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届いた招待状  ー私という人間についてー


平日の火曜日、午前九時。


甘さ控えめのカフェラテをグラスに注ぎ、二人掛けにしては少し小ぶりなソファへ腰を下ろす。


コトリ、と小さな音を立ててテーブルに置く。


その隣には、一通の白い封筒。


上質な紙に、お洒落な封蝋。

ひっくり返せば、金の筆記体で〈Wedding〉の文字がきらりと光った。


すでに一度開けたはずなのに、私はもう一度封を切る。


中身を確認しなくても、何が書かれているのか知っている。


――元彼からの、結婚式の招待状だ。


もっとも、「元彼から」と言い切ってしまっていいのかは少し悩ましい。


新婦は、私にとっても大切な友人だからだ。


「……まぁ、知ってたけど」


SNSが普及したこの時代、招待状より先に知らせてくれたものがあった。


可愛らしいデザインの婚姻届。

サイズの違う二つのリング。

そして、白黒の断面写真。


妊娠していることまで、私はすでに知っていた。


二十八歳、個人事業主。


それが、私――佐藤知さとう つかさだ。


半月前、私は高校時代から付き合っていた恋人に振られた。


そして今朝、その彼から結婚式の招待状が届いた。


「……いつからだったんだろう」


思わず、笑いがこぼれる。


新郎の山田拓未やまだ たくみは、高校二年生から十二年間付き合った恋人だった。


新婦の田中結たなか ゆいは、小学生の頃から途切れることなく付き合いのある友人だ。


十二年。


このまま結婚するのだと、疑いもしなかった。


そう思えるほど、私は愛されていた。


我が儘で、自分勝手で、自由奔放。


そんな私に、拓未はいつも笑って付き合ってくれた。


裏切られているなんて、夢にも思わなかった。


「一人でも生きていけそうなやつ」


それが、昔からの私への評価だった。


でも、本当の私はその真逆だ。


強くもないし、器用でもない。

誰かに寄りかかって、ようやく立っていられる。


そんな私を知っていて、

理解していて、

それでも受け止めてくれていた。


私の拠り所は、拓未だった。


「あいつに言えば、なんとかしてくれる」


そんなふうに周囲から頼られるのは、学生時代から変わらなかった。


係でもない教科の資料運び。

所属していない委員会の手伝い。

生徒会の雑務まで、いつの間にか引き受けていた。


アルバイト先のファストフード店でもそうだった。


気づけば在庫の発注を任され、シフトを作成し、会議にまで参加していた。


「……俺の彼女、アルバイトだよな?」


「そこまでお前がやる必要ある?」


呆れたように言いながらも、拓未はいつも笑っていた。


高校卒業後、進学も就職もせず、そのままアルバイトを続けた。


居心地がよかったのだ。


店長に「私ってアルバイトですよね?」と確認したこともある。


返ってきたのは、


「社員になりたいなら、すぐ手続きするよ!」


という、やたら前向きな答えだった。


成人式を控えた頃、さすがにこのままでは駄目だと思った。


けれど、社会の荒波に揉まれて生きていけるほど、私の精神は強くない。


接客業を何年続けても、人見知りは治らなかった。


満員電車にも、毎朝うんざりしていた。


「家で働けたらいいのにな」


何気なくこぼした私に、拓未は言った。


「じゃあ、やってみる?」


そうして彼は、パソコンの使い方を一から教えてくれた。


アナログな私と、デジタルな彼。


文系の私と、理数系の彼。


アウトドアな私と、インドアな彼。


和食派の私と、洋食派の彼。


運転が大好きな私と、助手席が特等席の彼。


右利きの私と、左利きの彼。


正反対の二人だと、よく言われた。


そのたびに私は、


「だから好きなんじゃん」


と答えた。


すると拓未は、決まって笑う。


切れ長の目。

長いまつ毛に縁取られた瞳。

そこには、隠しようもない「好き」が浮かんでいた。


今日はもう、仕事なんて手につきそうにない。


ソファに深く身を沈める。


アイボリーで統一された部屋の中で、ひときわ存在感を放つ青漆色のソファ。


その色を選んだのも、拓未だった。


しっとりと身体を受け止める感触が、彼の腕の中を思い出させる。


細身で、どこか頼りなさそうに見えるくせに、


彼はいつだって、私をしっかりと抱きしめて離さなかった。


羨ましいほど細長い指。


大きくて、薄い手のひら。


一度捕まれば、どれだけ暴れても逃がしてはくれない。


むしろ、絡め取るように抱き込んでくる。


私より少し低い体温が、たまらなく心地よかった。


――確かに愛されていたのだ、私は。


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