52:ターゲットは……
他に『呪い』の被害者がいないか。
アズレークが確認した結果……。
「林檎を受け取った者が、すぐに食べるとは限らない。よって私が調べた限りだが……。いない。魔法を使い、ルクソール・プレジャー・ガーデンズ内で低体温で眠っているような人物がいないかサーチしたが、それはいなかった」
まだ完全に安心できるわけではないが。
他に被害者がいない可能性に少し安堵する。
「レオナルドの姿で動いたから、すぐに責任者がやってきた。林檎の配布を止め、配布した林檎の回収も指示している。そしてもし林檎が手元にあっても、絶対に食べないこと、息を吹きかけないことを、来場者に周知させるようにした。手配した騎士も到着し、動いてくれているから、新たな被害者は出ないと思う……いや、これは別の要因から確信したのだが、スノー以外の被害者は出ない」
そう言うとアズレークはため息を漏らす。
「林檎を配っていた老婆に会うこともできた。園内には林檎を配る従業員が3人いた。果樹園のエリア、私達がいたエリア、噴水のあるエリア。それぞれのエリアで林檎を配布していた。そして話を聞いた限り。3人はシロだ。つまり、『呪い』をかけた人物が魔法で姿を変え、老婆となり林檎を配ったわけではない。老婆に扮した従業員を脅迫したり、金で籠絡したりして、林檎を配ったわけでもなかった」
アズレークは自身のサラサラの前髪をかきあげ、ソファに身を預ける。
「私達がいたエリアで林檎を配っていた従業員の女性には魔法の痕跡があった。本人確認したが、魔法は使えない。何か魔法をかけてもらったか聞いたが、本人はかけてもらっていないという。……本人は気づいていないが、魔法はかけられていた。かけられていた魔法、それはパトリシアに『呪い』がかかった林檎を渡せ、という魔法だ」
「え……! そ、それでは狙いは私……私一人だった、ということですか?」
アズレークは苦々し気な表情で頷く。
「保管されていた林檎を確認したが、『呪い』がかけられた林檎はなかった。そもそも沢山の林檎に『呪い』をかけるには、相応の魔力を要する。私やロレンソであれば、それもたやすいだろうが、パトリシアぐらいの魔力を持つ人間がそんなことをしていたら、すぐ魔力切れになる」
「つまり用意した『呪い』をかけた林檎は一つだけ、ということですか?」
「そうだ」とアズレークは頷いて、さらにこう続ける。
「『呪い』をかけた人物は、パトリシアがルクソール・プレジャー・ガーデンズにいたことを知っていた。しかもあのウサギコーナーがあったあのエリアにいると分かっていた。その上で老婆に扮した従業員に魔法をかけ、『呪い』をかけた林檎をパトリシアに渡すよう仕向けたわけだ」
完全に狙われたのは……私だった。
私が食べていれば、スノーは『呪い』にかからずに済んだのに……。
「パトリシア」
アズレークが私の両手を握りしめ、気遣うように私を見る。
「『呪い』をかけようとした人物は、二つのミスをおかしている。一つは、スノーが林檎を大好きだということを知らなかった。一つだけ林檎を渡され、スノーが欲しがれば、当然パトリシアはスノーに譲るだろう。それを予想できなかった」
それは……スノーの本来の姿がミニブタだと分からないと無理だろう。
「もう一つのミスは、見届けなかったことだが。林檎を食べさせ、『呪い』をかけたい相手はパトリシアだった。パトリシア以外が食べようとしたらそれを阻止する必要があったが、そうはしなかったわけだ。だからスノーが林檎を口にしてしまったのは、不可抗力。パトリシアが自分自身を責める必要はない。もしパトリシアが自分を責めるなら。私だって同じことになる。この国で一番の魔術師であるのに、林檎の『呪い』に直前まで気づくことができなかったのだから」
「でもアズレーク、それこそが不可抗力だと思います。呼気に反応して初めて姿を現す『呪い』なのですから。そうであるにも関わらず、呼気が当たると同時にアズレークは気づけたのです。決して見逃したわけではないのですから」
するとアズレークは自身の手で私の頭をポンポンと優しく触れる。
「そうか。ありがとう、パトリシア。では私は自分で自分を責めるのは止めよう。だからパトリシアも自分を責めなくていい。パトリシアが自分が狙われたと気づくのは無理だった。それは不可抗力だ。だろう?」
私がコクリと頷くと、アズレークは優しく微笑んだ後、鋭い顔つきになった。
「問題は。誰がパトリシアに『呪い』をかけようとしたかだ。そこで私はルクソール・プレジャー・ガーデンズの責任者と話すことで、あることを知った」
ルクソール・プレジャー・ガーデンズは、元々はスウィート伯爵という一族の屋敷と庭だった。だが跡継ぎがなく、スウィート伯爵の一族が断絶すると、その屋敷と庭を実業家のマイヤーズという男が買い取ったという。そして庭を拡張し、屋敷の一部を解体し、現在のルクソール・プレジャー・ガーデンズに生まれ変わらせた。そしてこのマイヤーズに資金を貸し付けていたある貴族がいたのだが……。
おはようございます!
お読みいただき、ありがとうございます!
次回はお昼12時に『手に入れたいと切望したもの』を更新します。
週の真ん中水曜日。
折り返しです。無理せずで頑張りましょう~
今日は日本全国晴天なので、お昼はテラス席や公園のベンチでもいいかもですね♪
それでは引き続きよろしくお願いいたします。



























































