67:その誠実さに心を打たれる
すでに軍服に着替えたミゲルが、驚いた顔でドアを開ける。
「聖女殿、こんな時間にどうされました!?」
「近々舞踏会も開催するとのことだったので、退治しそびれたゴーストがいないか、巡回して確認していました。もう、その確認も終わり、問題ありませんでした」
「そうだったのですね。……スノー殿とお二人で、ですか?」
頷くと、ミゲルは表情を曇らせる。
これは護衛をつけていない件を、気にしている。
「領主ヘラルドに巡回を申し出た時に、護衛をつけないかと聞かれました。でも断りました。ゴースト退治は、騎士の皆さんがお持ちの武器では、無理です。それにいざとなった時、守る対象がいると、ゴースト退治に集中できません。ですから護衛は不要と、私から宣言しました。実際、城内はゴーストが退治されたことで、通常の警備が行われ、問題ありませんでしたから。お気遣いいただかなくても、大丈夫ですよ」
ミゲルは大きく息をつき、困った顔で私を見る。
「そう言われてしまうと……。実際に私の剣は、マルクスの聖槍のように、聖なる力があるわけではないです。ルイスのように、矢に魔法をかけることもできません。確かにあなたの言う通り、ただの武器ではお役に立てないでしょう」
そう言いつつも、私の手をとり、甲にキスを落とす。
「それでも聖女殿、あなたも守るべき女性であることに、変わりはありません。今後、城を巡回する時は、声をかけていただきたい」
その誠実さに心を打たれながら、「わかりました」と返事をする。
返事をしながら、二つの想いが胸に込み上げる。
こんなに誠実なミゲルが守ろうとしているアルベルトから、私は魔力を奪おうとしている。私が何をやったか知った時、ミゲルは間違いなく、私を軽蔑するだろう……。
その一方で。
ミゲルからの冷たい眼差しを、私が受けることはないとも分かっている。
そう。
廃太子計画が終われば、私はこの城から去る。
ミゲルと再会することも……ない。
「ところで、ミゲルさま」
感傷に浸っている場合ではない。
すぐに気持ちを切り替え、十字架のついた杖をスノーに預け、眠りの香を取り出す。
「これはゴースト避けになる魔除けの香です。いつまたゴーストが現れるか分かりません。今後はこの香を、部屋にいる時は焚いてください」
「……聖女殿、もしやこれを届けるために、わざわざ部屋に?」
恭しくミゲルは、私の手から、眠りの香を受け取る。そして鼻に近づけ、手で仰ぎ、その香りを確かめる。
「これは……心が休まる香りですね。ゴーストの荒ぶる心も、落ち着きそうです」
「実際に焚くと、香りが変化します。もしご迷惑でなければ、今、焚かせていただいても?」
「ええ、もちろん。どうぞ、お入りください」
心の中でガッツポーズをし、部屋に入る。
私の部屋と変わらない間取りと調度品、暖炉、ソファなどがある。
暖炉の上の棚に、西洋風の香炉が置かれている。
ミゲルと一緒にそちらへ歩み寄り、蓋を開け、先ほど渡した眠りの香を置くよう、促す。
眠りの香が置かれたのを確認すると、マッチをすり、火をつける。
すぐにやわらかい煙が立ち上り、部屋の中へとゆらゆらと広がっていく。
「これはなんとも爽やかな……ライチのように清々しい香りですね」
「さっぱりした香りですよね。ぜひお部屋にいる間は、焚いておいてください」
「分かりました。ありがとうございます、聖女殿」
微笑むミゲルとわかれ、部屋を出る。
懐中時計で時間を確認し、一旦自室へ戻る。
次は24時の警備交代のタイミングで、マルクスに眠りの香を渡す。
眠りの香の影響は、私にはないと、アズレークに聞いていた。だが念のため、冷水で顔を洗う。刺すような冷たさに、キンと目が覚める。
スノーは、甘いお菓子をつまんでいた。
「スノー、そろそろ行きましょう」
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