50:彼の人間性
ロレンソのことを許したというアズレークは、静かに自身の想いを口にする。
「それに私を優しいというが、私からすればパトリシア。君の方が優しいと思う。『あんな男とは二度と会いたくない、消し炭にして』と私に頼むことだってできるのに。パトリシアはそんなこと、微塵も思っていないのだろう?」
アズレークが私を見る。
その瞳には私を想う気持ちが溢れており、ただ見ているだけで胸が熱くなる。その瞳に向け、私が静かに頷くと。
「つまりパトリシアもまた、ロレンソに対して怒りをぶつけられるのに、そうはしなかった。彼を許した。パトリシアも私も許しているんだ。そしてこれからあの男がどうなるのか、なんとか幸せになるのか、見守ってやりたいと思っている。だからのあの説明だ。ロレンソと私達の縁は切れたわけではない。同じ聖獣の血を継ぐ者として。この世界で生きていく」
やっぱりアズレークは優しい。そして私と同じ考え方をしている。それは番(つがい)だから? ううん、これは彼自身の人間性。
初めて会った時は。魔王なのかと思った。恐ろしい取引を持ち掛けたとんでもない人物かと思ってしまったけど。
全然違う。本当に心から愛したいと思える人だった。
アズレークへの想いが募り、やはり抱きつきたくなっていたその時。
「アズレークさま、パトリシアさま~!」
スノーが大声で呼んでいる。
どうしたのかとアズレークと二人、急いで駆け寄ると。
「お二人のことを話したら、みんな、一緒にお屋敷に帰りたいそうです!」
スノーの足元に群がるウサギたちが一斉にこちらを見る。
「「えええっ」」
思わずアズレークと二人、叫んでしまう。
「スノー、気持ちは分かるが、それは無理だ。このウサギたちの家はここなんだ。それを勝手に連れ出したら、困る人が沢山いる。そうだ、スノー、この後、マジックショーがあるぞ。見たいだろう?」
「マジックショー! 見たいです!」
アズレークの言葉にスノーの目がキラキラと輝く。
「良し。では行こう」
スノーはウサギたちに何やら話し、そして戻ってきた。
手をつなぎ歩き出すと。
「お屋敷に行けないのは残念だけど、また会いに来て」と、ウサギたちは言っていたのだという。これにはアズレークと私は顔を見合わせて笑うしかない。
スノーはいろいろな動物達と話せるから。放っておくとマルティネス家は動物屋敷になりそうだ。
そんなことを思いながら歩いて行くと、マジックショーの会場と思われるステージが見えてきた。観客席の近くにチケットを売る係員がいる。アズレークがチケットを手に入れ、席へと向かう。
なんと中央の前から3列目という、見やすい席に座ることができた。スノーはもちろんマジックショーを見るのは初めてで、とてもワクワクしている。席はどんどん埋まっていき、ついにショーが始まった。
テールコートにシルクハット、手にはステッキの鼻髭の男性が現れ、早速マジックスタートだ。
定番の帽子からの白い鳩、ステッキからは造花、胸ポケットからカラフルなハンカチーフが次から次に出てくる――前世の知識がある私には、古典的と思えるマジックが続く。
トランプ、コイン、ロープを使ったマジックも行われた。
そして目玉となる変身マジックが始まった。
赤い大きなサテン生地を美女の前にかざし、パッと取り除くと、美女の姿は消えている。再び生地をかざすと。美女が現れる。みんな何が起きたかと大盛り上がり。そこで三度、生地をかざし、それをどけると……。
そこにはクマがいて、歓声と悲鳴が沸き起こる。スノーは驚き、座席から落ちそうになるのをアズレークが支えた。
大いに観客が沸いた中、サテン生地をかざしてどかすと、クマの姿は消え、美女が姿を現す。
これにはもう観客は拍手喝采。
スノーは目が点になって驚いている。
いかにもなマジックばかりだったが。出演者の生き生きとした表情、観客の盛り上がりもあり、最後まで楽しむことができた。
マジックショーの後は、集まった観客を逃すまいとするかのように、その隣のスペースで、砂漠の民族による演奏会が始まる。気分が盛り上がっている観客はそのまま珍しい民族楽器の演奏会と流れていく。私達もその流れに乗り、演奏会を楽しんだ。
「スノー、パトリシア、喉が乾かないか? そこのベンチで休憩しよう」
空いているベンチに腰掛けると、アズレークはレモネードを買いに行ってくれた。
「スノー、楽しんでいる?」
「勿論です、パトリシアさま! マジックショーは本当にビックリでしたし、砂漠の国の民族楽器は……初めて聴く音色で感動しました。やっぱりここに来て正解ですね」
ニッコリ笑ったスノーは私のカバンから見えた林檎に反応する。
「パトリシアさま、林檎、食べてもいいですか?」
「そうね。休憩するのだから、食べていいわよ」
カバンから取り出した林檎をスノーは嬉しそうに受け取った。
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次回は今晩20時頃に『笑顔を見ると笑顔になる』を更新します。
目が疲れた時は、遠くの緑を眺めるといいそうですよ!
それでは引き続きよろしくお願いいたします。
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