24:そんなに照れなくてもいいのに
スノーと私は、ロレンソとの夕食のためにドレスを着替えることにした。
レオナルドは白の軍服に濃紺のローブ姿で夕食の席につく。
そこで選んだドレスは……。
白いドレスに、濃紺と水色の立体的な小花が散りばめられたドレスだ。勿論スノーとお揃いで仕仕立てた物。ウエストはシルクサテンのリボンを結わくようになっている。スカート部分はチュールが幾重にも重ねられており、ふわりと広がるので、スノーは「お姫様になったみたいです!」と大喜びだ。
約束の時間が近づき、エントランスに降りていくと、既にレオナルド、義母と義父が集合している。皆に合流すると。
「こうやって並んでいると……。白いドレスに白い軍服でしょう。なんだかこれから結婚式を挙げるみたいね。スノーちゃんもいい感じでパトリシアさまとお揃いだから、フラワーガールみたいだわ」
義母のロレナにそう言われると……。
確かにそんな風に見える。
スノーはロレンソにプレゼントすると、庭園で詰んだ花束を持っているし。
「……本当にお似合いよね。レオナルドとパトリシアさまは。もうとっとと結婚しちゃえばいいのに。我が家はいつでも大歓迎よ、ねぇ、あなた」
義父のエリヒオは「そうだな」とニコニコと笑っている。
アズレーク……レオナルドは、ロレナによると「自分は結婚するつもりはありません。その分、王宮付の魔術師としてこの身を捧げるつもりですから」と宣言していたらしい。それなのに2年近く王都を離れたと思ったら、私を伴い戻ってきた。しかも私と絶対に結婚すると言い出したのだ。
まさに青天霹靂でロレナもエリヒオも驚いたが。
そこまで好きならすぐに結婚したらいいのに、というのが実は口癖だ。
無論、アズレークもそうしたいのだと思う。
ただ忙しい……。
でもさっき、王命も出ていると聞いている。
だからきっと本当にここ数カ月以内には……。
アズレークと結ばれる。
それは……もうそうしたい気持ちでいっぱいだが。
でも実際にそうなるのかと思うと……恥ずかしい。
「そうですね。国王陛下からも早く式を挙げるようにと言われているので。それに僕も早くパトリシアと結ばれたいですから」
レオナルドが照れることなくそう言うと、ふわりと私のことを抱き寄せる。
アズレークの姿ではなくレオナルドの姿でこんな風にされると、必要以上に心臓が反応してしまう。
しかも……。
「パトリシアもそう思っているよね?」
紺碧の瞳を輝かせて私を見るから……。
顔が真っ赤になってしまう。
すると。
「そんなに照れなくてもいいのに」
そう言うと頬にキスをした。
レオナルドが!!!!!!!!!!
「まあ」「ほう」「わーっ!」
ロレナやエリヒオ、スノーが盛大に反応したところで。
「ロレンソ様の馬車が間もなく到着です」
そう告げられると。
一瞬にして全員のほんわかムードが、来客受け入れモードに変わる。
レオナルドも腰に回していた手をはずす。
そして。
ロレンソを乗せた馬車が到着し、遂にエントランスに彼が入ってきた。
その姿に思わずロレナ、スノー、私は息を飲む。
王宮付き魔術師の生家の夕食に招待されたのだ。
普段着ている衣装ではなく、招かれた場に相応しい装いをロレンソはしているだけなのだが……。
もうその姿は……。
上流貴族の一人、いや王族の一員にさえ見える。
元々、美貌の顔立ちをしていた。
その上でビシッと服を決めていると……。
間違いない。
とても街の人間とは思えない。
珍しい白藤色の髪に、白金色の瞳。
トレードマークともいえる片眼鏡。
白シャツに、リーフの飾りがついた葡萄色のタイ。
紫×白×薄紫の縦縞ストライプのベスト。
葡萄色の上衣とズボン。
どれも体にきちんとフィットしており、生地が上質であることも一目で分かる。
ゆっくりこちらへ歩いてくるその姿も美しい。
背筋がピンと伸び、体幹がぶれない綺麗な歩き方だ。
皆の前に到着すると、当主であるエリヒオから順に、ロレンソは挨拶をしていく。
その様子も堂々しており、とても市井の町医者とは思えない。
手の甲にキスを受けるロレナの顔が、ウットリしてしまうのも……仕方ないと思えてしまう。
「やあ、スノー。元気にしていたかな?」
スノーはこれまでとは別人のロレンソに驚き、照れながらも持っていた花束を渡す。ロレンソは白金色の瞳を細め、とても嬉しそうに花束を受け取る。
一方のスノーは、大人と同じようにロレンソから手の甲へキスを受け、頬を赤らめていた。
「初めてお目にかかります。王宮付きの魔術師レオナルド・フリューベック・マルティネス様。わたしはロレンソ・オテロ、街で開業医をやっております。パトリシア様からお話は聞いていましたが……本当に優雅な方ですね。ニュースペーパーで見た姿絵の通りです。何よりあなたからの恩情。心から感謝しています」
ロレンソは実に美しくお辞儀をする。
対するレオナルドは……。
「丁寧な挨拶をありがとう、ロレンソ先生。僕はレオナルド・フリューベック・マルティネス。あなたの言う通り、この国の王宮付きの魔術師です。こちらこそ、僕の婚約者のパトリシアが世話になったようで。その節の君の協力に心から感謝します。今日はどうかゆっくりお寛ぎください」
そう言ってお辞儀するレオナルドは……。
間違いない。優雅だ。品があり、洗練されている。
まさに甲乙つけがたい二人。
両社共に眩しい程輝いている気がする。
「パトリシア様。またお会いできて光栄です」
ロレンソは秀麗な笑みを私に向ける。
レオナルドに負けない優美さに、思わず息を飲む。
さらに手を取り、私の甲にキスをした瞬間。
ロレンソの白金色の瞳に、ほんの一瞬絶望的な悲しみが浮かぶ。
え……? なぜ?
ゆっくり私の甲から唇を離したロレンソの瞳が、真っ直ぐに私をとらえる。
「では早速ですが、ダイニングルームへ向かいましょう」
レオナルドの腕が私の腰にゆっくり回される。
ハッとした表情のロレンソが慌てて私から手を離した。
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次回は明日『美しい恋物語』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。



























































