30:妬ける一言ですね
窓が開けられるか確認していると。
召使いに入浴の準備が出来たと声をかけられ、飛び上がる程驚いてしまった。
それを誤魔化すようにすぐバスルームへ向かう。
一人で入浴するつもりだったが……。
召使いに手伝われ、あっという間に入浴は終わった。
シルクのネグリジェは肌触りもよく、用意されていたローズピンクの厚手のガウンはフカフカして温かい。さすが氷の帝国。暖かい衣装が揃っている。
ロレンソが来ると聞いていたので、ソファで待とうとすると。召使いから「体が冷えるので、ベッドに入ってお待ちください」と言われてしまう。ベッドの中に入ってロレンソが来るのを待つなんて……。夫婦ではないのだ。そんなことをしたくないと思ったが。
「湯冷めしないためです。ロレンソ第二皇子様からもそうするよう命じられていますので」
召使いの言葉で、思いがけずロレンソが第二皇子であることが分かった。皇太子であれば。さすがにガレシア王国で町医者なんてしてられないだろう。第二皇子だからこそ、世界中を旅することもできたわけだ。
ひとまず召使いが部屋から出て行くまでは。
ベッドの中に入っていたが。
出て行くと同時にベッドから出て、まずはもう一度窓を確認した。
やはり外側の窓ははめ込みになっており、開かない……。
この部屋の外……屋敷の外に出る機会があれば、魔力で鳥を飛ばすこともできるかもしれない。羊皮紙にアズレークへの伝言を書いて持ち歩き、チャンスがあれば鳥を飛ばそう。
机に向かい、羊皮紙の端を破り、急ぎメッセージを書き込み、ガウンのポケットにしまった。それが終わり、ソファに向かったのだが……。
寒い。底冷えする。
ここは床が大理石だからなおさらだ。
ベッドからブランケットを引きはがし、それを手にソファに座る。ソファで体育座りをして、ブランケットにくりまり、ロレンソを待つことにした。
つい数時間前まで。
そばにアズレークがいて。
「式を挙げたら覚悟することだな」なんて言われていた。
レオナルドから頬にキスをされドキドキしていたのに。
自分がグレイシャー帝国にいるなんて。
信じられなかった。
「!」
扉をノックする音に、ドキッとし、頭から被っていたブランケットをおろす。部屋に入ってきたロレンソは、白の寝間着に白の厚手のガウン。なんだかデジャヴを覚える。アズレークは黒の寝間着に黒の厚手のガウンだった。
「パトリシア様、なぜソファに……?」
「そ、それは……。ベッドで私が待つ相手はアズレークだけですから」
ロレンソは驚き、でも「それは……妬ける一言ですね」と笑いながらソファへやってきた。
「やましいことをするつもりなどありません。わたしはこの国の第二皇子です。蛮族ではありません。パトリシア様、あなたの体が冷えないように指示したことです。……ブランケットをそんな風に体に巻き付けて。冷えてしまったのでは?」
「問題ありません」
本当は寒くて仕方ないが、そんなこと口が裂けても言えない。
「そんな頑固なところもあるのですね。……可愛らしい」
ロレンソは美しく微笑むと。
いきなりブランケットごと私を抱き上げた。
「お、降ろしてください! ロレンソ先生!」
「もう先生はいいのでは? ロレンソとお呼びください」
「……」
そう言っている間にベッドに降ろされていた。
ロレンソはブランケットを広げ、ベッドを整え、私にフワリとブランケットや掛布団をかけてくれた。それでも既に体が冷え切っているので、温かさは感じられない。
「パトリシア様に選択肢を与えましょう」
「な、なんの選択肢ですか!?」
ロレンソはベッドに座り、私を見下ろした。
「あなたのその冷えた体を温める方法です。わたしの体温で温めるか。逆鱗に触れ血流をよくするか。どちらがいいですか?」
「!? な、何もしなくていいです。もう寝ますから!」
するとロレンソは大きなため息をついた。
「そこまで冷え切った体で眠れるはずがありません。3日後、アズレークが来た時、あなたはベッドで寝込んだ状態で彼を迎えるつもりですか?」
それはまずい。
アズレークと再会したら、なんとか二人で逃げ出したいと思っているのだ。寝込んでいる場合では……。
そこでくしゃみが出た。
ヤバい。確かにこれでは体調を崩すかもしれない。
でもあの選択肢以外の方法はないのか?
入浴は……今から準備してもう一度入るのは大変だ。
あ、でも暖炉の前に行けば……。
「暖炉の前は大理石の床になっていますから。その選択肢はありません」
私が即答しないのを見て、他に方法がないか考えていると見抜かれた……。
「パトリシア様が決めないのであれば。わたしが決めます」
「えっ、待ってくだ」
素早く横たわったロレンソに抱きしめられていた。
こんなことはダメだ、こんな風にベッドで横になり私を抱きしめていいのはアズレークだけだ。懸命に暴れるが、びくともしない。やはり男性の力には敵わない……。
「パトリシア様、確かにそうやって暴れれば、多少、血流はよくなるかもしれませんが。ネグリジェもガウンも乱れていますよ」
ロレンソの言葉に慌ててネグリジェを整え、ガウンの前を合わせる。その後はもう、身動きすることができなくなった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日『賽は投げられた』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。
実は……
人知れずこっそり更新したのですが。
大変ありがたいことに。
ご覧いただいている読者様が沢山いてビックリ!
(日間恋愛異世界転生ランキングで13位)
こうなると一番星キラリの既存読者様にも
ちゃんとご案内した方がいいかと思い
一応記載しておきますね(^^;
【全 5 話】
『悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする』
https://ncode.syosetu.com/n6019if/
婚約者をヒロインに奪われ
3人の攻略対象に弄ばれた悪役令嬢。
自分を貶めた全員にヅラ魔法を使い、ざまぁする話。



























































