43:他に何をされた?
戦闘は避けられなかったが、ロレンソもアズレークも生きている。どちらかが命を落とすなんて事態は回避できたのだから。十分だと思う。
「アズレーク、戦闘にはなってしまったけど、ロレンソ先生は私を諦めてくれました。そしてアズレークの治癒を受け、これからも生きて行く気力が沸いたと言っていたのです。ですから平和的な解決をできた――でいいと思います」
「そうか。パトリシアがそう言ってくれるなら。良かった」
アズレークが私を抱きしめる。
「ところでパトリシア。ロレンソにさらわれてから……大丈夫だったか? こことガレシア王国はあまりにも遠い。番(つがい)の絆も感知できなかった」
「アズレーク、大丈夫ですよ。ロレンソ先生はアズレークと勝負して、勝利を収めたら私を妃に迎えるつもりだと言っていましたから。手を出したりはしなかったわ」
そう伝えるが、アズレークの表情が晴れることはない。
もしや体を温めるために、ロレンソが私を抱きしめたことに気づているのだろうか? というかこれは話した方がいいのだろうか? 迷ったが。隠し事はよくない。そう思い、体を温めるために抱きしめられたことを話した。
「……なるほど。湯冷めしないよう、ベッドで待つように言われたが、それはしたくなかったのか」
そうしみじみ呟いたアズレークは……。
「その意味を考えるとパトリシア、私は嬉しい気持ちになってしまう」
長い睫毛に縁どられた黒曜石のような瞳を細め、アズレークが少し頬を赤くして微笑んだ。
「だが、その代償で、結局ベッドの上で抱きしめられることになるなんて……」
アズレークが全身全霊を込め、私を抱きしめた。
あまりの力強さに、思わず声が出てしまう。
アズレークはすぐに腕の力を緩めたが、しばらくは深呼吸を繰り返し、荒ぶる気持ちを鎮めているように思えた。
ようやく落ち着いたアズレークは……。
「他は大丈夫だったか?」
そう言われると……。
この屋敷に連れ去られたばかりの時。
ソファに座っていた私は、ロレンソに後ろから抱きしめられている。馬に乗り凍った湖に向かった際、動物が驚かないよう、抱きしめられた。それは……すべて不可抗力なものだった。
……。
黙っていれば。
アズレークは余計な想像をし、苦しむかもしれない。それに抱きしめられた以外はないのだ。隠す必要もないだろう。
ということで打ち明けると……。
「そうか……。ロレンソ……。どさくさに紛れ、そんなに何度も私のパトリシアのことを……」
「アズレーク、落ち着いてください」
チラッと私を見るアズレークの瞳には激情の炎が燃えている。これは火傷しそうと思った私は、そのままアズレークにぎゅっと抱きつく。アズレークはそんな私を抱きしめ、先程同様、深呼吸を繰り返した。そしてなんとか怒りをおさめてくれた。
「もう他にはないか、パトリシア?」
「はい、他には……」
「他にはないです」と答えかけたのだが。
とんでもないことを思い出してしまう。
私が勝手に魔法を使えないようにするため、ロレンソは魔力を奪うと私を脅した。その方法は呼吸を乱し、魔力を放出させるというものだったが……。
最初の時は、本当に一瞬だった。
だが温泉を楽しみ、サンルームで寛いでいた私のとろこへきたロレンソは……。
そうだ!
サンルームにいた時に天気は急変した。
つまりその時、ブラックドラゴンの姿になったアズレークはグレイシャー帝国にいた、もしくはグレイシャー帝国のすぐ近くの洋上にいた。ロレンソは逆鱗に触れたのだ。そしてそれに私は反応していたのだ。……これはバレている。
いや、バレるも何も、変なことはしていない。ただ呼吸を乱し、魔力を放出しただけだ。隠す必要はない。
「アズレーク、私、ロレンソ先生から魔法を使うことを禁じられていたの。でもこっそり魔力を鳥の形にして飛ばしたでしょう。それがバレてしまったの。そうしたらロレンソ先生は私から魔力を奪うと言って……」
「魔力を奪う……?」
そう呟くと、アズレークは黙り込む。
アズレークは魔力を奪う方法を知らないのだろうか?
「魔力は……魔法を使わなくても、体から少しずつ失われていく。でもそれはほんのわずかだ。魔力を奪うなどできるのか……? ああ、できるか。魔法を使わせればいい。いや、だが、パトリシアには魔法を使うことを禁じている。それなのに魔法を使わせるわけがない」
どうやら呼吸を乱すことで魔力を奪う方法を、アズレークは知らないようだ。その方法をアズレークに知らせようとすると。
「……呼吸があるな。激しい呼吸をすれば、その呼気から魔力が逃げていく……」
さすが、というか、アズレークなのだ。すぐ気づいて当然なのかもしれない。
自力で方法を思いついた。
「激しい呼吸をさせることで、ロレンソはパトリシアから魔力を奪おうとしたのか?」
私が頷くと、アズレークは不安そうな顔になり、息を飲んだ。
おはようございます!
日曜日でも早起きされた方。
早起きは三文の徳。何かいいことがあるかもしれません!
ということでまずはお読みいただき、ありがとうございます!
次回はお昼頃(11時後半~12時前半)『それだけでは済まないはず』を更新しますね~
【昨日更新した短編について】
皆さん、昨晩更新した短編、お読みになりましたか?
お読みいただいた読者様。
ありがとうございます!
セクシーでワイルドな凄腕暗殺者でイケメンのシナンが活躍する
『異世界召喚されたら供物だった件~俺、生き残れる?~』
こちらの作品ですが、Episode4でもシナンが大活躍でした。
そして本日スタートのEpisode5でもシナンが登場します。
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吸血鬼×人間×暗殺者=純愛!
という作品です。
良かったらチェックしみてください♪



























































