32:寝室
廃太子計画を遂行する。
その具体的な行動は、短剣を王太子の心臓に穿つこと。アルベルトはその心臓を穿つまでの行動について、説明を始めた。
「短剣を顕現させ、鞘から抜くと同時に、剣にはオリビアの中の残存魔力がすべて込められる。それは瞬時に行われる。だから即、短剣をここ、心臓に穿て」
アズレークは自身の心臓の位置を指し示す。
「実際にオリビアの魔力が短剣に集中すると、魔力を送りこまれた時と似た反応が出るが、体に魔力が浸透するわけではない。だから体を動かすことができる。でもその状態に慣れていないと、体を動かす気にもならないだろう。だから練習をしよう」
「分かりました」
するとアズレークは立ち上がり、書斎の入口とは違う扉へと向かった。
「床を使って練習することもできるが、実際は寝ている王太子に対して行動することになる。だからベッドで練習をしよう」
「なるほど……」
アズレークに続き、書斎の隣室に入ると、そこは寝室だった。
……待って。
もしかしてここは、アズレークの寝室ということ……?
当然だが、そもそも異性の寝室に対する免疫が、ない。
その上で。
アズレークの寝室……。
チラリとベッドに目をやると、枕が整然と並び、綺麗にベッドメイキングされている。
ここで休むアズレークの姿を、想像してしまう。
閉じた瞼にかかるサラサラの前髪。
瞼から伸びる長い睫毛。
静かな寝息と、穏やかな表情。
「オリビア、短剣はガーターベルトを使い、隠し持つようにしてほしい。魔法を使い、見えない状態にはするが、念のためだ。スノーに手配するよう指示しておくから」
「あ、わ、は、はいっ」
妄想の最中に声をかけられ、思いっきり動揺してしまう。
「何か問題が?」
「い、いえ。それより、練習をしましょう。短剣を手にしたところから練習スタートですか?」
訝し気な表情を一瞬したものの、アズレークは問いかけに応じ、指示を出す。
「ベッドに乗り、剣が顕現した状態からスタートしよう。今、オリビアの体内の魔力を使うわけにはいかないから、鞘を抜いた同時に、想定される残存魔力を私が疑似的に剣に送り込む。君の体の表面を通じてね。でもそれは実際に君の体内の魔力が剣に巡るのと等しい状態になる」
「分かりました。では……その、失礼して、ベッドに……乗りますね」
ベッドスローに乗り、膝立ちすると、アズレークが短剣を差し出す。
受け取った私は深呼吸をすると、剣を鞘から抜いた。
その瞬間。
おへその下の紋章が一気に熱くなり、全身が一瞬で熱くなる。
心臓の鼓動が速くなり、頬が高揚し、短剣を持つ右手に向け、熱流が駆け抜ける。
「オリビア、動けるか」
アズレークの言葉に私は短剣を両手で握りしめ、振り上げる。そして息を飲み、一気に振り下ろす。
「よし。いいぞ、オリビア」
短剣はマットレスに突き刺させる直前で止まっている。思いっきり振り下ろしたつもりだったが、アズレークにより、止められたようだ。
「問題なく動けるようだな。では次のステップへ移ろう。一度、ベッドから降りて、オリビア」
「はい」
私がベッドから降りると、アズレークがベッドに身を横たえた。
まさか……。
「私を王太子に見立てて、さっきと同じことをやってみよう」
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次回は明日8時に「信じるしかない」を公開します♪



























































