ようやく、出発してくれるのか……
「そろそろ魔王倒しに行きましょうか」
「おお!勇者よ、やってくれるか!」
地球からの召喚組とも話し合い、失踪してスレスレ元の生活にダメージを与えない期間を一週間としていた。
よって、一週間で帰るというのは決めていた。風邪で寝込んでいて、という理由に説得力があるうちに帰りたいという要望が大きかったからだ。
女性陣からはトイレが水洗じゃないから早く帰りたいという意見も出ている。これには賛成。水で蓋してないとかなり臭うのな。特に肉多めの食生活してると。俺は普段はコンビニの弁当が多かったから、一応それなりに栄養のバランスはとれていた。けれど、こっちに来てから肉の量がドカンと増えた。米がないしパンが固いんだ。そういう事情もあって、そろそろ帰りたくなってきた。
まぁ、大量の魔力を余分に使えば、召喚された時間に戻ることもできるっぽいのだが、その為に大量の魔石を貯めるとか二年待つなんてのは、召喚組も王国組も望んではいなかった。
「勇者たちよ……ようやく、出発してくれるのか……心から感謝する」
「それは魔王を何とかするからですか、それとも無茶振りが終わる事に対してですか」
「もちろん、わけのわからない大騒ぎがなくなるからですよ。魔王も倒してもらえれば本当の意味で平和になります」
グリンボルさんはマジで本音でしか話さなくなった。こんな正直者になっちゃって、これから王様の傍で仕事していけるのだろうか。
召喚組としては、魔王と戦うつもりなんてなかったのだが、この一週間かなり王国のみなさんに迷惑をかけた自覚がある。
俺だけじゃなく、この世界の民族衣装などをいろいろ見せて欲しいと言ったら貴族の娘さんを集めたファッションショー大会になってしまった馬曽利さんや、甘いものがなくて文句を連日言っていたらかなり高額な季節外れの果物を用意してもらった犬養さんや、城の堀で古流泳法を披露しようとして肉食水蛇に群がられた九堂さんも、かなり引け目を感じているようなのだ。
それに、何度か戦闘を経験して、【無双】の鉄壁の防御力、【気功闘法】の圧倒的な攻撃力、【癒しの手】の瞬間完全回復にかなりの自信を持っているという事もある。
つまり、魔王余裕なんじゃね? って事だ。簡単にやれるなら負い目を気にする事も無くなるし、やってしまおう、と。そんな油断と慢心をしているのです。
おっさんと俺には、ちょっと別の意味で魔王にあってみたい理由っていうのができているのだけどね。魔王が攻めてきた理由ってのを問い詰めてみたいんだ。
~~▶▶| 早送り ▶▶|~~
ワイバーンに籠を運ばせる輸送兵という兵科が騎士団にあったので、魔王領のど真ん中まで運んでもらう。
竜に乗ったというにはちょっと苦しいけど、チェックシートの『竜に乗って空を飛ぶ』にチェックを入れる。
「ねぇ、気になってたけど、そのチェックシートなんなんですか?」
「異世界転移したらやってみたい事リストだよ。呼ばれました、帰りましたじゃ詰まらないだろ。せっかくだからいろんな扉を開けたい」
「その『説教する』とか『乗り物の屋根の上で戦闘』ってこっちの世界じゃなくてもいいんじゃないですか?」
「茜ちゃん、男には浪漫が必要なんだよ」
おっさんの理解力には目を見張るものがある。俺が紙に書き出した「やってみたい事リスト」を実現できたのはこの人の力なしには不可能だった。
この人の発想と対応力、そこに【真偽鑑定】というガチのチートがあったからこそ、気が付けた。
そもそも魔王領に攻め込んだのは王国側。そして生存の為の必要な戦いじゃないって事は最初の自己紹介の時にわかっていた。
じゃあなんなのかっていうと、侵略でしょう。魔王領には王国の欲しいものがあって、それを奪い取りたいわけです。
魔物を倒すと魔力を貯められるとは聞いたけど、その為に異世界召喚に魔力を使ってしまうのは本末転倒だ。
なら、いったい何が奪いたいんだろうっておっさんと話していて、魔王領ってのは魔物蠢く地ではなく「支配する価値のある領地」なんじゃないかって発想が出てきた。あとは雑談に混ぜた情報収集でいろいろ知ることが出来た。
鉱山があるとか海があるとかじゃない。昔は荒れ果てた死の大地と呼ばれていた場所を魔物が開拓し治水工事し、広大な食料庫に変えたようなのだ。
って言うことはですよ。知性のある存在が統治してるんだよね。国家としての形を成していないとしても。じゃあ、会話とか交渉の余地あるんじゃないかな、って。異世界から強力な傭兵を連れて来れるってのは見せ札には充分だろうし、講和のテーブルを準備してあげられれば、グリンボルさんが有利な条件でまとめるだろ。
魔物ならともかく、知性のある生き物への暗殺はハードル高い。魔王の殺害以外で、俺たちにできる精いっぱいと考えるとこんな所だろう。
宇代君と他の人は苗字呼びなんだけど、
それ以外のメンバー同士はどんどん打ち解けてて名前呼びなんだぜ