37:リハーサル
夕食後、多くの召使いに、「今日はもう部屋で休むように」と、アズレークは告げた。そしてスノーと三人の従者だけ、書斎へと連れて行く。私も彼らに続き、書斎へと向かった。
書斎に着くと、アズレークは三人の従者に魔法をかけた。
見た目や言動に大きな変化は見られない。だが騎士のふりをして、寝室の扉の左右にそれぞれ立つように言われても。一切の疑問を挟むことなく、無表情に返事だけしている。さらに私から何か言われたら、普段通り反応するようにとアズレークから指示されても、ただ「かしこまりました」とだけ答えている。表情一つ変えず、当たり前のように応じている。間違いなく魔法にかけられていると理解できる。
スノーは一人三役で、三騎士を演じる。そしてアズレークは、最初は私の動きを確認するため、一緒に行動することになっていた。問題がなければ、寝室で横たわり、私が来るのを待つことになる。
こうしてリハーサルが始まった。
私の部屋にいる三騎士を演じるスノーのところへ向かい、眠りの香を渡す。
「これはゴースト避けになる魔除けの香です。いつまたゴーストが現れるか分からないので、今後はこの香を部屋にいる時は焚いてください」
そんな風に言って、香を渡し、使い方を教えるふりをして、早速渡した香を焚く。そこまでの手順を問題なく終えると、一旦待機し、0時を目指し、アズレークの寝室へと向かう手順だ。
待機時間は割愛し、自室を出て、アズレークの寝室へ向かう。
扉の左右に立つ警備の騎士に扮する従者と、三騎士に扮したスノーが寝室の扉の前に立っている。スノーは「こんな時間にどうしたのか」と問い、私はにこやかに答える。
「すべてのゴーストを退治したつもりですが、漏れがあるかもしれません。念のためで巡回しています」
するとそこに交代要員の騎士に扮した従者がやってくる。
部屋に戻る三騎士に扮するスノーと、巡回がてらで並んで歩く。三騎士の部屋の設定になっている私の部屋に着くと、眠りの香を取り出す。
先ほどと同じように、ゴースト避けとしてこの香を焚くようすすめ、使い方を説明しながら、実際に焚くところまで誘導する。その手順を終えると、またも待機になる。だがここも待機時間を割愛し、0時にあわせ、アズレークの寝室へと向かう。今の時間は21時だが、0時という想定で行動している。
三騎士に扮したスノーは、寝室の扉の前で、眠そうなフリのため欠伸をしている。眠りの香の効果が出ているという演出だ。だが左右の扉の前に立つ警備役の従者は、パッチリ目を開けている。すかさず即効性のある眠りの香の欠片が入ったお守りを、魔除けとして渡す。
「この後、警備中にゴーストが現れると危険ですから。先ほど渡しそびれましたが、これはゴースト避けのお守りです。首からさげてください」
これで、邪魔となる三騎士と警備の騎士を眠らせることができた。あとは寝室へ向かうだけだ。ということでここまでを終えると、アズレークは拍手をした。
「素晴らしい。オリビア。ここまでの手順については完璧だ。ゴースト騒動以降、プラサナス城の領主は寝る時間が早いようだが、王太子にはそんなこと関係ない。普段より早い時間に眠れと言われても、寝られるわけがない。領主も早く寝ることを、強要はできない。だから22時の就寝に変動はないと思う。例え王太子の寝る時間に変動があっても、この通り動けば問題ない」
一緒に行動していたアズレークは、満足そうな顔で私を見る。私もアズレークの言うことに異論はなかったので、その言葉に応じる。
「はい。アズレークさまの計画通りに動けば、問題ないと思います」
アズレークは大きく頷いたが、念のためでもう一度、同じ手順を行った。もちろん問題なかったので、アズレークは同行せず、寝室で私を待つことになった。
つまり、廃太子計画の実行まで、すべて通しで行うということだ。
というわけで、三度目となるリハーサルで、眠りの香りを使い、アルベルトの寝室を守る三騎士と警備の騎士を離脱させると……。
寝室のドアを静かに開けた。
一度深呼吸し、気持ちを集中させる。
手順通り闇に目を慣らし、行動開始だ。
既に何度も練習をしているので、迷うことなく体が動く。
問題なく、ベッドまで辿り着けた。
蛍のような光を灯す十字架で、アズレークの顔を離れた場所から照らし、即効性のある眠りの香の欠片が入ったお守りを、かがせようとしたのだが……。
心臓が、止まるかと思った。
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