7:大丈夫なわけがない!!
レオナルドとキスをしている……!
そう思ったが。
魔力を送られているだけだ……。
そう、プラサナスの時のように。
唇を重ねることはなく、魔力をただ送られていた。
うっすら目を開けてしまったので、レオナルドの端整な顔が、すぐ目の前に見えている。眉毛も睫毛も髪色と同じアイスブルー。閉じられた瞼には、そのアイスブルーのサラサラした前髪がかかっている。肌はきめの細かいシルクのようで、その唇は淡いピンク色。
信じられなかった。
あの『戦う公爵令嬢』の魔術師レオナルドから魔力を送られていることに。
信じられない思いでいたが、魔力の熱の塊が喉を通過し、じわじわと体が熱くなってきている。魔法で抑えられているからこそ、逆鱗は反応していないが……。魔術師レオナルドから魔力を送られていると思うと、さらに鼓動が加速されてしまう。まだ魔力を送られている途中なのに、全身から力が抜けそうになった。
力が抜けそうになったその刹那、素早くレオナルドが私の体を支えた。
アズレークに比べ、優雅に見え、線も細く感じていたが。
私の体を支える腕は、力強い。
その事実にレオナルドを余計に意識してしまい、今度は頭までくらくらしてくる。
するともう片方の手で頬を優しく包まれた。
キスをしているわけではないのに。
レオナルドとキスをしている気分になり、意識が飛びそうになる。
もう、ヤバイ……。
そう思った瞬間、レオナルドの顔が遠ざかる。
「パトリシア。大丈夫かい?」
レオナルドの声と姿で優美に尋ねられているが。
大丈夫なわけがない。
姿はレオナルド、声はアズレークで迫られて。
でも直前で姿も声もレオナルドに戻り、魔力を送られたのだ。
混乱するし、もうどうしていいか分からない。
「僕の魔力は……アズレークの魔力よりマイルドなはずだよ。今回初めて送ったが、定着は早いはずだ」
レオナルドは私を抱き寄せると、静かに背中を撫でる。
そうやって背中を撫でられると、アズレークのことを思い出す。
レオナルドとアズレークはイコールなのだ。
思い出すも何も、本人なのに。
「アズレークに会いたいの? パトリシア」
レオナルドが耳元で囁く。
力はまだはいらないのに。
アズレークの名を聞いただけで、力が少し沸いてきた。
必死に首を縦に振る。
でもそれで力尽き、そのまま胸にもたれた。
するとふわりと風の動きを感じ、目の前の純白の軍服が、黒いシャツに変っている。
「アズレーク!」
不思議だった。
アズレークの姿は、ブラックドラゴンに由来している。そして私がその番(つがい)であるからか。アズレークの姿を見ると、どうしたって気持ちが溢れる。そして出ないと思った声を、出すこともできていた。
「まったく。私とレオナルドは同一なのに」
「でも姿も言動も全然違うわ」
「それはそうだろう。でも一緒のところも沢山ある」
「そう……なのですか?」
「すぐに分かる」
そう言って黒曜石のような瞳を細め、微笑むと。
「今日も来てくれてありがとう、パトリシア。君に会えて、触れることができる。それだけで溜まった疲れが一瞬で吹き飛ぶ。特にこうすると、この後の仕事がとてもスムーズに進む」
アズレークの手が滑るように後頭部に回される。
「アズレーク……」とその名を呼び、顔をあげると――。
静かに唇が重ねられた。
◇
アーモンドの花が咲き誇る庭園に向かうと。
もうビックリしてしまう。
そこにはスノーと共に、王太子であるアルベルトと彼の三騎士が勢揃いしていたのだ。
「パトリシア、久しぶりだね。元気にしていましたか」
清々しい笑顔でアルベルトが私を見ていた。
陽射しを受け、煌めくシルバーブロンドの髪。
大海を思わせる碧い瞳には力強さが宿っている。
白シャツに濃紺のベスト、セレストブルーの上衣、同色のズボン。
爽やかでアルベルトらしい装いだ。
ドルレアン一族と決別したことで、彼本来の力強さが完全に戻っていた。その凛とした姿には、王太子のオーラさえ感じられる。
「はい。おかげさまで元気にやっています。王太子さまもお元気そうで何よりです」
「今日はパトリシアの手料理を食べられると聞いて、三騎士まで引き連れて来てしまったが、大丈夫かな?」
「ええ、沢山用意してありますから、皆で食べましょう」
私の言葉にアルベルトの後ろに控える軍服姿の三騎士――ミゲル、ルイス、マルクスも笑顔になる。
三騎士の花形・剣の騎士であるミゲルは、相変わらず薔薇の背景が似合う美しい姿をしていた。弓の騎士・ルイスは、エルフのような人智を超えた美貌を今日も披露している。槍の騎士・マルクスは……いつも通りだ。
「では魔術師レオナルド、お邪魔させていただきます」
「お邪魔などではありません。私の婚約者であるパトリシアの手料理を、王太子さまが楽しみにしていたなんて。光栄です」
レオナルドが優雅に挨拶をすると。
たまたまそばを通りがかってしまった貴婦人二人組が、彼の優雅な姿を見てしまい、倒れそうになっている。それに気づいた役人らしき男性が、慌てて二人を支えていた。
本当に、乙女ゲーム『戦う公爵令嬢』の設定通りだ。
魔術師レオナルドの優美さに卒倒する貴婦人が、本当にいるのね……。
そう考えると、さっきレオナルドに魔力を送られ、意識喪失しなかった自分を褒めてあげたい。
そんなことを思ってしまう。
お読みいただき、ありがとうございます!
GWを使い執筆を進めました。お時間いただき感謝です。
ひとまずストック切れになるまで毎日更新いけそうです!
次回は明日『突然の出来事』を更新しますね。
引き続きよろしくお願いします!
【お知らせ・完結】
一気読み派の方、良かったらどうぞ!
『悪役令嬢ただし断罪後のハピエン確約で異世界召喚!』
https://ncode.syosetu.com/n0833ie/
「私の婚約者となり、悪役令嬢になってもらいたいのです」
――私を召喚した美貌の王太子が、笑顔でそう言った。
さらに。
「断罪終了後、この国で人気の三人の男性のいずれかと婚約できるようにしますから」
えええ、それってどういうことですか!?
ちなみに短編試し読み版(3話収録)の用意もあります。
https://ncode.syosetu.com/n0349if/
まずは試し読みからでもよろしくお願いいたします!
ラストはハッピーエンドなので安心してお読みいただけます。



























































