58:早朝の訪問者
次に目覚めた時。
そこにアズレークの姿はない。
姿がないどころか。
そこで寝ていたという痕跡さえ一切ない。
夢を、見ていたのだろうか?
そんな風に思ってしまうぐらい。
でも、あの時、確かにアズレークを感じた。間違いない。
私は彼の番(つがい)だから。抱きしめられた時に感じた温もりと安心感はアズレークのものだと断言できる。
ゆっくりとベッドから起き上がる。
カーテンを見ると、そろそろ朝陽が差し込む時間だと分かった。
この時間よりも早い時間に目覚め、再びカロリーナの捜索に向かったのだろう。
スノーのことは勿論心配。でもアズレークの体も気にかかる。
無理はしないでと願いながら、カロリーナが見つかるようにと祈った。
顔を洗ったりしていると、メイドが部屋にやってきた。
既に私が起きて身支度を始めていることに驚きながらも、ドレスに着替えるのを手伝ってくれる。
パステルブルーの淡い水色の生地に、ピンク色の薔薇柄がプリントされたドレスを着ると、すぐにスノーの部屋に向かう。先に起きていたメイドが湯たんぽのお湯を替えてくれていたようだ。ちゃんと温かい。
指で触れたスノーの頬は相変わらず冷たい。不安になり鼻の近くに指を近づけ、呼吸を確認してしまう。きちんと息はしている。そのことに安堵した時。メイドが部屋にやってきた。
「槍の騎士マルクス様がいらしているのですが、いかがいたしましょうか」
朝食前のこんな時間にマルクスが来るなんて初めてのことだ。驚きつつ、でも突き返すことなどできるわけがない。すぐに応接室へ通し、温かい飲み物を出すよう指示する。メイドと共に廊下に出ると、義母のロレナとバッタリ出会った。
「おはようございます、お義母様」
「おはようございます、パトリシアさま。マルクスさまがこんな早くにいらっしゃるなんて、どうしたのかしら?」
「応接室に案内するよう、メイドに指示を出しましたので、お義母様も同席されますか?」
私の問いかけにロレナは頷き、並んで歩き出す。
応接室に向かうまでの会話で、義父のエリヒオが夜半に帰還し、今はまだ寝ていることを知った。今日はもう仕事は休みをもらっており、もう少ししたら起床し、再びカロリーナの捜索に参加するということも教えてもらえた。
エリヒオがそうまでしてスノーを助けたいという気持ちに、思わず胸が熱くなる。
そうしているうちにも応接室に到着すると。
そこにはロイヤルブルーの軍服に、裏地はグレー、表はネイビーカラーのマントを羽織り、足元は茶色の革のロングブーツというマルクスがいた。
いつも底なしで元気な陽キャのマルクスなのに、今は疲れ切った様子がヒシヒシと伝わってくる。どう考えても……徹夜明けだ。
それなのにマルクスは声だけは元気なフリをして、早朝の訪問をロレナと私に詫びると、こう切り出した。
「スノーの様子が心配で……。ロレナさま、パトリシアさま、すまないのですが。一目でいいので、スノーに会うことはできるだろうか?」
本当は。昨日の段階でここに訪ねたかったのだと思う。でもそれよりもカロリーナの捜索を優先させた。必死に徹夜でカロリーナの捜索を行い、でもカロリーナは見つからず、一旦休息のため王宮へ戻る前に、ここに立ち寄ったのだろう。
それはロレナもすぐに理解した。私の顔を見て、頷き、口を開く。
「マルクスさま。徹夜でのカロリーナの捜索、ありがとうございます。パトリシアさまがご案内しますから、どうぞスノーの顔を見てあげてください」
ロレナの言葉にマルクスは泣きそうな顔で感謝し、早速立ち上がる。私はマルクスと共にスノーの部屋へと向かう。
「マルクス、それでカロリーナさまの捜索はどうなの?」
「もうそれはすごいことになっている」
「というと……?」
マルクスによると、王都周辺の街の住人が、あらゆる場所に松明を灯してくれたので、街はもう昼間のような明るさだったという。さらに炊き出しも行われ、街の人達が休憩所を作り、捜索を行う騎士に飲食の差し入れをしてくれた。それだけではない。街の男達がカロリーナの捜索に加わったのだ。そしてこの街と同じようなことが、街から離れた村でも起きていたという。
「なんでも町医者のロレンソという男を中心に、街の人間が統制をもって動いてくれているんだ。街に住む人間は出稼ぎの者も多い。彼らは自分の村に戻り、そこでも街と同じように、松明をたき、休憩所を作り、男達が捜索に加わってくれている。その状況は魔術師さまから国王陛下に報告されて。国王陛下は大いに喜び、捜索に協力する村に褒賞を与える指示も出してくれた。ドルレアン一族から差し押さえた金銀財宝があるからな。それを放出することにしたらしい。今、カロリーナの捜査網は国全体に広がりつつある」
これにはもう驚くばかりだ。
ロレンソの人徳とそこに連動したレオナルドの働きで、国をあげてカロリーナを捕まえようとする機運ができつつあった。
おはようございます~
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次回はお昼12時台後半に『……許せない』を更新します。
ようやく金曜日ですねー。
あと一息、頑張りましょう~
引き続きよろしくお願いいたします。



























































