57:それでも人間だから
ロレンソが帰った後。
レオナルドは自身もカロリーナを探すと屋敷を出て行った。
私はスノーの様子を見守りつつ、留守番だ。
屋敷にはレオナルドが沢山の魔法をかけていってくれた。万一にカロリーナが現れても、レオナルドは気づくことができるとのこと。ちなみに義父は仕事に出ていて、義母は外出していたが、お昼過ぎに戻ってきた。
スノーがカロリーナの『呪い』にかけられ、冬眠状態にあると知ると。義母のロレナは嘆き悲しんだ。そして夕食まで私と二人、スノーを見守った。
ロレナはスノーの手が冷たいことに心を痛めている。その気持ちはよく分かった。生きている人間は温かい。それなのに今のスノーは、頬も、首も、手も、腕も。触れる部分のすべてが冷たいのだ。本当に生きているのかと不安になり、涙がこぼれそうになるのは、私も同じだった。
夕食の時間になっても、レオナルドも義父のエリヒオも帰って来ない。
仕方なくロレナと二人で夕食をとっていると。エリヒオから連絡が来た。
スノーの件を聞いていたエリヒオは、カロリーナの捜索活動に参加することにしたのだという。なんとしてもスノーの『呪い』を、カロリーナに解かせるために。
ベラスケス家の両親からも連絡がきて、カロリーナの捜索活動に、屋敷を警備する騎士の一部を参加させたという。それだけではない。親族一同、それぞれ騎士を投入し、捜索をさせているという。
カロリーナは魔法を使える。
でもその魔法は無限ではない。
国王陛下が指揮する騎士たち、街の人々、有志の貴族が派遣した騎士達、そしてレオナルドも捜索しているのだ。これらをかいくぐるために魔法を多用していては……どこかで弾切れになるはず。魔力の回復には眠る必要があるが、そんな熟睡している暇はないと思う。だからきっと、カロリーナは見つかるはず。
そんなことを考えながら、結構遅い時間まで、ロレナと紅茶を飲み、スノーを見守りながら待ったのだが。
やはりレオナルドもエリヒオも帰って来ない。
ひとまずスノーの湯たんぽのお湯を入れ替えたタイミングで、ロレナが私に声をかけた。
「パトリシアさま。こうやって私達が起きていても、何も変わらないわよね、残念だけど。今はちゃんと体を休めて、明日に備えた方がいいと思うの」
ロレナの言う通りだった。
もしも明日。カロリーナが発見されたとなったら。
それこそ大騒ぎになる。眠いなんて欠伸はしていられない。
ロレナと二人、スノーにおやすみの挨拶をすると、それぞれ自室に戻り、寝る準備を進めた。
ベッドに横になると。
ここ数日で起きたことがあまりにも目まぐるしく。
もはやロレンソにさらわれたことが遠い過去の出来事に思える。ロレンソとアズレークは死闘を繰り広げたというのに。今はスノーを助けるため、二人とも協力を約束し、カロリーナを探しているのだから。本当に不思議だ。
スノーのことは気になったが。
いろいろあったことで疲れていたのだろう。横になってしばらくするとすぐに眠ってしまった。
◇
温もりを感じ、同時に安心感を覚え、すぐにアズレークがいることに気づく。
アズレークが私を抱きしめ、眠っていた。
サラサラの黒髪は無造作に乱れ、目はしっかり閉じられている。血色のいい唇も軽く閉じられ、深い眠りについていると一目で分かった。見るとナイトガウンではない。上衣は脱いでいるが、黒シャツにベストを着たまま。
恐らく、夜遅くに帰宅し、私の寝顔を見に来た。もしかすると抱きしめ、キスをしていたのかもしれない。でもそこであまりにも疲れており、そのまま眠ってしまった可能性がある。
昨日は。
グレイシャー帝国からガレシア王国まで、魔法を使い私を連れ帰ってくれた。その後は魔法を駆使し、カロリーナの捜索を続けたことだろう。魔力は相当使ったと思うが。そちらは多分、問題ないと思うのだ。なにせ始祖のブラックドラゴンとして、桁違いで圧倒的で破格な魔力を持つのだから。
こうやって深い眠りについているのは……。肉体的に疲れたのだと思う。
アズレークは聖獣の血を継ぐ者だが、それでも人間。
連日激務に追われ、私がさらわれたことで、心労だって溜まったはずだ。
ようやく私を取り戻したと思ったら。スノーが『呪い』にかかってしまった。そしてその『呪い』は。本当は私がかかるはずだったもの。そう思うと本当にアズレークは気が休まらないだろう。
魔術師レオナルドの時も。ブラックドラゴンに由来するアズレークの時でも。
冷静に落ち着いて事に当たっている。
その精神力は相当なものだと思う。
でも間違いない。
疲れはたまっているはずだ。
王命により1カ月の休暇をもらえるなら。
アズレークにはゆっくり休んで欲しいと思う。
起こさないよう、注意しながら少しだけ顔を動かし、眠るアズレークにキスをする。そして回復の魔法を使う。
まだカーテンから朝陽は届かないが、眠っていても問題ない時間だ。再び目を閉じると。すぐに睡魔はやってくる。
アズレークの胸の中に身を寄せ、再び眠りに落ちた。
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次回は明日、朝7時後半~8時前半『早朝の訪問者』を更新します。
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