1-1 目覚めると 女の子に なっていた
ある日、朝起きると、女になっていた。
フィリウス王国のシリル第二王子の筆頭騎士であり、黒騎士と呼ばれるアンリ・セネヴィルは呆然としていた。
宿敵からぶっ殺されるという、縁起の悪い夢を見て飛び起きた瞬間から、何か違和感があった。
(ん?)
何となく手がいつもより小さいような気がしたり、寝台が広いような気がしたり。そんな僅かな違和感だ。
(二日酔いかな)
昨夜はしこたま飲んでいたので、まだ頭が覚醒していないだけだろう、と思いつつ寝台から下り、就寝用の上着を脱いで……思わず叫んだ。
「う、うわぁあ~~!!!」
見慣れたはずの自分の上半身。それが、今は全く見慣れないものになっていた。
(胸、胸がある!?)
決して豊満とは言えないが、しかし男にはない柔らかな膨らみが、そこにあった。と認識すると同時に、下半身にも強烈な違和感を感じ、下衣を上から覗き込む。
そこには……あるべき大切なモノが、なかった。
(そんな馬鹿な……っ!?)
……よく見ると、上着も若干小さく感じる。
慌てて衣装箪笥の脇にある姿見の前に立つと、そこには自分が覚えている姿よりやや小柄で、丸みを帯びた体型の、自分にそっくりな「女」の姿が映っていた。
「…………」
夢だ。これは夢に違いない。アンリは頬を目一杯つねった。
ーーすごく痛い。
(いや、きっと痛みを感じる夢もあるはず!)
絶対に夢だとは信じていたが、万が一ということがある。無断欠勤にならないよう体調不良と偽ることにした。体格を誤魔化すため重ね着をした状態で、律儀に休暇申請を出し、悶々と一日を過ごし、寝て、起きた。
朝を告げる鳥が鳴いている。
ーーやはり女の体だった。
(夢、じゃない……!?)
そんな馬鹿な、と思う反面「これは現実だ、諦めろ」と理性が訴えてくる。
(泣く子も黙る黒騎士のこの俺が、女ーー)
冗談のようである。が、現実であるのならば、何をすべきか考えなければならない。
アンリは騎士だ。そして騎士は現在、女人禁制である。女になったアンリは、騎士を続けることができない。であれば、騎士を辞すか、女になったことを隠して騎士を続けるかの二択だ。
ただ、王立学園を十八才で卒業し、すぐに騎士に叙任したアンリは現在二十三才であり、原則七年間である騎士の任期はあと二年もない。できれば全うしたいし、その間に身の処遇を考えたい。
どうにか、今までどおり、騎士として勤めることができないか、と考えた時、ぴんと閃くものがあった。
(確か、外見を偽る幻影系の魔法があったよな)
アンリは、あまり魔法が得意な方ではないが、試しにやってみる価値はあるのではないか、と思った。
ゆっくりとした独特の呼吸を繰り返し、体の内で波打つ魔力を探る。
(なんか……いけそう……)
体を巡る魔力の質が変わっているような気がした。今までよりも自分の中にある魔力が多く感じられ、しかもよく馴染んでいる。
いつもより複雑な魔法を使えるような気がした。
魔法を構築し終えて鏡を見ると、見慣れた男の体の輪郭が、女の体の輪郭を隠すように包んでいた。自分の目には二重に見える感じだが、何故だろう、完璧に発動したという確信があった。
(よし!)
アンリは拳を握りしめた。どうやらこの体は、男の時よりも随分と魔法に適正があるようだ。
首の皮が一枚、繫がったと胸を撫で下ろす。
(となると、出勤しないとな)
連日休暇を取ると、周囲から何事かと心配されそうだ。魔法も上手く発動したことだし、とアンリは思い切って部屋の外へ出てみることにした。
騎士宿舎の廊下を歩いていると、対面からこちらに向かって歩いてくる一人の青年の姿を認めた。金の髪をした、誰もが目を奪われるだろうという美しい青年だ。
(げっ、ローラン)
その青年の名はローラン・シャルトルという。
アンリと同じ年で、王立学園からの同級生。第一王子の筆頭騎士である彼は、第二王子の筆頭騎士であるアンリにとって、学生時代からの最大のライバルである。
皆さま、この世にTS男女の恋愛モノが少なすぎる思いません?
私はーー思います!
そんなニッチなジャンルなので、もう一度、自家発電してみます!
「死に戻ったら前世で私を殺した宿敵が溺愛してきます」と同一の世界観ですが、並行世界で独立したお話なので、前作を読まなくても単体でも読めるーーはずです!
TS男女好きさんが増えますように……!




