49:本当は今、抱きつきたかった
初めての回転木馬にはしゃぐスノーに手を振っていると。
「お美しいお嬢様」
突然声を掛けられ、驚いて横を見ると。
ニコニコと笑顔の老婆がいる。
紫色のフードを被り、ローブを着たその姿は。
なんだか魔法使いのおばあさんみたいだ。
「本日はルクソール・プレジャー・ガーデンズへようこそ。これは来場者に配っています。ここの果樹園でとれたものです」
おばあさんが差し出したのは、真っ赤な林檎。
見るからに美味しそうだ。
「まあ、ありがとうございます。これをいただいてもいいのですか?」
「ええ、どうぞ召し上がってください」
「ありがとうございます」
私が林檎を受け取ると、おばあさんは少し離れた場所にいる子供にも林檎を配っている。
林檎は見るからに美味しそうだが。
さっき揚げ菓子を食べたばかり。
さすがに今、食べるのは無理だ。
持っていたカバンに林檎をいれ、再びスノーとアズレークに目を向けると。
なんだかスノーが木馬から降りたがっており、それをアズレークが止めている。まだメロディは流れており、回転は止まっていない。今、降りるのは危険だ。
アズレークに説得されたスノーは、浮かしかけていた腰を落ち着け、しばらく残念そうな顔をしていたが。アズレークが何か話しかけると、すぐに笑顔に戻った。
しばらくしてメロディが終わると、スノーがアズレークと共に私のところへ戻ってきた。
「スノー、初めての回転木馬は楽しめた?」
「はい! 上に下に動いてビックリでしたが、すぐ慣れて楽しめました!」
「良かったわね」
その頭を撫でていると、スノーが私のカバンに手を伸ばす。
そこで私は思い出す。
ミニブタは。
林檎が好物であったことを。
「スノー、林檎は後でだ。さっき揚げ菓子を食べたばかりだろう。そんなに食べてばかりでは太る。もう少し遊んでから食べよう」
アズレークに頭を撫でられ、スノーは「はぁい」と可愛らしく返事をする。
「そこにウサギと触れ合えるコーナーがあるぞ、スノー。行くか?」
「はいっ!」
アズレークは。スノーの扱いに慣れているのか。子供の扱いに慣れているのか。林檎に未練ありありの表情をしていたスノーの関心を、ウサギに向けることに成功している。
スノーは早速、ウサギのコーナーに向かい、係員と会話している。
そちらに向かい、アズレークと並んで歩きながら尋ねる。
「スノーは回転木馬から降りたがっていましたよね?」
「そうだな。スノーは嗅覚がいいから。林檎を配る老婆にすぐ気づいた」
「林檎が欲しいから木馬から降りたいと?」
アズレークは頷く。
「ちゃんと乗っていたら、後で林檎は勿論、スノーが食べたい物を買うから今は我慢しろと宥めた」
「なるほど」
そこは……甘やかしパパだ。
一方のスノーは、既にウサギコーナーの中に入り、他の子供達と一緒にウサギと触れ合っている。スノーはウサギの気持ちが分かるから、彼らの気持ちを汲んで動いていた。ウサギは大喜びでスノーのそばに集まり、他の子供達も自然とスノーの周りに集まっている。
「パトリシア、スノーはしばらくウサギと戯れるだろう。そこのベンチに座ろう」
ウサギコーナーを見守れるように、ベンチがいくつも置かれていた。
そこにアズレークと並んで腰をおろす。
「アズレーク」
「どうした、パトリシア」
「ロレンソ先生の件、ありがとうございます。私はうまく、お義母様やお義父様に説明できそうになかったので……助かりました」
アズレークの顔を見ると、とっても穏やかで優しい顔をしている。
「どの道、国王陛下への報告もある。私が説明するのが妥当だった」
それは……確かにそうだろう。
でもそれだけではない。
「アズレークは私の気持ちを汲んでくれました。ロレンソ先生は……無茶な行動をしましたが、決して悪い方ではありません。お義母様やお義父様にも勘違いして欲しくありませんでした。誤解されないよう、説明してくれて……。アズレークは本当に辛い思いをして、満身創痍になり、ロレンソ先生に対して怒りしかなくてもおかしくないのに。それなのにあんな風に説明できるのは……。アズレークの優しさに心が温かくなりました」
本当は今。
アズレークに抱きつきたかった。
その衝動を抑え、なんとか言葉で気持ちを伝えた。
するとアズレークは。
私の手を優しく握る。
「ロレンソがパトリシアにしたことを思うと……勿論、許したくないという気持ちはある。私のパトリシアに他の男が触れるなんて……。だがロレンソはただの男ではない。同じ聖獣の血を継ぐ者。彼の気持ちも……私は理解できてしまう」
そこでアズレークはその黒い瞳を真っ直ぐ前に向け、大きく息を漏らす。
「もし……。パトリシアの気持ちが王太子にあり、そのまま二人が結ばれていたら……。私はロレンソと同じような立場になっていた」
そんな未来は絶対になかったのに。
でもそう想像してしまう気持ちもよく分かった。
「ロレンソはパトリシアをさらったが、それは私と勝負するためだ。そうでもしないと私と勝負はできないと思ったのだろう。そして勝敗はついた。負けを認め、パトリシアから手を引いている。だから……許すことにした」
おはようございます!
お読みいただき、ありがとうございます。
予定時刻より少々早い時間の更新となりすみません!
次回はお昼の12時頃に『彼の人間性』を更新します。
通勤&通学の方、いってらっしゃいませ!
これから家事の方、頑張りましょう~
引き続きよろしくお願いいたします。



























































