34:思わずドキッとしたその瞬間
屋敷に戻った後はホットチョコレートを飲み、体を温め、その後は温室に案内された。
そこはもう南国。
本来、グレイシャー帝国では見られないはずの花や果実を実らせた木々があり、これには驚くばかり。聞くとロレンソは番(つがい)を求め、世界を旅している際。自国にない花や植物を見つけると、その苗を携え、度々温室へ戻ってきたのだという。そしてその苗は召使いがちゃんと面倒を見てくれて……。花が咲き、果実が実り、食卓にも並んでいるという。
そんなとんでもない距離を自由に行き来できるほどロレンソの魔力は強い。
アズレークもそんなことができるのだろうか?
昼食をとると、今度は屋敷内にある温泉に案内された。温泉があったから、この場所に屋敷を建てたというだけあり、地下のその施設は広々として充実している。プールのような広さの温泉から、まるで打たせ湯のようなものもあった。さらにサウナやマッサージコーナーまであるのだから。その充実ぶりに驚いてしまう。さしずめここは古代ローマのテルマエみたいだ。
「夜に入るのもいいですが、今、体を温め、少し昼寝をするのも気持ちがいいですよ」
ロレンソのすすめに従い、温泉に入ることにした。
温泉と言っても私の記憶にある日本の温泉とは全然違う。円柱の柱があり、ステンドグラスもあり、宮殿の中の温泉というゴージャス感に溢れている。
とても広々しているが、ロレンソが不在にしている間は普通に召使いが利用し、この温泉を維持しているという。
移動はロレンソの魔法で行っているので、いまいちその広さを実感していないが、この屋敷は相当広いと思われた。ゆえにかなりの数の召使いもいる。彼らがロレンソ不在でもこの屋敷を維持しているというのは……。さすが第二皇子という身分だけある。
ひとまず丁度いい温度の温泉につかり、美しいステンドグラスを眺めていると。
自分は何をしているのだろう?
こんなことをしていていいのかという焦燥感に駆られた。
今日、馬に乗り外へ出た時。
魔力を鳥の形に変え、空に向けて放ったが、ロレンソに気づかれることはなかった。
もしかすると、魔法を使ってもバレないのではないか?
バレずに魔法を使えるとして、できることは……。
ガレシア王国に自力で帰ることはできるだろうか?
うまいこと港まで逃げることができ、ガレシア王国に向け出港する船に乗ることが出来れば……。でもその方法だと相当時間がかかる。ロレンソによればアズレークは3日後、ここに来るという。今日はもうすぐ終わる。そうなるとあと2日待てば、アズレークが来てくれるのだ。船でガレシア王国を目指すのではなく、アズレークが来てくれるのを待った方が……。
いや。待っているのではダメなんだ。
アズレークとロレンソが相まみえたら、それは戦闘になるのだから。
そう思ったが。
もし今回。
私が上手いことここから抜け出し、ロレンソと会う前のアズレークと合流でき、ガレシア王国に戻れたとして……。それで終わりにはならない。こちらがロレンソを避けても、彼の方から私達に会いに来るだろう。そして王宮付きの魔術師であるアズレークは、どこかに身を隠すわけにはいかない。
そうなると、どうしてもロレンソと対峙し、戦闘するしか道がない……。回避はできない。
違う、戦闘ではない、何か別の方法を……。
考え、でもこれという名案は浮かばないまま、自分がのぼせそうになっていることに気づき、慌てて温泉から上がることになった。
その後は髪は洗い流し、脱衣所に向かうと……。
そこには召使いが待っていてくれて、髪を乾かし、ドレスに着替えるのを手伝ってくれた。用意されていたドレスは、真っ白な長袖のシュミーズドレスで、胸元がふわふわとした毛で飾られ、生地も厚手で温かい。
着替えた後に案内されたのはサンルームだった。ガラス窓に囲まれたその部屋は、天井から太陽の陽射しがサンサンと降り注いでいた。そこにローソファが置かれ、そこに寝そべり日光浴ができるようになっている。
昼間の温泉を楽しんだ後、ここで寝そべって体を休めることができるというわけか。しかも私がそこで体を伸ばすと、ハーブティーが運ばれ、水分補給もしっかりできた。
なんというか。ロレンソの妃となったらこんな風に過ごせると疑似体験をさせられているようだ。そしてこんな風に過ごせるのはかなり快適に思える。だからと言ってロレンソの妃に収まるつもりはないのだが。
カチャという音に体を少し起こすと、サンルームにロレンソが入ってきた。白銀色のマントをはためかせ、ツカツカとこちらへ歩いてきたロレンソは、そのまま横たわる私のそばに腰を下ろした。
「パトリシア様」
ロレンソの白銀色と白金色の瞳が私を咎めるように見つめている。思わずドキッとしたその瞬間。おへその下の逆鱗に触れられ、両手首を掴まれた。
「魔法は使わない、と約束したはずでは?」
逆鱗を起点に血流の流れよくなり、心臓がドキドキし始めた上に、今の一言で、一気に全身が熱くなる。
魔力を鳥の形に変え、空に放ったことがバレてしまったと瞬時に悟った。
おはようございます!
お読みいただき、ありがとうございます。
次回はお昼頃『これ以上、気持ちを煽ってはいけない』を更新します。
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