小話3-1 副官と筆頭騎士
騎士のために用意されている施設は多種多様で、敷地もまた広大だ。
大広間や会議室、実習室や屋内訓練場などが備わった騎士棟。訓練のための屋外訓練場。騎士たちの生活の場である騎士宿舎。
その宿舎には庭も広がっており、騎士たちが十分な休息と交流が持てるような場所となっている。
そんな庭をレノーがフレッドと共に歩いていると、
「あ、アンリ様だ」
という声が聞こえてきた。
レノーがその声の方向を見やると、第一陣営に配属されている新人騎士数人が、歌劇の花形俳優でも見たかのような目で、庭の東屋を見つめていた。
その視線の先を追うと、アンリが従騎士たちと共に何か話し合っている姿があった。自分を見る視線に気付いたのだろう、彼はそちらに目を向け新人騎士たちを見つける。
騎士のトップの一人である人物を不躾に見てしまったと思ったのだろう。騎士たちは慌てたように姿勢を正す。
アンリは慣れたもので、新人騎士たちに向けて、にこり、と微笑んだ。騎士たちはぽーっと顔を赤らめる。
(おいおい)
ーー自分たちが騎士になる少し前までは派閥争いが激しく、対立陣営の騎士と親しくするなど、ありえないことだったらしい。
しかし最近は陣営の融和が謳われているため、大きな敵対意識はない。第一陣営筆頭騎士のローランも、彼に憧れる第二陣営の騎士を邪険にしたりはしない。
それにしても。
(騙されるよなぁ)
アンリの麗しい佇まいを見ながら、騎士になって一年経った頃のことを思い出していた。
⭐︎
その日、レノーはローランと組んで騎士棟の点検を行っていた。一日の終わりの施錠確認当番だったのだ。
月のない、いつもより暗い夜。誰もいないはずの物置部屋で、何か物音が聞こえた。
空耳か、と思いローランの様子を窺うと、彼も険しい顔をして扉を見ていた。
(……)
扉に耳を当て、聞き耳を立ててみる。不明瞭ではあるが、誰かが争っているような音が聞こえた。
「誰かいるみたいだぜ」
と声をひそめてローランに伝えると、彼は渋面を浮かべた。
正直な感想を述べよう。
(面倒臭いところに居合わせたな)
素行の悪い騎士が、こういう場所で、か弱い騎士を連れ込んで狼藉を働くことがあり、その可能性が極めて高い状況だと思われた。
こういった場面の処理は、大変だ。
被害者のフォロー、加害者への懲罰というのは基本形に過ぎず、内情はもっと複雑だ。
加害者を罰すれば、誰かが被害にあった事実が全体で共有される。場合によっては被害者が特定されることもあるだろう。そのため、秘密裏に処理して欲しいと訴える被害者もいる。
他にも加害者と被害者の間の身分に差があっても問題は複雑化する。……身分が高い方が加害者側とは限らないことだってある。
また、懲罰にあった者から逆恨みされることもあるだろう。
とにかく色々と大変なのだ。
しかし、見つけてしまったからには放っておくわけにはいかない。
「立ち入るか?」
「ああ」
事の最中だったりすると気まずいが、必要であれば助け出す必要がある。
(よしっ)
覚悟を決めて立ち入ろうとしたところ、勢いよく扉が開かれてーー若い男が蹴り出された。
(な、何だ!?)
突然のことに驚きつつも、男の素性を確認する。この男は、アルバノという第一陣営の、素行が良くない同期の騎士だ。
顔が腫れている。どうやら殴られたようだ。しかも下衣がずり落ちており、尻が丸見えだった。
これはーー。
(逆襲されたな)
一連の流れは容易に推測できた。
また、この後、部屋から出て来る人間も予想できる。
果たして、愚か者を蹴り出した本人が出てきた。予想に違わずアンリである。
彼は美しい顔を魔王のような形相に歪めたまま低く唸った。
「あぁ? その程度でお前、俺をヤろうってのか? 舐められたもんだな」
と。




