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第22話 それぞれの覚悟

 翌朝。


 ギルドの一室では、早くから激しい議論が続いていた。

 主張は噛み合わず、平行線をたどっている。


 空気が、張りつめていた。


「……あんな危険な場所に、エリオは連れていけない」


 ベルクが、低い声で言った。


「次でいいだろ。準備を整えてからでも——」


「ダメよ」


 即答だった。


 ルルカは、眉ひとつ動かさない。


「……不安にさせたくないから」

「あまり言いたくはないんだけど」


 一拍。


「厄災はね」

「危険を感じると――移動するの」


 ベルクが、眉をひそめる。


「……何?」


「過去の記録にもあるの」

「弱い人に強く、強い人には逃げる」


 淡々とした声。


「それが、足取りが掴めなかった理由よ」

「次に戻った時、そこに“いない”可能性が高いわ」


「しかしな……」


 ベルクの声に、迷いが混じる。


「万が一があったら、取り返しがつかない」


 そのやり取りを、黙って聞いていたギルド長が口を開いた。


「……危険な依頼になるな」


 一拍、置いて。


「だからこそだ」

「この判断は、エリオ本人に任せよう」


 視線が、エリオに集まる。


「ちなみに今回の捜索隊だが」

「Aランクパーティ――《黄金の鐘持ち団》に依頼した」


 ベルクが、目を見開いた。


「……あの、Sランク昇級間近の?」


「なら……うん、まあ」

「なんとかなる、かもしれませんね」


 少し間を置いて、ぼそりと。


「……ただ、癖が強いのが気になりますけど」



 その日の午後。


 エリオは、ギルドに呼び出されていた。


 午前中のやり取りを一通り聞かされ、最後にギルド長が言う。


「――てなわけだ」

「どうする?」


 机の向こうから、まっすぐな視線。


「この決断は、お前の意思を尊重する」


 エリオは、言葉を失った。


(……逃げたい)


 正直な気持ちだった。


 危険なのは分かっている。

 失敗すれば、誰かが傷つく。


(でも……)


 胸の奥で、何かが引っかかった。


(ここで逃げたら)

(もう、同じ場所には立てない気がした)


 顔を上げる。


「……行かせてください」


 静かな声だった。


 ルルカが、満足そうに頷く。


「よく言ったわ」


 次の瞬間。


「覚悟を選んだ子には、

ご褒美くらいあげたくなるじゃない」


「ヨシヨシしてあげるから、そこに座りなさい」


「……いや、それは遠慮します」


 即答だった。


 なぜか、その場に同席していたガルドが吹き出す。


「ぶっ……!」

「いや、子供魔女にヨシヨシはないだろ!」


 勝手に笑い出す。


 ルルカの眉が、ぴくりと動いた。


「ガ・ル・ド・くん?」


 にこり。

 笑顔だった。


 その手に、魔力が集まり始める。

 しかも、明らかにデカい。


 ガルドが、ようやく悟る。


「ル、ルルカさん⁉︎」

「いや、これは、その……深ーい、深ーい理由がありましてですね!」


「問答無用よ」


「ひぃっ!」


 ――ズゴン!


 次の瞬間、ガルドは床にめり込んでいた。


「ご、ごめんなさい……」


「素直でよろしい」


 その場にいた全員が、無言で理解した。


(……ルルカを怒らせたら、ヤバい)


 誰も、口には出さなかった。


 ――数日後。


 今回の件を受け、

 ダンジョン調査のための特別チームが正式に編成された。


「えっ」

「おれは……?」


 名簿を覗き込んだガルドが、間の抜けた声を上げる。


「出番なしなの⁉︎」


 ルルカは、にっこり笑った。


「留守番、お願いね」


 ガルドは、黙って天を仰いだ。


 ――次の調査は、静かに始まろうとしていた。

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