↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

第4章4(中)

 十一月二十日、この土日はアリスの家に泊まる。

 家にいなくてもいいし、アリスのそばにいられる。毎日これでいい。

 リュックを背負ってアリスの家へ向かった。途中、レンタルショップとコンビニに寄り、門柱の郵便受けから鍵を取り出し、玄関を開ける。

「ただいま」そのままアリスの部屋へ。

「アリス、来たよ」

 アリスは死んでいる。

 私は読書。テレビはつけたまま。

 夜になった。私はパジャマに着替え、DVDを入れる。テレビの画面は映画に変わった。

 アリスの以前のリアクションを思い出しながら、ポッキーを一人で食べた。

 そして昨日と同じように日記を開いた。


 七月八日


 昨日は七夕で街並みを凛と楽しんだのに、今日は最悪です。

 高一になって初めて……気分がすぐれないからって、休みました。自分の病気のことを甘く見ていました。楽しい分、揺り戻しがあるんだなって。

 私の病気について話したことがないので話します。お医者さんも日記を書いて毎日を整理するのはいいことだと言っていましたし。

 私の病気は、うつ病と不安障害、それから不眠症。簡単に言えば、元気が出ないときがあったり、不安やストレスに心と体が強く反応したり、うまく眠れなくなったりします。

 だから今日みたいに動けない日があります。普通の人には動けない日があるだなんてわからないと思うけど、私にとってはこれが日常なんです。

 高校に入って凛に会って恋をして、友達になって休みの日に一緒に遊んだり。そんな幸せがずっと続く。病気は治ったんだ! そう思いたかったです。

 現実は学校を休み家でこうして日記を書くことで気持ちを誤魔化しているだけです。こうやって何かができるだけマシなんです。きっと一生付き合っていくしかないんだよね。

 凛にはいつまでも隠し通せるとは思っていません。凛は鋭いから。だからきっといつかはバレます。でもせめて同じ学校に通える高校生の間は全力で隠したいです。

 前に初めて凛が泊まりに来ました。お母さんは凛のことがすごく気に入ったみたいでした。私がずっと話すからかな? もしかしていろいろバレてるかも。

 お母さんは病気のこと、薬のことを隠すのを手伝ってくれました。でもこれからは自分でがんばって隠さないといけない。凛に嘘をついてるみたいで嫌だな。でも知らないでほしい。私のことは、二人のときは、明るい子だと思ってほしい。この気持ちは間違っているのでしょうか?

 でも私の正直な思い。願いです。凛、私の暗いところは知らないで。私のことはただの無邪気ないい子だと思っていて。


 アリスにこんな葛藤があっただなんて知らなかった。

 サインはあった。時々休むこと。記憶が間違っていること、嫌なことがあると指が震えることがあること。だけど私の中で強く結び付かなかった。

 アリスは、私に知られたくないと書いていた。

 でも私はそんなアリスの悩みを知りたかった。そしてアリスのことをもっと知りたかった。

 その機会はすでに失われた。


 十一月二十一日は、アリスの部屋で目が覚めた。「アリス、おはよう」

 アリスは死んでいる。

 私は布団を畳み、押入れに入れる。慣れたものだ。

 コンビニで買った朝食を食べ、しばらくアリスと一緒にいた。

 DVDを回収して、アリスの家を出た。施錠をし、鍵を郵便受けに入れた。

 途中でレンタルショップに寄りDVDを返し、自分の家に帰る。ただいまは要らない。

 私は明日の準備を終え、夜になると日記を広げた。


 八月二日


 私は初めて夏休みを嫌いになりました。

 凛に毎日会えないのにがまんができなくて、死にそうです。

 私にとって死にそうというのは比喩ではなく、事実です。2年前ほどになります。私に希死念慮がある、と言われたのは。私は普段から死について考えることが多いそうです。みんながそうだと思っていたので、自分が大勢とは違う側だと知っても、すぐには理解できませんでした。

 少なくともお医者さんとお母さんは考えないみたいです。

 ショックを受けるより先に、みんなの見る景色が色づいていることに嫉妬しました。ズルい。それが率直な思いです。今ももちろん抱えている感情です。

 みんな死んじゃえばいいのに。

 私と同じになって苦しめばいい。

 私は黒く黒くなるのを感じました。

 なんで私だけが、こんなに苦しまなきゃいけないの。

 みんなも私と同じように苦しめばいい。そう周りの人を呪ったのは、十回や二十回では足りません。

 でも、みんなが苦しんだからといって、私の苦しさが消えるわけじゃない。私が解放されるわけでもない。そう割り切れるようになるまで一年くらいかかりました。この檻からは逃げられない。そんな諦めの中で生きていくことを決めました。

 それでも死にたいと思ってしまいます。

 今、楽しくないわけじゃない。楽しいことだっていっぱいある。この先だって素晴らしいことはいくつもある。頭ではわかってる。だけど心はダメだ、どうしても黒いものが勝ってしまう。

 たとえ凛がいても、ダメなものはダメだ。

 死にたい。私が死んだら凛は悲しんでくれるかな? 凛は私と一緒に死んでくれないかな。私が凛を殺して、私も死ぬの。

 ううん。そんなことはダメ。絶対にダメ。死にたくない! 精一杯生きていたい! 凛と一緒に生きていたい! ずっといっしょがいい。

 だからがまんしなきゃ。

 私は私の黒い気持ちと戦わなきゃ。

 そうだ! 凛に電話をしよう! 勉強か読書の邪魔になるかもしれない。だけど声が聞きたい! 会える日の約束をするんだ!

 楽しい夏休みはここから始めよう!


 夏休みのことを思い出す。アリスからもっと電話があるかと思っていた七月。

 電話がよく来るようになって、遊びに誘われた八月。

 あの変化の裏で、アリスは私には理解できないほど苦しい戦いをしていた。

 あまりにもつらいものを背負って、それでも私に電話をかけ、会いに来て、笑ってくれていた。

 ありがとうと伝えたい。

 しかし、もう感謝を伝えることはできない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。