33:信じるしかない
そういう練習はいずれすると分かっていたが……。
急激に緊張が走る。
「令嬢であり、修道院にいた君に失礼なことになるが……。これも必要なことだ。私に跨って、さっきと同じように動いて欲しい」
ここでアズレークが頬を赤くでもしたら、私は絶対に動けなかっただろう。
でも彼の表情は、落ち着いている。
これからの動作を、アズレークは全く意識していない。
それが分かったので。
今からとる行動は、廃太子計画を遂行するためだと、自分に言い聞かせる。
ゆっくりベッドに乗り、アズレークに跨った。
「では、オリビア。剣を鞘から抜いて。先ほどと同じように、穿つ直前で強制的に止めるから、思いっきり動いて構わない。もし本当に穿つことがあっても、魔力が込められている。以前見た通り、傷は一つもつかない。安心して練習してほしい」
「……分かりました」
冷静に返事をしているが……。
心臓はドクドクと大きな音を立て、手はもちろん、全身が震えている。
さっきはただベッドに向け、短剣を振り下ろした。でも、今は目の前に、生きている人間がいる。しかもそれは、アズレークなのだ。
直前で止めると言われている。
それに万一があっても……それは前回見せてもらったから、分かっている。
傷はつかない。
そう、そもそもこの行為は、人を殺すためではない。
王太子の魔力の核を、破壊するための行為。
短剣に込められた、魔力によって。
それは分かっているのだが……。
「さあ、オリビア。剣を鞘から抜いて」
再度促され、深呼吸をする。
まだ迷いがある。
でもここまできたなら、やるしかない。
もう一度だけ深呼吸し、鞘から剣を抜く。
おへその下の紋章に、熱を感じる。
先ほどと同じように、魔力が剣へと向かって行くのが分かる。
短剣を両手で持ち、振り上げる。
アズレークの目は短剣に向けられ、その黒曜石のような瞳に、剣を構える私の姿が映っていた。
「オリビア、動けるだろう?」
動ける。けれど、動けない。
そう思った瞬間。
「……!」
自分の意志とは無関係に、体が動いていた。
短剣は、アズレークの胸の上ギリギリで止まっている。
「道具と魔法が作用し、君の意志とは関係なく計画を遂行してくれる――そう言ったはずだ。君が動かなくても、計画は遂行される」
そうだった。
確かにアズレークは、私と取引について話した時、そう言っていた。
「……私の意志と関係なく、短剣と魔法が作用するなら、この練習は必要ですか?」
「必要だ。最後の最後に君が迷った時、短剣と魔法が作用するに過ぎない。鞘から剣を抜くところまではオリビア、君が行わなければならない。だから練習は必要だ。さっきはマットレスが相手だった。でも私を見た君は、鞘から剣を抜くことを躊躇った」
「……確かに、躊躇いました」
アズレークの指が、私のおでこに触れた。
その瞬間、体が前かがみの姿勢から、アズレークに跨った状態に戻っている。
今のも魔法……?
一瞬、唇が動いていた。これも魔法だ。
「私が懸念していたのは、鞘から短剣を抜くところまで君ができるか、だった。でも君は、そこはクリアしていた。だからきっとうまくいく」
アズレークは、ベッドから降りるように言った。
私が降りると、再度ベッドに乗り、短剣を構えるところから練習しようと指示を出す。
その後、午前中いっぱいは、この練習を繰り返した。
12時になり、アズレークが「お昼にしよう」と言った時、私は尋ねていた。「任務を遂行し、成功した後は、どうすればいいのですか?」と。するとアズレークは……。
「計画が成功すれば、後は私に任せてくれていい。その場で待機する。それで問題ない」
ただ待機する――それだけ?
計画遂行までは念入りなのに、終わった後があまりにもざっくりしている。
その不安は……顔に出てしまったようだ。
「大丈夫。私はちゃんと約束を守る。君が辛い目にあうことはないから」
真っ直ぐに私を見るその瞳には、誠実さが見て取れた。
信じても大丈夫。それに信じるしかない。
アズレークの言葉に「分かりました」と頷いた。
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