15:サプライズ成功
屋敷に戻り、自室へ戻るとすぐにメイドが来て入浴の準備を整えてくれる。スノーの様子を確認すると、既に入浴を終え、寝ているという。ちゃんと寝ていると聞き、安心して入浴をすすめた。
入浴を終え、バスルームを出た瞬間。
後ろから抱きしめられ、驚いて声を出しそうになった。
だが声が部屋に響くことはない。
口は手で押さえられ、腰を抱き寄せられていた。
さらに首筋にキスをされたことでようやく気づく。
アズレーク!?
体から力を抜いたことに気づいたアズレークが、ゆっくり私の口から手を離した。同時に首筋からも唇が離れていく。
「驚いたか、パトリシア? サプライズ成功だな」
「……!」
スノーと二人でアズレークに……レオナルドにサプライズをしかけたが。
あの時はあっさり失敗してしまった。
だがまさかアズレークからサプライズを仕掛けられるなんて。
「アズレーク、仕事は? もしかしてこのサプライズのためだけに帰ってきたのですか?」
「いや、今日はもうこのまま屋敷で休む」
「そうなのですね! 食事は? お風呂は?」
思わず矢継ぎ早に尋ねてしまい、アズレークが苦笑している。ゆっくりと私を自分の方に向けると、アズレークは耳の後ろに手を滑り込ませた。うなじの辺りにアズレークの手が触れており、心臓がドキドキしてしまう。
「今日は18時過ぎには屋敷に戻ることができた。食事も風呂も済んでいる。あとは……パトリシアの顔を見るだけだった」
アズレークは腰に回した腕で、私のことを自身の方へ、ぐいっと引き寄せる。そこで気が付く。アズレークがナイトガウン姿であることに。当然そのナイトガウンは黒だ。
「どうした、パトリシア?」
「……アズレークって、本当にいつも服は黒だと思って。ナイトガウン姿のアズレークに会うのはこれが初めてですが、やっぱり黒だと感心していたの」
何かアズレークが囁いたと思ったその刹那。
アズレークが着ているナイトガウンが真紅に変わっている。しかもサテン生地! 爆笑する私をアズレークが抱きしめた。
「……!」
黒いナイトガウンは。
厚手のものだった。
でも今のサテン生地のナイトガウンは……。
生地が薄い。
抱きしめられている今、アズレークの体温は勿論、その体がダイレクトに感じらてしまう。決して裸のアズレークに抱きしめられたわけではない。でもそれに等しいぐらい、その体を感じてしまい、心臓が急激に激しく鼓動し始める。
「少し話すか?」
問われても頷くので精一杯だ。
「あっ」
アズレークに抱き上げられていた。
ほんの一瞬、目を離した隙に、アズレークのナイトガウンは最初の黒い厚手のものに戻っている。それは安心できるような、残念なような。
ゆっくり歩き出したアズレークは。
どこに向かうのかという新たな疑問で、心臓がバクバクいい始めた。
バスルームは寝室につながっており、今、目の前には天蓋付きのベッドが見えている。でもその手前には暖炉があって、ソファもあった。
ど、どっちに行くのかしら。
緊張が走り、思わず全身に力が入ってしまったが……。
アズレークが私をおろしたのはソファ。
安堵と同時に残念とも思ってしまう。
しかしその残念という気持ちも、ソファに座るなり肩を抱き寄せられ、すぐに吹き飛ぶ。
代わりに心臓がドキドキしてしまい、落ち着かない。
一方のアズレークはその長い脚を組み、ソファにもたれ、完全にリラックスしていた。
その様子を見ると、ドキドキしている自分が恥ずかしくなってしまう。でも肩を抱き寄せられているのだ。厚手のナイトガウンを着ているとはいえ、彼の存在はいやでも全身で感じてしまう。
「パトリシア、今日のロレンソとの夕食はどうだった?」
ついさっきロレンソと食事をしていたのに。
アズレークを目にした途端、ロレンソのことを完全に忘れていた。
そんな自分に気づくと、やっぱり私はアズレークのことが好きなのだと思ってしまう。
「何か、私に言えないようことがあったのか?」
完全な不意打ちで、アズレークの顔が迫っていた。
「話せないようなことは何もない」と言いたかったのだが。
アズレークの唇が首筋に押し当てられ、そのことにも驚いてしまい、声が出ない。ゆっくり唇を離したアズレークはかすれ声で私に訴える。
「パトリシア、私は君から片時も離れたくないと思っている。でも王宮付きの魔術師としてすべき責務があるのも事実。君の行動を制限するつもりはないが、男性と食事をするのは……」
すぐに私が答えないからアズレークが嫉妬している……!
あのアズレークが嫉妬していると、嬉しい気持ちがある反面。余計な心労かけたくないと思い、なんとかドキドキする心臓を落ち着かせ、言葉を紡ぐ。
「ア、アズレーク、何もやましいことなんてないから安心してください。普通に食事をして、私が修道院にいたこと、なぜ王太子ではなくアズレークと婚約し」
「私を選んだ理由。……なんと答えた?」
アズレークの黒曜石のような瞳が真っ直ぐに私を見つめた。その瞳の奥にとんでもない熱量を感じ、なんとか鎮めた心臓が再び暴れ出す。
「それは……プラサナスで一緒に過ごしたことや番の件は話せないですから……。……ただただ好きになってしまったと伝えたわ……。実際、アズレークと過ごして、恐ろしい取引をした相手と分かっても、心惹かれる気持ちを抑えられなかったもの……」
「パトリシア……」
吐息と共に私の名を呼ぶと、アズレークの唇が私の唇に重ねられる。
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次回は明日『今日は私もここで休む』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。



























































