72:なんだかとても恥ずかしい
「本当にボクなんかがお邪魔してもいいのですか?」
「勿論ですよ。今日は王太子さまもいないですし、三騎士もいないので。むしろルカさまが同席してくれた方が、食事が余らないで済みます」
今日の昼食の席は、珍しく私達三人だけになりそうだった。
というのも。
アルベルトは自身の三騎士を連れ、数日王宮を離れることになっていた。なんでも隣国との国交三十周年を祝うイベントに、宰相の名代として参加することになったのだという。本当は、宰相が出向く予定だったのだが。昨晩、いわゆるぎっくり腰になってしまい、大事をとり、急遽アルベルトが向かうことになったそうだ。
そのことをレオナルドは知っていたので、ルカから報告書を受け取ると、彼から昼食と共にすることを提案した。ルカは「え、そんな、レオナルド様と婚約者様の邪魔をすることはできません!」と恐縮したが。スノーがいることを伝えると。「え、そうなのですか!」と驚き、ならば自分がいても邪魔者にならないと理解したようで、そこからはとても嬉しそうに庭園についてきた。
そんな流れだったので。
レオナルドから魔力を送られることはなかった。日課となっているキスも今日はお預けと思ったが……。
「パトリシア、王宮の温室のレモン。あれを紅茶にいれるといいと、王太子さまに言われていたことを思い出したよ。……一緒に取りに行ってもらってもいいかな?」
食後の紅茶をメイドに頼んだ際、そう、レオナルドから声をかけられた。
温室は、今いる庭園から見えている。
目と鼻の先なので、快諾し、二人で向かったのだが。
温室に入った瞬間。
抱き寄せられていた。
瞬時に姿を変えたアズレークに。
魔力を送られることはなかったが、熱烈な抱擁とキスのおかげで、意識が飛びそうになってしまう。
「ア、アズレーク、みんなが待っているわ」
なんとか意識を保ちながらアズレークを止め、そしてレオナルドの姿に戻ってもらった。レオナルドの姿に戻ってもまだ、熱い抱擁が続き……。
レオナルドの姿でキスはされなかったが。
――「優雅を気取るレオナルドの姿の時でも。パトリシアを抱きたいと思っている。狂おしい程、君のことを求めている」
この言葉が本当なのだと噛みしめることになった。
同時に。
レモンを手になんとか温室を出たのだが。
レオナルドはアンニュイな表情で熱いため息をもらし、それを少し離れた場所で目撃した貴婦人三人組が、すぐそばのベンチに倒れ込むようになるのを目の当たりにすることになる。
美貌のレオナルドの物憂げな表情は初めて見たが……。確かにあの貴婦人三人組ではないが。私自身も腰砕けになりそうだった。
◇
屋敷に戻るとスノーは家庭教師と共に勉強を始め、私はマルクスにもらった番(つがい)に関する本を読むことにした。先日の続きから読もうと思ったのだが。
偶然、栞を挟んでいないページが開き、そこに書かれた情報に目が釘付けになってしまう。
それは……。
「……通常、人間に発情期や繁殖期は存在していない。だが先祖に聖獣を持つ者には、これが当てはまらない。先祖の聖獣が何であるかにより変わるが~(中略)~聖獣であるドラゴンを先祖に持つ場合。冬に女性が発情期を迎える。だがこの期間において、番(つがい)との結びつきを得られなかった場合、春から初夏にかけ、発情期に近い衝動的な行動を起きることもある。それは種の保存に基づく本能的な行動であり、普段からマーキング行為を行う男性とは違い、女性ならではの衝動行動と言える。この期間の女性は自身の番(つがい)のそばにいる異性に過敏な反応を示し、また逆鱗の反応も顕著になる。さらにこの衝動行動を目の当たりにした男性の番(つがい)もまた、自身の番(つがい)を求める行動が強くなる傾向にある。ただ、これは本来の発情期とは異なるため、春から初夏にかけ、子が成される可能性は極めて低い」
大変学術的に記載されているが……。
あまりにも自分に当てはまるので、なんだか落ち着かなくなる。部屋には自分一人なのに。思わずキョロキョロと辺りを窺ってしまう。
グロリアに対する嫉妬。アズレークを求め、逆鱗が反応した理由。温室でのアズレーク及びレオナルドのあの情熱的な行動。すべては私とアズレークが番(つがい)であり、聖獣であるドラゴンを先祖に持つことが原因にあったということか。
いろいろと腹落ちはするが。
なんだかとても恥ずかしい。犬猫ではないのだ。発情期なんて……。私は公爵家の令嬢なのに。という気持ちがある一方で。アズレークと結ばれたい気持ちが常にあるのは事実。そしてこれは聖獣を祖先に持ち、番(つがい)を持つ身としては仕方ないとも理解できて……。
アズレークはこの件を知っているのだろうか……?
知っているのであれば。魔力を送ってもらう時。逆鱗の反応が収まるよう、魔法を重ねかけしてもらうようリクエストしようか。
そんなことを思っていると。
夕食の時間が近づいた。
今日も屋敷で夕食をとれるとレオナルドは言っていた。本を閉じると。鏡に向かい、お化粧を直すことにした。
お読みいただき、ありがとうございます!
なんとか日付が変わる前に更新できましたー。
明日はお昼でしょうか……。頑張ります!



























































