11:唯一無二の存在
「え~、パトリシアさま、スノーは一緒ではダメなのですか~?」
ロレンソとの食事の日が近づき、彼から手紙が届いた。
比較的貴族に対しての嫌悪感が少ない店主の店を選んだが、客はそうとは限らない。念のため、服はなるべく貴族と分からないものにしてほしいと書かれていた。さらに自分は腕にある程度の覚えがあるので、もしもの時は私一人であれば守り切れるが、スノーまでは手が回らないと思うとのこと。つまりは食事の席には私一人で来て欲しいとのことだった。
ただ全く護衛なしでは不安だということは分かるので、向かいに飲み屋があるお店を選んでいるとのこと。護衛の騎士を連れて来るなら、彼らもまた騎士と分からない姿で、その飲み屋で待機して欲しいとのことだった。
さらに馬車を止める場所はここと地図も示しされている。店の場所も書かれており、直接お店で夕方17時に待ち合わせだった。
ちなみに少女はロレンソの診療所に一日入院したが、どこも問題がなかったようだ。容態の急変もなく、退院し、今は元気に学校へ通っているという。
「スノー、ごめんなさいね。でもロレンソが言っていることは尤もだと思うの。無理を言って御礼のため食事に付き合っていただくのだし、こちらが我がままを言うわけにもいかないわ。遅くはならないから、お留守番してもらえる?」
優しく諭すとスノーも最後は「はぁい」と応じれてくれた。
既にロレンソと食事に行くことは、アズレークにも義母のロレナや義父のエリヒオにも話してあり、護衛のための騎士2名もつけてもらうことになっていた。
ちなみにアズレークにロレンソのことを話した時はとても心配されてしまった。
そう。
昼食のために、いつものように執務室を訪ね、魔力を送ってもらった後。
2度目のキスを終えたアズレークに「少しだけ話したいことがあるの」とお願いした。
手短に馬車に飛び出した少女のこと、その少女に怪我がないか確認してくれたロレンソのこと、さらには御礼で食事をご馳走することになった経緯を話した。
「なるほど。町医者か……。ロレンソ・オテロ、怪しい人物でないか調べておこう。話を聞く限り、悪人には思えないが」
アズレークはそこまでは冷静だったが。
「パトリシア。今回は突然の事故だった。少女を助けようと魔法を使ったこと。偶然通りがかったのが町医者であり、彼の助けの申し出に応じ、御者を連れ診療所へ向かったこと。それは咄嗟の判断として間違ったものではないだろう。むしろ相当驚いたであろう状況の中、そのまま少女を見捨てることなく、救助したのだ。よくやったと思う」
そこで言葉を切ったアズレークはため息をつく。
「診察代、入院費を受け取らなかったそのロレンソに御礼をしたい気持ちもよく分かる。……ロレンソの診療所には匿名で追って私から寄付もしておこう。そう思えるぐらい、ロレンソは善人に思える。だが食事の誘いを受けるのは……」
「しまった!」と大いに反省することになる。
ロレンソの言動が人間として好ましいものと思ってしまい、その彼から出た提案だったので、すんなり受けてしまった。さらにこれは前世の感覚で、御礼で食事に行くことに抵抗感がなかったのだが……。自分の立場を鑑みると、よろしくない判断だったと猛省することになる。
「アズレーク、ごめんなさい。私の判断が甘かったわ。……お食事はお断りします」
「調べて怪しい人物だったら断ればいい。怪しい人物でなければ護衛をつける」
そこでアズレークは私をぎゅっと抱きしめた。
「君は私にとって唯一無二の存在なんだ。とても大切な。万一にも君を失うことがあれば、私は底知れぬ絶望を味わうことになる。だから過剰に心配している部分もあると思う。だがそれは君をそれだけ大切に思うからだ」
「過剰なんてことはないです。余計な心配をかけることになって本当にごめんなさい」
「パトリシア、そんな悲しい顔をする必要はない。話を聞く限り、ロレンソは善人に思える」
「でも」という私の声が発せられることはなかった。
アズレークがキスで私の口を塞いでいたからだ。
この時は……何度キスをされたか覚えていない。
ただアズレークの重ねるキスには、私を想う気持ちが溢れていた。それを感じるだけで、果てしない喜びに包まれ……。
庭園にいたスノーとマルクスをだいぶ待たせてしまい、アズレーク……レオナルドと二人で平謝りだった。
その時のことを思い出すと。
思わず頬が緩んでしまう。
結局、ロレンソについてアズレークの部下が調べた限り、問題は見当たらなかった。むしろ、その評判は素晴らしいものばかり。
診療所が休みの日に無償で訪問診察を行い、貧しい患者には無償で診察をしていた。ただ、健康になったら可能な範囲で返済をするように言って、甘やかすこともない。
診療所は2階にあり、ロレンソ自身は3階に住んでいた。深夜などに治療を求める患者にも、真摯に対応しているという。
よってアズレークも「ロレンソに問題はないと分かった。護衛の騎士を連れ、遅くならないように」と言ってくれている。
ということで。
そのロレンソとの食事は明日に迫っていた。
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