その4
雀が鳴いている。朝だとわかった悠一は、固い床に寝転がる身体を起こした。その際、額にゴンと強くぶつける。不意の痛みに、彼はまた床に寝転がって声にならない悲鳴を漏らした。
大変なことになったぞ悠一、早く起きろ、というエヅナの声を聞くまでは。信じられない悠一は、今度こそ身体を起こして、彼女を見た。間違いなくエヅナだ。凛とした端整な顔付き、何を考えているのか微塵も読むことのできない無表情。額が少しだけ赤く腫れていること以外は丸っきり完全に悠一が知る彼女そのものだった。
私を庇って、一体どういうつもりだ。悠一のせいで私の計画が滅茶苦茶だぞ。お前という不純物のせいで座標が狂ってしまって、次元肉腫を取り逃がしてしまったではないか、と彼女は激しく憤っている。いや、語調は平坦なので分かりにくいが、ともかく悠一にはそれが十二分に伝わった。故に、はあ、と当たり障りのない返事しか悠一にはできなかった。
結局……、とエヅナはまだ続ける。
結局、私はまたここに戻ってきてしまった。しばらくは帰れないぞ。お前の霧散した魂をかき集めるのに、随分とエネルギーを使ってしまったからな、この愚か者め。なぜ人間は合理的に物事を考えられないのか、理解に苦しむ。お前のせいだ。全部お前の責任だ。お前は責任を取らなければない。わかったか、この三流詐欺師が。
というようなことを悠一は長々と聞かされた。憤慨するその声色はやはりいつも通りだったが、悠一にはそれが以前より幾分か人間じみて聞こえた。
解き放たれればきっと私は……。
そこで途切れた台詞を、悠一はまだ覚えている。何ともまあらしくないことを言うようになったものだな、と悠一は煙草を、にやける口元を隠すように吸って、彼女の言葉に耳を傾けるのだった。




