36:何が起きているのか?
部屋に戻ってから。
魔法を使うなと言われていたが。
ロレンソは嵐のような状態の外に出て行き、ここにはいない。召使いに温かい飲み物が欲しいと頼み、部屋で一人になった瞬間。逆鱗の反応を抑えるための魔法を使った。
しかし残っている魔力は少ない。そこまで強い魔法を使えたわけではなかった。それでもなんとか、心臓のバクバクをある程度抑えることができる魔法をかけられたと思う。
さらに。
ホットチョコレートを運んでくれた召使いに頼み、午前中に着ていたドレスに近いものに着替えたいと懇願したが……。それは受け入れてもらえなかった。
午前中のドレスは明らかに外出用のもの。あれを着れば外にだって出られた。でも今のドレスでは無理だ。
外は相変わらず荒れ狂った天候で、雷鳴が轟き、窓に当たる激しい雨の音も聞こえている。今のこの季節にこんな天候になったことがあるのかと召使いに尋ねると、こんな天気は初めてだと返事をもらえた。
何かが起きている。
でも何が起きているか分からない。
しかもこんな天候の中、ロレンソが外に出て行った理由も不明。
分厚いカーテンをめくり、窓から外を見ようとするが。
あまりにも連続で窓に雨が打ちつけ、外の景色は一切見えない。それだけではない。まだ日没前の時間なのに、外は夜のように暗い。
「ロレンソ先生はこの天候の中、一人で外へ出て行きました。どこへ行ったのか、思い当たる場所はありますか?」
部屋にいる三人の女性の召使いは、揃って首を振る。
「この天候なんですよ? 雪崩が起きる可能性だってありますよね? 雷だってもう何度も落ちています。とても危険だと思うのですが。誰も助けに行かないのですか?」
三人の女性の召使いは、お互いに顔を見合わせていたが。
真ん中の一人が一歩前に出て、私に尋ねる。
「お嬢様はロレンソ第二皇子様の身を案じていられるのですか?」
「はい。どう考えても危険ですから。私は助けに行きたいと思っています」
私の言葉に三人の召使いは顔を見合わせ、目を丸くする。
「お嬢様はこの天候の中、外へ出て、ロレンソ第二皇子様を探そうと考えているのですか?」
「はい。だって誰も彼を探そうとしないので。私が行くしかないと思ったのですが」
またも三人は顔を見合わせたが。
真ん中の一人が口を開く。
「ロレンソ第二皇子様なら問題ないと思います」
「問題ない……? この天候ですよ!?」
ドンッというとんでもない音と共に。
地震!?
三人の召使いも、私も、床の上を転がった。
何が、何が起きているの!?
必死に上半身を起こすと、召使いが駆け寄り、私のことを起こし、ソファへと座らせてくれた。
「さっきのあの音は? それに地震……? グレイシャー帝国は地震がよくあるのですか?」
「地震……とは先程の大きな揺れのことですか?」
地震はこの国ではないのだろう。
となると、雷が何かに落ち、それが倒れた衝撃……とか?
そこでさらに異変に気づく。
窓に打ち付ける雨の音が聞こえない。
雷鳴も聞こえなくなった。
私が立ち上がろうとすると、全力で制止された。
「また大きな揺れがくると危険です」
「カーテンを開けたいのですが」
「カーテン、ですか?」
驚いた顔をしたが、召使いの一人が窓に向かい、カーテンを開けた瞬間。
急に差し込んだ光に目が眩み、瞼を閉じる。
しばらくは目を開けることができない。
カーテンを開ける音に再び目を開けると。
部屋の窓の半分のカーテンが開いており、そこからは青空が見え、部屋には陽射しが差し込んでいる。
「嵐が去ったのね……」
ゆっくり立ち上がる私を召使いが止めることはない。
そのまま窓辺に向かい、息を飲む。
一面銀世界だったはずなのに。
先程の豪雨で針葉樹林に被さっていた雪はすっかり落とされていた。
地面にはまだ雪が残っているが、その量はかなり減っており、そして深緑色の森が一面に広がっている。遠くに見える湖は青空を映し、澄んだ青色になっていた。
そこで私はハッとして召使いに尋ねる。
「あの、ロレンソ先生の様子を確認しに行きませんか?」
すると。
午前中に着たドレスと似たドレスを持ってきてくれた。そのドレスは白銀色で、スカートの裾を飾る毛が真っ白だった。フード付きのケープも白銀色で、白い毛が飾られている。手早く着替え、白いロングブーツをはくと、エントランスに連れて行ってもらえた。
エントランスに向かうまで、とても時間がかかった。やはりとても広い屋敷だ。
そして外に出ると――。
景色が一変している。
元々屋敷の周辺は、雪掻きがされていた。その上で先程の豪雨。雪は完全に溶け、地面には薄く水が広がり、まるで屋敷の周辺が湖みたいだ。そしてそこには青空が映り込み……。
とても美しい。
そして森へとつながる一本道に、こちらへと向かってくる人影が見えた。
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次回は明日朝(7時後半~8時前半)『止めて!』を更新します。
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