48:美味しそうな香り
馬車で揺られること30分で、ルクソール・プレジャー・ガーデンズに到着した。
馬車を降りたスノーと私の感想は。
「「わぁ、広い!」」
声を揃えるスノーと私にアズレークがクスクスと笑っている。
「本当にスノーとパトリシアは。仲がいいからなのか。見事に声が揃っている」
「アズレークさまはこれを見てビックリされないのですか?」
スノーが不思議そうにアズレークを見上げる。
「宮殿や王宮に普段いるから。スノーは毎日、王宮の庭園に来ているが、あれはごく一部に過ぎない。あの庭園はうんと広くて、庭園の中に小さな町を再現したエリアがあったり、離宮も建てられている。あれを見てしまうと……。でもここも十分、広いと思う」
そう言ったアズレークはスノーと手をつなぐ。
「広いから。迷子にならないように」
私もスノーと手をつなぐ。
三人でルクソール・プレジャー・ガーデンズにゆっくり入って行く。
ここは入場料をとられることはない。お店で飲食をしたり、ショーや演奏を鑑賞する際にお金を払う仕組みだ。だがそういったことにお金を使わなくても、庭園を見ているだけで十分楽しめそうだ。
整備された庭園にはスノードロップ、チューリップ、スイセンが咲き始めている。果樹園も見えていて、そこではまだ少しアーモンドの花が咲き、リンゴの花も咲いている。
なんだかいい香りがすると思ったら、マロニエの花だ。
「いい香りがします~」
スノーも目を閉じ、鼻をひくひくさせていたが。
突然、目をパッとあけると。
「アズレークさま、パトリシアさま、なんだか美味しそうな香りがします!」
そう言うなり、勢いよく走りだす。
そのスピードはアズレークもたじろくぐらい。
「スノー、落ち着け、パトリシアはドレスなんだ」
スノーもドレスだが、まったく関係なく走ることができていた。
アズレークの言葉にスピードを緩めたスノーは……そのままゆっくり立ち止まった。
スノーが立ち止まったのは、飲食店の出店が集結しているエリアだ。
その中でもスノーが向かって行ったのは……。
揚げ菓子のお店だ。
というかこれは……チュロスに見える。
一緒にホットチョコレートが販売されており、その香りにスノーが惹かれたようだ。
「スノー、これが食べたいのか?」
アズレークに問われたスノーはコクリと可愛らしく頷く。
この姿を見たアズレークは。
すぐ店員に声をかけている。
このアズレークの様子を見ていると。
子煩悩なパパにしか見えない。
思わず微笑ましくなる。
店員の説明を聞き、3つのホットチョコレートとチュロスのような揚げ菓子一皿を手に入れたアズレークは、飲食用に用意されていたテーブルに向かう。スノーはその後を私の手をひきついて行く。
3人が着席すると、アズレークが店員に聞いたことを教えてくれる。
「このホットチョコレートにつけながら食べるといいらしい。甘い香りが漂っているが、このホットチョコレートはそこまで甘くないそうだ。私は初めて目にしたが、街では流行っているとか。何はともあれ、食べてみるか」
スノーも私も頷き、揚げ菓子を手に、ホットチョコレートに浸し、パクリと食べると。
あ、本当にこのホットチョコレートはそこまで甘くない。
それにこの揚げ菓子も私のイメージしていたチュロスと違い、表面はシュガーコーティングもされていない。でも美味しい!
スノーも「アズレークさま、美味しいです~」と目を細めている。
パクパクと食べることができたが。
間違いない。
これは揚げ菓子。
かなりお腹にたまる。
一皿を3人でシェアしたわけだが。それでも満腹。昼食は……軽くでいいかもしれない。
ひとまず揚げ菓子を食べ終え、残ったホットチョコレートを飲み干したところでアズレークがスノーに尋ねる。
「それでスノー。次はどこか行きたいところがあるのか?」
「パトリシアさまと回転木馬に乗りたいです!」
回転木馬……メリーゴーランドね。それに私と一緒に乗りたいなんて。
スノーが本当に可愛く思え、その体をぎゅっと抱きしめ「いいわね。乗りに行きましょう、スノー」と伝えると「はい! パトリシアさま!」と元気よく返事をする。
アズレークは魔法を使い、ルクソール・プレジャー・ガーデンズの配置を頭に入れたようで、迷うことなく回転木馬があるエリアに向かい、歩き出す。
回転木馬があるエリアは、バルーンやシャボン玉を販売するお店があり、スノーよりもっと小さな子供も沢山いる。そして回転木馬は……完全に子供向きだ。残念ながら私は乗れるサイズでなかった。
スノーは残念がったが仕方ない。アズレークがそばに付き添い、スノーはユニコーンの木馬に乗ることになった。
軽やかなメロディが流れ、上下するユニコーンに、スノーは最初こそ驚いていた。だが次第にその動きにも慣れ、笑顔になり、大喜びだ。私の方に手を振る余裕さえできている。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日の朝(8時)『本当は今、抱きつきたかった』を更新します。
本日もお疲れさまでした~
引き続きよろしくお願い致します!



























































