↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜に選ばれなかった日【竜の子】〜誰にも選ばれなかった少年、謎の声に導かれ世界を選び直す〜  作者: 心瑛タケハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/68

第7話 まだ言葉にならない約束

 村の中を歩きながら、エリオは何度も人に声をかけた。


「リーナ、見なかった?」


 返ってくる答えは、どれも似ている。


「さっきまで広場にいたはずだが」

「もう戻ったんじゃないか?」


 誰も、はっきりとは知らない。


 ――昔も、こうだった。


 小さい頃。

 リーナがいなくなると、決まって一つの場所にいた。


 エリオは、足を止める。


 村を見下ろす、丘の上。

 古い遊具と、少し傾いたベンチ。

 子どもの頃、何度もここで夢の話をした。


 気づけば、体が自然にそちらへ向かっていた。


⸻


 丘の上は、静かだった。


 風が、草を揺らす音だけが聞こえる。


 ベンチのそばに、人影があった。


 リーナだ。


 膝を抱え、俯いている。

 肩が、わずかに揺れているのが分かった。


 ――泣いている。


 エリオは、足音を立てないように近づいた。


 だが、あと数歩のところで、

 リーナが顔を上げる。


 涙を拭う仕草は、驚くほど素早かった。


「……エリオ?」


 声は、いつも通りだった。


「こんなところに来るなんて、珍しいね」


 エリオは、苦笑する。


「小さい頃ぶりかな」

「昔、よくここで話しただろ」


 リーナは、少しだけ目を細めた。


「……うん」


 短い沈黙が流れる。


 村の音は、ここまでは届かない。

 代わりに、風の音が二人の間を埋めていた。


 エリオは、意を決して口を開く。


「……結局さ」

「約束、守れなかった。ごめん」


 リーナは、首を横に振った。


「違うよ」


 エリオが顔を上げる。


「約束を守れなかったんじゃない」

「まだ、途中なだけ」


 その言葉に、胸が少しだけ軽くなった。


 リーナは、遠くの村を見下ろす。


「竜に選ばれることは、ずっと憧れだった」

「だから、私はここに残る」


 声に、迷いはなかった。


「守り人として、この村を守る」

「それが、私の選んだ道」


 そして、エリオを見る。


「……行くんでしょ?」


 問いかけというより、

 ずっと前から分かっていた答えだった。


 エリオは、静かに頷く。


「ああ」


 少しだけ、言葉を探してから続ける。


「残れないっていうより……」


 そこで一度、言葉が切れる。


「残ったまま、平気なふりをするのが無理だった」


 リーナは、何も言わない。


「父さんも母さんも、優しかった」

「村の人も、思ってたほど冷たくなかった」


 エリオは、遠くの空を見る。


「なのに、ここにいると」

「自分だけ、もう同じ場所に立ててない気がして」


 喉の奥が、少しだけ詰まる。


「お前の隣で、一緒に守るつもりだったから」


 風が、二人の間を抜けた。


 もう、それはできないのだと。

 その事実だけが、胸の奥に静かに残った。


「この村で、竜に選ばれなかった者の居場所はない」

「……そう思ってる」


 リーナは、何も言わない。


 ただ、唇を噛みしめる。


「だから、別れを言いに来た」


 一瞬、沈黙。


 風が強く吹き、草が大きく揺れた。


 リーナは、溢れそうな涙を必死に堪えながら、笑った。


「私はね」

「この村を、ちゃんと守るよ」


 胸を張るように言う。


「竜に選ばれた者として」

「使命を、まっとうする」


 それから、少しだけ声を落とした。


「だから……」

「またいつか、エリオ」


 エリオは、息を呑む。


「あなたが見た世界の話を、聞かせて」


 それは、引き止めない選択だった。

 でも同時に、離れきらない言葉でもあった。


 エリオは、はっきりと答える。


「ああ」

「約束する」


 リーナは、ほっとしたように息を吐いた。


「……ありがとう」


「こちらこそ」


 二人は、それ以上言葉を交わさなかった。


 それでも、不思議と何かが欠けている気はしなかった。


⸻


 丘を下りる途中、

 エリオは何度も振り返りそうになった。


 けれど、振り返らなかった。


 代わりに、空を見る。


 広い。

 昨日より、ずっと広く感じた。


 村を抜け、外の道へ出る。


 その瞬間――


 風が、強く吹いた。


 冷たいのに、嫌じゃない。


 その風の中に、

 言葉にならない“何か”が混じっている気がして。


 エリオは、無意識のうちに一歩を踏み出していた。


 迷いは、まだある。

 答えも、分からない。


 それでも。


 今は、それでいいと思えた。


 ――こうして、エリオの旅は始まった。


 選ばれなかったまま。

 でも、自分で選んだ一歩として。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。