スノー視点(1)3話と4話をつなぐ3.3話
私がいるこの世界。
ここはなんだか狭くて、寒くて、地味だ。
広くて、温かくて、派手な世界を知っているのか?
そう問われると困ってしまう。
私が知る世界は、狭くて、寒くて、地味しかないのだから。
それでも。
通路を隔てた向こう側にいるトムおじさんは。
こんな話をしてくれた。
「俺がここに来る前にいたのは、こことは比べ物にならない、それはそれはもう、立派で華やかで、温かくて、ふかふかの寝床が用意されているところだった。部屋の中はいつもいい香りがしてな。俺の主はえらい別嬪なお嬢ちゃんで、俺のことをそれはもう、可愛がってくれた。宝石という、キラキラする石ころを俺の首につけてくれて。食事も最高だ。風呂にも毎日入れる。至れり尽くせりだった」
トムおじさんはそう言うと、遠い目をしている。
「だがな。俺は……贅沢をし過ぎた。甘やかされ過ぎた。本当は……こんな巨漢になる予定はなかった。それに部屋は広いが、その分、調度品もある。何より、奔放に駆け回ることなんて許されない。つまりは運動不足のまま、食いたい放題をしていたら……。この体になちまった。これは……自然の摂理だ。仕方のないこと」
「つまりそれでトムおじさんは、ここに来ることになったのですか?」
私が尋ねると、トムおじさんは深々と頷く。
「そうだ。俺がもし巨漢にならなければ。きっと、あの素晴らしい部屋で、美味しい物を食わせてもらい、何不自由なく暮らせたはずだ。……まあ、仕方ねぇ。ここだってな、住めば都かもしれないからな」
そうトムおじさんは言っていたけど……。
新たな主が見つかったということで、すぐにトムおじさんはいなくなった。
◇
「さあ、おいで、スノー」
声をかけられ見上げると。
そこにはニルダさんが見えた。
ニルダさんを見た瞬間。
今年もその季節がきたのだと分かり、私は喜んでニルダさんに近寄る。
一年に一回。
ニルダさんは私をこの小屋と、小屋の外の広場ではない場所、そう、森へ連れ出してくれる。
ここは修道院という場所で、その修道院という場所の裏手に森があるという。その森には……どうやら素敵な殿方がいるらしいのだ。そしてニルダさんは私がその殿方を見つけ出す自由を与えてくれるのだ。
あの森に行くと。
本当に素敵な殿方の香りがする。
もう、嬉しくて、嬉しくて、早くお会いしたいと私は駆けて行くのだけど。
ここだ! 見つけた!
そう思い、必死に土を掘り返して。
香りの主とご対面となった瞬間。
別の素敵な香りが私にもたらされる。
それはリンゴ。
リンゴは大好物。甘くて歯ごたえがよくて、美味しいのだもの。
そのリンゴが目の前に差し出されたら。
食べないわけにはいかない。
喜んでリンゴを食べ終えて。
掘り起こした土を見ると……。
さっき感じた素敵な香りが薄まっている。
私が見つけた素敵な殿方は何処に行ったの?
懸命に香りを追うけど、いない。
仕方ない。
いつもこうなる。
素敵な殿方は……いつも私からすり抜け、何処かへ姿を消してしまう。
でも大丈夫。だってこの日は陽が落ちるまで、素敵な殿方を探すことを許されるから。
◇
今年もまた。
素敵な殿方を探せる日がやってきた。
いつものようにニルダさんが私を迎えに来て。
でも今年はパトリシアさんという方に抱っこされ、森へ向かうことになった。
パトリシアさんは……とても綺麗な顔をしている。
キラキラの金色の髪に私と同じ白い肌。琥珀色の瞳もとっても素敵。それにパトリシアさんからはとてもいい香りがした。
そんなパトリシアさんに抱きかかえられ、森に向かい……。
いつも通り、素敵な殿方の香りを追いかけた。
その香りは……。
この世のものとは思えない、何か畏怖の念を思わせる香りだった。なんというか、ひれ伏したくなるような、崇高な香り。驚いて香りの持ち主の方へと駆け出す。
「ちょっと、スノー、待って!」
パトリシアさんの声が聞こえるけど、この香りの持ち主の方が気になってしまい、走り出すことが止められない。
懸命に香りを追って見つけた。
巨木の後ろに。
とんでもなく素晴らしい香りの持ち主がいる。
私とは対照的な真っ黒の人。
懸命に彼のそばにより、私は自分の存在をアピールしているけれど。彼の瞳はどこか別の方向へ向けられている。その瞳は……。
なんて情熱的。
あんな瞳で見つめられたら。
火傷でもしてしまいそう。
「スノー、とびっきりのトリュフを発見した?」
パトリシアさんの声がした。
◇
すべてはあっという間の出来事。
パトリシアさんと素晴らしい香りの彼は短い会話を交わすと……。突然、パトリシアさんが黒い彼の腕の中に倒れ込んだ。
素晴らしい香りの彼は、意識を失ったパトリシアさんのことを、まるで壊れ物に触れるかのように優しく抱きしめている。
腕に力を込めようとしたその瞬間。
黒い彼は我に返り、ゆっくりパトリシアさんから体をはなし、その体を抱え上げた。私はその時、直感で、彼とパトリシアさんがここから消えてしまうと察知していた。だから懸命に声をあげて鳴くと。
「……ミニブタか……。パトリシアが連れていたのか?」
まあ、なんて素敵な声でしょう。
香り同様素晴らしい声で驚いてしまった。
「パトリシアの世話は、屋敷の人間に任せようと思っていたが……。突然の事態にパトリシアは戸惑うだろう。でもお前がいれば……。よし、おいで」
素晴らしい香りと声を持つ彼が、私を手招いた。
どこのどなた分からないけど。
とっても素晴らしい香りと声をしている。
それにこの表情。
私達には分かる。
この彼は悪人ではないと。
招かれるまま、黒い彼の足元に駆け寄った。
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