34:暗闇に慣れる
午後になると、聖女の衣装として私が希望していた、裾の長いワンピースとベールが到着した。色違いで何着が用意され、早速着てみることになった。
一番好きな色味、セレストブルーのワンピースに白いベールを合わせると、アズレークが魔法で瞳と髪の色を変えてくれる。
髪はプラチナブロンドのストレート、瞳は碧眼。
「わあ、オリビアさま、本当に聖女みたいです。それに別人に思えます」
私の姿を見たスノーは大喜びだった。
◇
翌日。
夕食の後、昨日と同じ、ベッドに横たわるアズレーク相手に短剣を振り下ろす練習をすることになった。実際、計画を遂行するのは夜で、王太子の部屋の明かりは消されている。だから明かりも消し、カーテンが閉じられた部屋での練習となる。
ただ、十字架のペンダントに、光の魔法をかけるとアズレークは言った。表面を三回こすれば、蛍の光のような明かりが、十字架に灯るとのこと。この淡い光を頼りに、動く練習をするという。
夕食後の予定は決まった。
でも日中は何をするのだろう?
その疑問に対し、アズレークは……。
「聖女は巡礼していることになっている。だからどんな国を巡ったのか、日中はそこら辺の知識を頭に入れよう」
アズレークのこの一言で、魔力を送ってもらった後は、座学に費やすことになった。
◇
夕食の後、まずは明かりをつけた状態で、何度か練習を行うことになった。丁度聖女の衣装も到着したので、その姿で練習に挑む。
繰り返し行い、問題なく動けたので、いよいよ本番に近い状態で練習を始めることにした。つまり、明かりを消し、カーテンがひかれた部屋での練習だ。
そして実際に練習してみると……。
ついさっき動いた時は、なんら問題なかった。
だから例え電気が消され、暗い部屋でも大丈夫だろうと思ったのだが。
明かりがあった時は問題なかったのに、暗くなった途端にスムーズに動けなくなる。
まずは寝室に入り、暗闇に目を慣らしつつ、首につけた十字架のペンダントの表面を三回こする。蛍の光のような弱々しい光を頼りに、部屋の中を進む。
ただ、それだけでもものすごく緊張するし、時間もかかってしまう。
なんとかベッドに辿り着き、そのままベッドに乗ると。
「オリビア、違うよ」
突然のアズレークの声に、心臓が跳び上がりそうになる。
「実物は、今日使わない。だが即効性のある眠りの香の欠片が入ったお守りを、かがせるのだろう?」
そうだった。すっかり忘れていた。
ベッドに辿り着くことに必死になり過ぎて、大切な手順をごっそり忘れている。
「すみません。やり直します」
一度寝室を出て、入るところからやり直す。
蛍のような弱い明かりを頼りに、アルベルトに扮しているアズレークの元へ行く。ワンピースのポケットからお守りに見立てた布を取り出し、横たわるアズレークの鼻元に持っていく。それが終わると布をしまい、心の中でカウントし、アズレークの様子を確認する。
大丈夫。眠りの香りは効いた。
ベッドに乗ろうとすると……。
「違うよ、オリビア」
またも声をかけられ、動きが止まる。
「ベッドに乗る前に、短剣は顕現させておく、だろう?」
そうだった!
この暗い空間に気が急いて、すっかり忘れていた。
「すみません、やりなおします」
再び部屋を出て……。
眠りの香りをかがせた後、効果を確認し、短剣を顕現させる。
それからベッドに乗り、アズレークにまたがってから気づいた。
横向きに寝ている……!
必ずしも仰向けに寝ているとは限らない、ということで、どのような姿勢で寝ているか、あらかじめ確認することになっていた。それは眠りの香りをかがせる時にすることになっている。
体の向きを確認し、問題があれば調整する。
それを終えたら、ベッドに乗る、なのに。
「すみません、手順を間違えました……」
「ようやく気づいたか。では」
「やり直します」
こうしてやり直しを続けた結果。
きちんと眠りの香りをかがせ、姿勢を確認し、そして短剣を先に顕現させ、ベッドに乗った。
ワンピースの裾をつまみあげ、短剣を手に取る。
十字架の淡い光で心臓の位置を確認し、鞘から剣を抜き――。
「成功だ、オリビア」
ようやく成功できた。
でもこの成功の後は、何度繰り返しても間違えることはなかった。暗闇に目が慣れると、一度明かりをつけ、そして消して練習を行った。
「今日はかなり遅くなってしまった。明日は少し起きる時間を遅らそう。スノーが起こしに行くまで、ゆっくり休むといい」
そう言うとアズレークは私を部屋まで送ってくれる。
とっくにスノーは寝ている時間だった。
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次回は本日12時に「いつもと違う」を公開します。
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