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第4話 箱の中の変人

 村はずれの道は、朝になると少しだけ広く感じられた。


 畑の向こう、柵の切れ目。

 そこから先は、子どもの頃に何度も止められた場所だ。


「近づくな」

「見てもいいけど、行くな」


 理由は、誰も教えてくれなかった。


 ただ――

 “あそこには、変なやつがいる”。


 それだけで、十分だった。


 エリオは足を止めずに進む。


 今さら、怖くなる理由もない。

 昨日までとは、少しだけ違う気がしていた。


 やがて、目的の場所が見えてくる。


 大きな木箱のような建物。

 家というには角張っていて、

 倉庫というには妙に生活感がある。


 屋根は歪み、壁には何度も補修した跡。

 けれど、壊れそうで壊れない、不思議な安定感があった。


 箱の前に立った瞬間――


「遅かったな」


 中から、声がした。


 エリオは思わず息を呑む。


「朝飯、もう冷めちまったぞ」


 ……朝飯?


 戸が、きい、と音を立てて開く。


 現れたのは、想像していた“怪物”でも“老人”でもなかった。


 ぼさぼさの白髪。

 無精ひげ。

 片目の上に、古そうな傷。


 年齢は、分からない。

 若いようにも、ずいぶん歳を取っているようにも見える。


 男はエリオを一瞥すると、ふっと口角を上げた。


「なんだ」

「思ったより、ちゃんと来たな」


 エリオは、しばらく言葉を失ったまま立ち尽くす。


「……あの」

「俺、エリ――」


「知ってる」

 男は、あっさりと言った。

「エリオだろ」


 胸が跳ねる。


「なんで……」


「村中が騒いでたからな」

「竜の日に、選ばれなかった少年」

「噂は、早い」


 そう言って、男は踵を返す。


「立ってないで、入れ」

「話は長くなる」


 断る理由は、なかった。


 箱の中は、意外にも明るかった。


 窓から光が差し込み、

 壁には本や地図、用途の分からない道具が雑多に並んでいる。


 散らかっているのに、

 どこか“必要なものしかない”感じがした。


 男は椅子に腰を下ろし、エリオを見上げる。


「で?」

「何を知りたい」


 エリオは、一瞬だけ迷い、

 それから、はっきりと言った。


「“竜の地”について」


 男の眉が、わずかに動いた。


「ほう」


 それだけだった。

 驚きも、否定もない。


「誰に聞いた」

「……夢で」


「なるほど」

男は、小さく笑った。

「嘘だったら上出来だ」


エリオは、思わず声を上げる。


「……嘘じゃない!」


「ごめん、ごめん」

男は肩をすくめた。

「つい、からかった」


「その顔は、“選ばれなかった顔”じゃない」

「歩き出した顔だ」


 男は立ち上がり、棚の奥へ手を伸ばす。


「ノエルだ」

「それが、俺の名前」


 振り返りざまに、言った。


「一応、村一番の物知りってことになってる」

「まあ、大体は“変人”扱いだがな」


 ノエルは、古い布に包まれた何かを手に戻ってくる。


「いいか、エリオ」

「最初に言っておく」


 その目は、ふざけていない。


「竜に選ばれなかったのは、不幸じゃない」


「あんなのはな、

 この世界の広さに比べたら、

 大したことでもない」


「むしろ――」


 布の隙間から、古びた地図の端がのぞいた。


「選ばれなかったからこそ、

 行ける場所がある」


 エリオは、喉を鳴らした。


「……それが、“竜の地”?」


 ノエルは、にやりと笑う。


「さてな」

「それを決めるのは――」


 地図を、机の上に置く。


「お前だ」


 箱の中に、静かな風が流れた。


 エリオは、自分でも気づかないうちに、

 前のめりになっていた。


 昨日まで、選ばれなかった少年。

 けれど今は――


 何かが、確かに動き始めていた。


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