69:魔法を見せてと言っているのに
「パトリシアさま、さっき連絡が来たわ。レオナルドが帰ってくるそうよ。今日は夕食、みんなと食べられるって。エリヒオはもうすぐ到着するわ」
自室に戻ろうとした時、義母であるロレナにそう言われ、気持ちが一気に高まる。アズレークに会えることは……いつだって嬉しい。それに風の魔法が上手くいったことを誰かに伝えたいと思っていた。アズレークに報告しよう!
笑顔でロレナに応じる。
「お義父様もレオナルドも揃うのですね! それは……夕食が楽しみです。スノーにも伝えますわ」
「ええ。スノーちゃんも大喜びね」
スノーと同じく。私も大喜びだ。
すぐにスノーの部屋に向かい、そしてお化粧を少し直し、その時を待つ。すぐに義父のエリヒオが帰宅し、ほどなくしてアズレークも帰宅した。
昨日に続き、家族揃っての夕食。嬉しくてたまらない。
食事の後、スノーは早速、アズレークに甘えている。
ただ、いつものように物語を読んだりではなく、小さなボールを使ったジャグリング遊びをしている。
ルクソール・プレジャー・ガーデンズでマジックショーを見た際、ジャグリングも行われていた。スノーもそれを思い出したようで、真剣にボールを追いかけている。その集中力。転がるボールを拾いに行くという動きはいい運動になっているようだ。気づけばスノーは汗をかいていた。
その一方で。
この部屋に着てからレオナルドの姿からアズレークになると。スノーと一緒にアズレークは楽しそうにジャグリングに興じている。何より、マジックショーに登場したマジシャン並みにジャグリングが上手い。
「スノー、そろそろ入浴の時間よ」
「はあーい!」
元気に運動したスノーはすがすがしい表情でメイドに連れられバスルームに向かう。私もアズレークも……レオナルドもそれぞれ自室に戻り、入浴となる。
「レオナルド、今日、風の魔法をほんの少しだけ、マスターしたの」
スノーの部屋を出た時、さりげなく告げると。
「それはすごいよ、パトリシア。風の魔法は炎や水の魔法に比べ、使う魔力は少なくて済む。でもその分、コントロールが難しいと言われている。水や炎に比べ、風は目で見えるものではないからね。イメージするのが難しい。それを自力でマスターしたとは……」
レオナルドの紺碧の瞳が輝いている。
「そんな、完璧にマスターしたわけではないの。まだ序の口だけど、少しだけ扱えるようになっただけで……」
「少しだけでもすごいことだよ。……入浴が終わったら、練習部屋に集合しよう」
「はい……!」
レオナルドに風の魔法を見てもらえる。
そう思うと嬉しくなってしまう。
しかも風の魔法は難しい。それを扱えたことを……褒めてもらえた。
それだけでもう舞い上がってしまう。
入浴は鼻歌まじりで済ませ、白のネグリジェに着替えると、淡いラベンダー色の薄手のガウンを羽織り、練習部屋と向かった。
扉をノックすると、アズレークの声が聞こえた。
レオナルドではなく、アズレークがいる!
さらに気持ちが盛り上がった。
部屋に入ると、アズレークはテーブルに置かれたシャーレに手をかざしていたが、私が近寄ると、平たい小皿から手を離した。
「……アズレーク、これは?」
「これは……今日、部下の補佐官が手に入れてくれたものなのだが……。ちょっと調べようと思っていたところだが」
シャーレには粉のようなものが入っていた。
「それは別に今でなくても構わない。それより、パトリシア。君の風の魔法を見せて欲しい」
黒のナイトガウン姿のアズレークは、そう言いながら私を後ろから抱きしめる。魔法を見せてと言っているのに。こんな風に抱きつくアズレークに思わず笑ってしまう。
私はゆっくりその腕をほどくと、棚に戻していたシルクハットを手に取り、床へと置く。アズレークがいる辺りまで移動すると、シルクハットに手を向ける。
魔力をおへその下に集中させ、短く叫ぶ。
「風よ、吹き飛ばせ!」
シルクハットが床から吹き飛び、壁に当たって転がる。
「パトリシア、素晴らしい!」
アズレークが拍手してくれて嬉しくなる。
「今、パトリシアは自身の手から風がシルクハットに向かう、一点集中のイメージをしていると思う。でもこれを多点分散させると、また違った風の魔法に変わる」
私の背後に立ったアズレークが左腕で私を抱き寄せ、自身の右手をすっと伸ばす。そして――。
「風よ、切り裂け」
その瞬間。
四方八方からシルクハットに切り込みが入っていく。
「修復せよ」
シルクハットの切り込みが消えると。
「風よ、舞い上がれ」
シルクハットが天井に吸い上げられるように浮かんでいく。
「風よ、静まれ」
ストンとシルクハットが床に落ちた。
「すごいわ! 一つの方向から風を向けると、それは斜め上空に上昇しちゃうものね。真上に浮き上がらせるにはいくつもの方向から風を当てているのね」
「そういうことだ。多方向もあるし、渦を巻くようにすれば、竜巻のように舞い上げることもできる」
「重量があるものもできるの?」
頷いたアズレークは目の前のソファに手を向ける。
え、まさか……!
お読みいただき、ありがとうございます!
本日も無事更新できました~。
読者様の応援のおかげです。感謝!
しかし。
デレより二人でイチャイチャな感じなりました(笑)。
でも明日はドキドキな雰囲気になるかしら。
頑張って書き上げます。
そして二つほどお知らせが。
サプライズあるので良かったらお読みください☆
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『断罪終了後に悪役令嬢・ヒロインだったと
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一気読み派の読者様。どうぞお楽しみくださいませ~
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『悪役令嬢完璧回避プランのはずが
色々設定が違ってきています』
https://ncode.syosetu.com/n6044ia/
一気読み派の読者様。Episode3が完結です。
さらに。サプライズ!
あの蕗野冬先生の素敵な挿絵とコメントが登場しています。
連載がお忙しい中、描き下ろしてくださいました
ヾ(≧▽≦)ノ
どこにあるのか宝探し的にお読みいただけると
楽しいかもしれません!



























































