68:魔法の練習
「パトリシアさま~満腹です、スノーはもう横にならないと無理です~」
「分かったわ、スノー。今日だけよ。こんな風に馬車に乗っているとアズレークが知ったら、『危険だ、スノー!』って怒られちゃうからね」
「はぁ~い」
今日の昼食は。
王太子であるアルベルト、そして彼の三騎士が勢ぞろいした。
しかも。
王宮の調理人が用意したトリュフを使ったパイ、トリュフたっぷりのリゾット、トリュフがけのパスタが用意されていたのだ。それは主にスノーのためのもの。カロリーナの『呪い』が解けたお祝いで準備された料理だった。
スノーは大喜びで、このトリュフ三昧の料理を食べたのだが。持参したミートパイも食べた。さらにピーチパイまで食べた結果。これだけ食べればもはや椅子に座っているのもキツイ状態だ。
というわけでスノーは今、私に膝枕された状態で馬車に乗っている。
『呪い』から復活したとはいえ。昨日からスノーは食べ過ぎだ。今日の夕食からスノーの食事の量を調整しないといけない。そんなことを思いながら、窓の外を眺める。
今日の夕食。
アズレークは屋敷で食べることできるのだろうか……。
そう考えた瞬間思い浮かぶのはグロリアだ。
本当に、魅惑的な女性だった。
というか。
補佐官は三人いるはず。
残り二人はどんな人物なのだろう? まさか三人とも女性……だったりするのだろうか。
なんだか不安になったその時。
私達が乗った馬車とすれ違う人物の姿が見えた。
思わず視線が釘付けになったのは、その姿勢の良さと、美しい髪のせいだ。頭頂部でまとめられた黒に近い緑の髪は、まるで平安貴族の姫君のような長さで艶あがった。馬の動きにあわせ、そのサラサラの髪が揺れている。身に着けている青竹色のマントも実に美しかった。
その髪にみとれ、気づいた時はほぼ後ろ姿しか見えなかったが。きっと整った顔立ちをしていることだろう。いずれかの貴族か騎士なのか……。
思いがけず、意識が外に向かうことで、グロリアのことでもやっとした気持ちが晴れてくれた。
◇
屋敷に到着すると。
スノーは家庭教師と共に勉強となり、私は魔法の練習をすることにした。屋敷の一階の一番端にあるこの部屋は。一見すると普通の部屋だが。アズレークの魔法でとても強化されている。よってどんな魔法を使おうと、部屋はもちろん、部屋の中にあるテーブルや椅子が壊れることもない。
ということで。
剣は無理だとしても。
剣に匹敵するような攻撃力のある魔法を使ってみようと考える。そこでテーブルに置いていた魔法書を開く。炎の魔法……赤々と燃える火のイラストを見た瞬間。グロリアの真紅の髪を思い出してしまった。
止めよう。
水の魔法。水の魔法を使うには周囲に水が必要だ。水が離れた場所にあったり、建物の中にあったりすると、その分、魔力を使うことになる。
そうなると……。
風の魔法。風……というか空気を使うわけだが。空気であれば水中でもなければどこにでも存在する。魔力の消費も少なく発動できそうだ。
とはいえ。
炎や水と違い、風での攻撃はイメージがしにくい。魔法書をめくり、風を使った魔法のイメージを掴む。
いきなり難易度が高いものではなく。
まずは簡易なものを。
風により、帽子が吹き飛ぶ。
ということで部屋の中に置かれた棚を見渡すと。
あった。
初めて会った時、ロレンソが被っていたようなシルクハットを発見した。それを少し離れた床に置き、手を向ける。
おへその下に魔力を集中させる。
「風よ、吹き飛ばせ」
シルクハットはつばの部分が少し持ち上がるが、それだけだ。
ひっくり返ることさえない。
風を操るって……意外と難しいのかもしれないと感じる。
もっと強い風を想像しなければならない。
頭の中でシルクハットが吹き飛ぶイメージをした上で、風の動きを想像する。
「よし」
そこで深呼吸をし、再びおへその下……逆鱗の辺りに魔力を集中させる。
「風よ、吹き飛ばせ!」
シルクハットが浮かび上がり、そのままひっくり返るように倒れた。
「やった!」
本当は壁の辺りまで吹き飛ぶイメージだったが、さっきは浮き上がることさえなかったのだ。これは前進したと言っていいだろう。
ということでひっくり返ったシルクハットを元に戻し、再び手を構える。
魔力を集中させ……。
「風よ、吹き飛ばせ!」
シルクハットが一回転して床を転がった。
イイ感じだ。この調子で練習をしよう。
集中して2時間。
練習を繰り返した結果。
「風よ、吹き飛ばせ!」
シルクハットは床から浮かび上がるや否やそのまま壁に叩きつけられるように吹き飛んだ。
「できたわ!」
思わず手を叩き、ジャンプして喜んでしまう。この喜びを分かち合える人がいないのは……残念だ。でも練習なのだから。もう一度やって成功するか試してみる。
シルクハットを床に置き、再び手を構える。
「風よ、吹き飛ばせ!」
勢いよく吹き飛んだシルクハットが壁にあたり転がった。
コツは掴んだ。次はもう少し重量があるものを試してみよう。でも今日はここまで。魔力切れになる前に部屋に戻ることにした。
お読みいただき、ありがとうございます!
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これまでの更新時間、朝かお昼での更新を基本的に目指したいと思っています。ただ書きながらの更新なので、朝やお昼とは違う時間になるかもしれませんが、その時はお許しくださいませ。
でもなんとか毎日1話は更新できればと思っています。頑張りますね。
明日はアズレークが少しパトリシアにデレている感じを出そうかなーと思っています。
引き続き、よろしくお願いいたします!
そして。
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【姉妹作品について】
ページの下部にイラストリンクバナーがある
『断罪終了後に悪役令嬢・ヒロインだったと
気づきました!詰んだ後から始まる逆転劇』
こちらの断罪終了後シリーズ作品ですが
昨日初投稿で、本日お昼の
日間恋愛異世界転生ランキングで44位★感謝★でした。
もしお時間ありましたら。
こちらも試し読みいただけると幸いです。
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