15:もしかして、指フェチなの、私!?
「聖女が使うアイテムとして、この国で知られているものを用意した。まずは十字架のペンダント、十字架が掲げられた杖、聖杯、聖書」
中庭には大理石のテーブルがあり、そこにアズレークは用意したアイテムを並べた。
目を引くのは、陽の光を受け、輝きを放つ聖杯。
聖杯というが、もちろん本物の聖杯ではない。
聖水を入れるために使われる、聖なる盃だ。
「十字架のペンダントは首から下げて。杖は手に。聖杯は魔法で隠してあるが、使う時に取り出すようにする。聖書は小型サイズだからポケットに入る」
言われた通り、ペンダントを身に着け、杖を持ち、聖書をしまう。
「聖杯は、この腰のリボンに挟んでおく。そして必要に応じて取り出す」
大理石のテーブルから聖杯を手に取ったアズレークは、静かに話を続ける。
「この聖杯は、魔法で隠す必要がある。なにせ金で作られている。盗むような悪い輩もいるから。隠すための魔法の呪文は何でもいい。魔力さえ動けば、聖杯は術者以外には見えなくなるから」
「アズレークさまは、何かを隠す時の呪文は、どのようなものをお使いなのですか?」
アズレークは私の腰のリボンに聖杯を収めながら答える。
「ハイド・アンド・シークだ」
「かくれんぼう?」
「そう。隠す時も、取り出す時も、たいがい急いでいることが多い。だから長ったらしく詠唱している暇はない」
『戦う公爵令嬢』というゲームにおいて。
魔法を使える者は、えてしてカッコつけたがる。
だから勿体ぶった呪文を長々と詠唱をする者も多いが……。
アズレークは合理主義者のようだ。無駄がない。
「私も、ハイド・アンド・シークにします」
「では手を聖杯に向け、集中させて。頭の中に自分なりの魔力をイメージし、それを聖杯に向ける。そして聖杯が他の人の目から見えないような状態を、さらにイメージする。透明になるとか、何かに包まれ見えなくなるとか、そこは自由だ。最後に呪文を声に出す」
「分かりました。やってみます」
アズレークが腰のリボンに収めた聖杯に左手を添える。
ゆっくり目を閉じる。
魔力のイメージ。
魔力という言葉で思い浮かぶのは……。
!!
口から魔力を、アズレークに送り込まれている時の姿を思い浮かべてしまった。
だ、ダメ。そんなのを想像しては。
頭を振り、浮かんだ光景を忘れようとする。
だが。
魔力が送り込まれている最中に、うっすら目を開けると……。
アズレークの整った顔が、すぐ目の前にあった。
閉じられた瞼に、サラサラの黒い前髪がかかっていた。
あの姿は、とても艶っぽかった……。
違う!
だからそうではない。
魔力のイメージを。
そう温かい熱のような塊。
え、熱のような塊って何……?
「パトリシア」
アズレークの呼びかけに、驚いて目を開ける。
「何か雑念があるようだ。魔力を使い、魔法を使う時は集中力が必要。私は自分の指先を、魔法を使いたい対象に向けることで、集中しているが……。君も体のどこかに、集中するための起点を作った方がよさそうだ」
「で、では、私も指に集中したいと思います」
「……その指に集中しようとして、雑念が混じっていたように思うが……。いいだろう、もう一度やってみよう」
頷いた私は、再び左手の指を、腰にある聖杯に向ける。
指に、集中。指に。
ゆっくり目を閉じる。
指……。
魔力を送り終えた後、私の火照る頬を冷ますために。
アズレークは両手を頬に添えてくれる。
その時、まず一番細くて長い中指が、頬に触れる。
武器を扱う指とは思えないぐらい美しい指で、爪は桜貝のような色をしている。
形も整っていて……。
違う!
なんでアズレークの指のことなんか考えているの、私!?
もしかして、指フェチなの、私!?
「パトリシア」
再び名前を呼ばれ、体を震わせ目を開ける。
「君の場合、指に集中は向いていないようだ。……起点を作ろう。魔法を使うためには訓練が必要で、集中ができない者は多い。だから起点を設けることは、何も特別なことではない。そして君の場合は……」
すっと伸びたアズレークの手が私のおへその下を指差した。
「ここだな。このおへその下。ここに起点を作ろう」
「こ、ここですか!?」
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次回は本日12時に「人に見せ触れさせる場所ではない」を公開します。



























































