
「巡回……?」と首を傾げるマルクスに、ミゲルにしたのと同じ説明をする。だがすぐに納得し、でも最後はミゲルと同じことを言う。
「まあ、確かに普通の武器ではな。だが俺の聖槍であれば、ゴーストにも効果はある。明日の巡回は俺が護衛につくよ」
ミゲルと同じ対応だが、自分が明日は護衛につくと宣言するところが、マルクスらしい。マルクスもまた推しメンだった。だが実際に接すると、恋愛感情より、頼れる兄貴という感じで好感度が高くなっている。
「ありがとうございます、マルクスさま。ところでマルクスさまこそ、何をされていたのですか?」
明日の巡回にマルクスが護衛につく――そんな未来はないと私は知っていた。でもそれで落ち込むことはない。マルクスの陽の雰囲気のおかげで、感傷的にならずに済んでいる。それどころではない。落ち着いて、質問することもできていた。
「俺? 俺はアルベルト王太子の警備についていた。今から部屋に戻って休む」
「それでしたらゴースト避けになる魔除けの香があるので、お部屋で焚きながら休んでください」
マルクスもまた素直に「そんなものがあるのか。それはぜひ」と微笑む。
「マルクスさまの部屋を経由し、自室に戻ろうと思います。せっかくなので、部屋にお邪魔して、香を焚かせていただきますね」
「分かった。だが部屋には俺が送るから」
「ええ、分かりました。それでお願いします」
自室まで送る、という提案は想定外だ。時間に余裕があるわけではないが、それでも問題ないはず。直前のちょっとした計画変更。多少の綻びはでるだろうが、十分に巻き返せる。
少し早足になりながらマルクスの部屋に行き、香を焚き、それを終えると自室までマルクスに送ってもらう。しばらく部屋で待機し、5分経ったところで、廊下の様子を伺う。当然だが、そこにマルクスはいない。
「では最後の大仕事よ、スノー」
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次回は明日8時に「どうする、どうする、どうする……!?」を公開します♪



























































