17. 第一回LYREN定例企画会議①
第一回LYREN定例企画会議は、それから数日後に開催されることになった。開催、といってもそんな大袈裟なものではない。その日のレッスンが少し早く終わる予定だったので、事務所の小さな会議室を三十分だけ押さえてもらっただけだ。参加者はメンバー五人と、佐伯さんと私。普段ならスタッフ同士の打ち合わせに使っている部屋に、今日は五人がそれぞれ飲み物やスマートフォンを手にして集まっている。
私はホワイトボードの前に立ち、事前に決めていた今日のテーマを書いた。
【第一回 LYREN定例企画会議】
【テーマ:動画でやってみたい企画】
「…………」
書き終えて一歩下がると、途端に妙な実感が湧いてきた。
(本当に会議になった……)
つい数日前、玲とデスクの前で話していたことだ。
佐伯さんへ相談して、上の人にも報告して、麗央には進行役をお願いした。ほんの思いつきに近かったものが、気づけばこうして五人全員を巻き込んだ時間になっている。
「今日はまず、YouTubeを中心に動画でやってみたいことを五人で出してみる、で合ってます?」
開始早々、麗央が確認する。すでに自然と全員の顔が見える位置に座っていて、進行役を頼んだときから何となく分かってはいたけれど、本当にこういうことが似合う。
「はい。一旦、経緯だけ私の方から説明しますね」
私は手元に置いていた資料へ一度視線を落としたものの、そのまま閉じた。ここで用意してきた文章を上から読み始めたら、せっかく本人たちに考えてもらうために作った時間の意味が薄れてしまう気がしたからだ。
「今、YouTubeには基本的にミュージックビデオと告知映像が上がってると思うんですけど、そこにメンバー自身が出る企画動画も少しずつ増やしていけたらいいなと思っています」
「はいはい!」
言い終わるより先に、優が勢いよく手を上げる。
「それって、YouTuberみたいなことしてほしいってことですか? それともファンクラブ向けの動画みたいなのをYouTubeにも上げていく感じ?」
「あ、それも含めてみなさんに決めてほしくて。ただ、もちろん何でも自由にできるわけではなくて、最終的には企画も動画の内容も事務所のチェックが入ります。だから話した結果、『やっぱり会社側で企画を考えた方がいい』って結論になっても全然大丈夫です」
そこまで言うと、五人が少し意外そうな顔をした。おそらく今日は、私が持ってきた企画案の中から何かを選ぶものだと思っていたのだろう。
「それでも、せっかくみなさん自身が出るコンテンツなので、できるだけ本人たちの意見を反映したいなと思ったのが一つです。活動内容って、言い方は変ですけど、みなさん自身の人生の一部でもあるので」
一瞬、部屋が静かになった。
(……あれ。重かったかな。大丈夫?)
自分で言っておきながら急に不安になる。二十二歳の新人マネージャーが「あなたたちの人生」なんて語っていると思うと、少し大仰だったかもしれない。それでも動揺は胸の内に押し込め、できるだけ何でもない顔で話を続ける。
「あとは、動画って写真や記事より、その場の空気まで伝わるじゃないですか。だったら、撮られる側のみなさん自身が楽しんでいる方が、見ている人にも伝わると思っていて。それと、こうやって五人で相談しながら仕事を進めること自体が、チームとしての意思疎通を深めるきっかけにもなればいいなと思っています」
「春さん、俺らとそこまで年齢変わらないはずなのに先生みたいですね」
凪が満面の笑みで、へらっと笑いながら言った。
「え」
(たしかに。本来ならみなさんの先生をやっていてもおかしくない年齢ではある……)
見た目は二十二歳でも、中身だけなら三十歳だ。十九歳や十八歳の彼らを前にすると、どうしても数年先を知っている人間の話し方になってしまうのかもしれない。
「じゃあ、先生らしくしてみようかな。ちょっと授業っぽくなってしまうんですけど……」
開き直ってホワイトボードの端に、
【FC=ファン向け】
【YouTube=まだ知らない人にも】
と書き足した。
「ただ、これは本当に私の個人的な意見なので、参考程度に聞いてください。ファンクラブは、もうLYRENを好きでいてくれてる人が見る場所ですよね。だからそこは今まで通り、ファンの方が嬉しいものを大切にしたくて。その一方で、YouTubeはLYRENをまだ知らない人が偶然見ても面白いものにできたらいいなと思ってます」
「偶然?」
凪が首を傾げる。
「例えば、他の動画を見ていたらおすすめに出てくるとか。YouTubeに限らずSNSって、最初からその人たちを探していなくても、たまたま動画が目に入ることがあるじゃないですか。この前の玲さんと優さんのダンス動画もそうでしたけど、一本の動画をきっかけに『この子たち誰だろう』って思ってくれる人がいるので」
「ああー」
優が分かりやすく大きく頷いた。
「俺と玲がカバーダンスして、『この二人誰?』ってなったやつみたいに、ってことですよね?」
「そうです!」
思わず声が大きくなる。
二〇二六年では、そんなことは当たり前だった。曲を知らなくても、一つの動画から人を知る。一人のメンバーを好きになって、そこからグループを見る。短い動画や切り抜きが入口になって、気づけば過去の動画を全部見ている。私自身だって、何度そうやって新しいアイドルやタレントを知ったか分からない。
でも二〇一八年の今は、まだアイドルのYouTubeといえば、ミュージックビデオや告知映像の延長という印象が強い。だからこそ、今から少しずつ曲以外の五人自身も見せておきたい。
「それに、曲を好きになってもらうのと、人を好きになってもらうのって少し違うと思ってて」
口にしながら、自分の中にあった考えを改めて整理していく。
「曲を聴いてLYRENを知ってもらうのももちろん大事です。でも、そのあと『この五人の関係性面白いな』とか、『この人のダンスの仕方好きだな』とか、『意外とこういう性格なんだ』って思ってもらえたら、次の曲も見てもらえるかもしれないじゃないですか。だからYouTubeをはじめとしたSNSでは、五人が普段どういう人なのか分かる動画もあったらいいな、というのが私の意見です」
そこまで言ってから、持っていたホワイトボードのマーカーを麗央の前に置いた。
「ここからは麗央さんに仕切りをお願いします。予算の制限と会社のチェックはもちろん入りますけど、せっかくなので、この場だけでも好きに意見を出してもらえたら嬉しいです」
「じゃあ俺は――」
優が早速、楽しそうに口を開いた。




