59:美人な婚約者
プラサナス城にスノーと共に戻りながら、アズレークの最後の言葉について思いを巡らす。
あの言い方だと、アズレークは、アルベルトが何かに憑りつかれている件を、知っている。知っていてなお、廃太子計画を遂行しようとしている。
アズレークは、どうしても悪人に思えない。だが既に追い込まれているアルベルトに、さらに追い打ちをかけるようなことをするのは……どう考えても、悪人だ。
国王陛下との間に何があったのか。尋ねたことはあるが、答えは教えてくれなかった。でも本当に、どうしてそこまでするのだろう……? ただ、これはいくら考えても、答えが出ない。それに既に作戦は、動き出している。前に進むしかない。
そこで大きく息をはき、気持ちを切り替える。
まさかもう一度会えるとは思わなかったアズレークに会えた。変わらず元気そうだったし、何より遠くにいるわけではない。少なくとも私の魔力が減り過ぎていると、気付ける場所にいる。補給するために、接触できる所にいる。
ちゃんと見守ってくれている。
いや、監視されているのか。
思わず苦笑すると。
「オリビアさま、どうかしましたか?」
市場で買ったりんご飴を食べているスノーが、不思議そうに私を見る。
「なんでもないわ」そう言って私は、微笑んだ。
◇
この日の夜、遊戯室のゴーストを、退治することになった。
遊戯室にはビリヤード台、卓球台、カードゲームのためのテーブルと椅子などが置かれていたが、それはすべて、日中に部屋の外へ出してもらった。壁に飾られた絵画や花瓶なども、すべて廊下に出してもらっている。ゴースト退治に伴い、これまでいろいろ破壊してきた。もういろいろ壊したくないための措置だ。
そして遊戯室のゴーストは、丁度夕ご飯時に現れる。
私とスノーだけ、夕食の時間をずらしてもらい、二人で退治するつもりでいた。だがマルクスが警護を買って出てくれて、三人で遊戯室へ向かうことになった。
遊戯室にいたのは、人型のゴースト。見るからに、紳士らしいシルエットをしている。これまでのゴーストのように、襲い掛かってくることはない。……まあ、部屋の中に何もないので、何もできなかったのかもしれないが。
数としては6体だったので、マルクスの協力を得て、あっという間に退治できた。終わると腹ペコだったので、三人ですぐ、夕食をとることにする。
シチューを食べ始めると、マルクスはこんなことを言い出した。
「王都を離れ、ここに来てから、アルベルト王太子は、格段に元気になられた」
「!? でも王都には魔力が強い人も多いでしょうし、王太子さまの不調を和らげられる人もいるのでは?」
そう。婚約者のカロリーナのように。
「それがそうでもない。あの体の不調に加え、アルベルト王太子は、気が休まらない問題を抱えている」
「気が休まらない……?」
「聖女さまは、異国にいた時間が長い。だから知らないだろうが、アルベルト王太子には、美人な婚約者がいる。もう婚約して一年以上が経つ。普通なら結婚していてもおかしくない。でもまだ結婚していない。いや、できない」
そう言われてみれば……。月日が流れるのは早い。
あと数カ月もすれば、私も王都を離れ、2年が経つ。
しかし、結婚できない、とは……?
「婚約者さまは美人だが、どうも妃教育で躓かれていてな。本来終わっているはずの妃教育が、まだ終わっていない。その結果、婚約者さまは、ストレスをためるようになり……。というか、婚約を結んだその時から、あまりうまくいっていない気もしていたが。拍車がかかったというか……。体の不調もあるのに、婚約者さまからもいろいろぶつけられてな。アルベルト王太子は、そちらの心労が大きい」
マルクスはそう言いながら、ちぎったパンを、ポイと口へ運ぶ。
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