57:咎めるような、茶化すような声
漆黒の闇を思わせる黒髪と、意志の強そうな眉、長い睫毛に縁どられた黒曜石のような瞳。高い鼻筋に血色のいい唇。整った顔立ちで、健康的なくすみ感のない張りのある肌。身にまとうのは黒シャツに黒の上衣、黒ズボン、黒いマントに黒革のブーツと黒ずくめ。
アズレーク……!
スノーはアズレークに抱きついていた。
「ど、どうして、アズレーク……」
驚く私に、アズレークはあの曇りのない黒い瞳を向ける。
「元気そうだな、オリビア」
耳に心地よいテノールの声。
間違いない。
アズレークだ。
スノーと同じように、私もアズレークに抱きつきたかった。
それを我慢し、「お久しぶりです、アズレークさま」と答える。
「随分活躍しているようだな。プラサナス城で感知するゴーストの数が、減っている」
プラサナス城内で、ゴーストが目撃される五か所のうち、既に三か所のゴーストを退治したと答えると。スノーが、どんなゴーストをどんな風に退治したか、アズレークに教える。
「なるほど。納得だ。塔を塩水で満たす。それはまた大胆な手に出たものだ」
アズレークのフッと漏らした笑みが、なんだかとても艶めいて見えてしまい、思わず心臓がドクンと反応する。
「スノー、オリビアと話がある。邪魔されたくない。そこの通路の入口で、見張りをしてもらえるか?」
「もちろんです! アズレークさま」
答える否や、スノーは駆け出す。
「さて、オリビア。君が対峙したゴーストは、こちらが想定しているものより、かなり暴れん坊のようだ。でも君は見事退治した。素晴らしい。だがその分、魔力を相応に使っている。これではいざという時に、枯渇する恐れがある。だから今日は、魔力を補給するために会いに来た」
「そう、なのですね……」
アズレークから再び魔力を送られるなんて、想像していなかった。
「おいで、オリビア」
黒曜石のように輝く瞳に、真っ直ぐ見つめられるだけで、もう心臓がせわしなくなる。それを悟られまいと、必死に深呼吸しながら、アズレークの方へと歩み寄る。するとアズレークは腕を伸ばし、ぐいっと腰を抱き寄せた。思いがけず、アズレークの胸の中に飛び込む形になる。
「久々に王太子に会えて、嬉しかったか、オリビア?」
咎めるような、茶化すような声が耳元で聞こえ、息を飲む。
久々の再会で、こんなに距離が近いことに、動揺しまくりだ。
その一方で、王太子と会えて嬉しかったか、なんて聞かれたことに、困惑してしまう。というか、そう、アルベルトが何かに憑りつかれている件を、アズレークは知っているのだろうか?
「アズレークさま、王太子の」
話そうとしたまさにその瞬間。
顎を持ち上げられ、魔力が送りこまれてくる。
久々に感じる魔力の熱さ。
口腔内と喉が、すぐに魔力で満たされ、熱くなる。
心臓が高鳴り、全身が緩やかに温かくなった。
「ゴースト退治はあと二箇所か。では、もう少し送るよ、オリビア」
一度顔を離したアズレークが再び、顔を近づける。
待ったなしで、二度目の魔力が送られてきて、全身がかーっと熱くなる。
これまで、一度しか魔力を送られたことがない。
二回連続は初めてで、最初の頃のように、体から力が抜けた。
だが、アズレークが体を支え、そのまま魔力を送り続ける。
心臓がドクドクし、息が上がる。
「よし。これでいいだろう」
完全にアズレークに、体を預けていた。
こんな風にアズレークの胸の中に、いるなんて……。
落ち着かせたいと思っているのに、呼吸も心臓も全然落ち着いてくれない。
お読みいただき、ありがとうございます!
引き続きお楽しみください☆
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